第12話
こんなことなら、昼間にもっともっと大切な話をしておくんだった。
最後に話したことって、本当にいつもの2人の会話だった。
「いろいろごめんねー。頼むよ。」
「謝ることじゃないよー。大丈夫、大丈夫!」
「でもホント、寝たままトイレとか、大変だよ。」
「そっかー、そうだよね。どのくらいの入院になるのかね。慣れないと便秘になっちゃうね!とりあえず、一旦家に戻って、着替えとか
いりそうなもの持ってくる。洗濯物とかもあるし」
「ありがとう!頼むね。運転気を付けて!」
私は、明け方の病院でそんな会話を思い出しながら、両親や近しい親族に連絡をし、諸々の手続きをしていた。
病院からの帰り、夫を葬儀社へ安置するか自宅へ帰宅させるか迷ったが、最近はご近所とのことや家の間口の広さなどもあり葬儀社が一般的と聞き、葬儀社へ安置することにした。
1人で家まで車を走らせながら、ふと、あの朝ごく普通に出勤して行った夫は、当然家に帰ってくるはずだった…と思った。家に帰りたかったに違いない、今だって、きっと、家に帰りたい気持ちでいるはず…。そう思ったらいてもたってもいられず、車を路肩に停めると、葬儀社に電話をし、申し訳ないが、やはり自宅に来て欲しいと告げた。
ひと足先に家に戻った私は、感じたことのない重さで玄関の扉を開けた。
家の中は、いつもの風景だった。
夫と私の靴、夫と私の洗濯物、またすぐ着るからと軽く掛けられた夫の上着、夫がまた続きを読むからと机に置いたままの会報誌…
突然に断たれた日常が、そこかしこにあった。
でも、私には、この景色が本当で、夫がもう戻ってこないということが嘘のように感じていた。
10年後、あなたの前からいなくなるとしても @harusora1115
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