事実は小説を基に奇なり
口山大輝
妄想とは
人間には妄想力という思考方法がある。想像力とは似て非なるもので、物事を文字通り想像するのがそれであるのに対し、妄想力とは真を偽と考え、偽を真と捉える力のことである。
例を挙げよう。ここにモテない男子高校生がいる。これは想像力によって存在する架空の人物であり、いわば偽が生み出した偽である。
この偽を真と捉えよう。この男子高校生は君だ。君はバスに乗車した。スマホケースに入っているICカードをタッチし、二人掛けの座席に座る。君は窓側に腰を掛け、通路側にスクールバックを置こうとした。が……
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「すいません……」
「あっ……すいません」
謝罪に謝罪で返すという何とも日本人らしい対応をしながら、先程まで隣のスペースに置こうとしていたスクールバックを自分の足元に置く。特に満員乗車なわけではない。なんなら一人掛けの座席が空いているくらいだ。
そんなバスの車内。彼女は一人掛けの座席でもなく、最後列の五人掛けの座席でもなく俺の隣を選んだ。
「何年生ですか?」
隣の彼女はそう問いてきた。恐る恐るというよりも、興味津々といった表情で。
「2年ですけど……」
「あっ!やっぱり。廊下で見たことあるなと思ったんだよね」
「え……あ……そう、ですか」
いきなり、なんの前触れもなく敬語をやめるという上級テクニックを披露しながら彼女は質問を続ける。
「てか、数学の土屋マジでウザくない?」
「土屋先生ですか?」
「こないだ、休み時間にTwitterしてたら土屋に見つかって没収。別にスマホで犯罪してるわけじゃないんだし」
会話のキャッチボールが苦手なのはどうやらお互い様のようだ。俺は口を開くのが苦手だが、彼女は耳を傾けるのがダメ。
その後も俺は目と耳は彼女に向けたまま…目に関しては、彼女を視界に入れると表現したほうがいいのか。ともかく俺は、小さい相槌とこれまた小さいリアクションを武器に彼女の会話? と闘った。
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