第8話
彼女と2人での穏やかな生活に、俺は満足していた。
俺の年齢からすれば、年若い妻なのだが、世間で言う女子力とやらにあまり囚われていない人柄のためか、近所の親戚や煩わしい地域の組合の面子にも無理なく溶け込んでいったように見えた。
親戚や近所と、俺の間に絡まりついていた目に見えない糸のようなものは、彼女の働きによりいつしかほぼなくなっていった。
家を建て直す際に、子どもを授かることがあればと用意していた部屋は、長らく来客の宿泊部屋のままだったが、俺の妹一家や、彼女の家族がしばしば利用し、賑やかな週末も多かった。
一度、2人でこれからの家族設計を話し合ったことがある。
ふと周囲を見渡すと、進学、就職、結婚、育児、生きがい…、次から次へとそんなタスクをクリアして生きていかなければならないような空気をひしひしと感じる時がある。
俺たちは、2人で今を大切に生きることを決めた。
今の生活に満足しているなか、次のステージを無理に望んで意識することは、2人の生活から輝きや温かさを奪ってしまうのではないか…そんなことが頭をよぎったのだ。
年に数回ハワイや近隣のアジアの観光地を旅行したり、国内の温泉やスキー場などを訪れては、2人でたくさん食べて、買い物をして、笑った。
自宅の庭にやや広めの家庭菜園をつくり、季節毎に苗植えや収穫を楽しんだ。
ただただごく普通に、日々の生活を営む年の差夫婦。
そんな日々に、俺たちは、とても満たされていた。
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