第11話

夜、早めの夕飯と入浴まで済ませて病室に戻った。夫はもう眠っていたので、そのまま隣に簡易ベッドを広げて横になった。


1時間ほどすると消灯になったが、そんな状況で眠れるはずもなく、私は薄暗い部屋のなかで夫のシルエットを見ながらいろいろ考えてしまった。


食事をもっと気を付けてあげればよかった、

最近疲れていたのかも…早く気づいてあげればよかった、

とりあえず、無事でよかった、

でも障害も心配…

帰ったら家も使いやすくしないと、掃除も。

入院、パジャマ買い足さないと、足りないかな…


そして、いつの間にかウトウトしていたようだった。


けたたましい電子音と、バタバタと人が廊下を走る足音で飛び起きた。


まさかの、急変。


ものすごい早さで私の寝ていたベッドがしまわれ、機器と病院のスタッフとが夫を取り囲んだ。

私は、無我夢中で人と器械の隙間から夫の手を握り、名前を呼んだ。


呼び続けた。


モニターの音が、夫がいなくなったことを告げても、名前を呼び続けた。


手を握り、祈った。

戻って来る、絶対に。

こんな急に居なくなるなんて、思ってもみなかったから。


でも、夫は、戻って来なかった。

あまりにもあっさり、いなくなってしまった。


必死に祈る私の手の中の、夫の身体から魂が抜けるのを、どうすることもできなかった。

残酷な、瞬間。


全部、嘘みたいだった。

まだ、私、眠っていて、これが夢だったらいいのに。

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