第7話
もう一度、誰かと穏やかに笑って、ごく普通の日々をただ質素に過ごす、というのは、ささやかな願いだと、俺は思う。
だが、その向こう側への壁は、俺にとっては信じられないくらい厚いものだった。そう、何年も。
その壁に、突然ヒビが入ったのだ。
その人は、どんなつまらないことにも、丁寧によく笑う人、というのが俺の最初の印象だ。
思いやりのある人なのだろうと思った。
いかにも可愛いらしいというタイプであれば、きっと周りの男も放ってはおかなかったろうが、どちらかというと母性を感じさせるようなタイプの彼女は、なかなかその良さを評価してもらいにくい年齢だったと思う。
と、いうのは、あくまでも俺の勝手な推測だが。
何にしても、俺は、職場の先輩の勧めで通い始めた英会話教室の講師に惹かれた。
彼女の振る舞いをみていると、俺は自然と穏やかな気持ちになった。
仕事をして、家に帰って、何でもない話をして、こんな風に笑ってもらえたら…疲れもぶっ飛ぶだろう。
俺は、元来の積極性を取り戻し、彼女と親しくなろうと動いた。
ようやく、2人で食事に行くことを口にできるまでの距離になり、付き合いたいと思っていること、可能であるならば、末長く一緒に過ごしていきたいと思っていることを伝えた。
必死に。
彼女にも希望する人生設計があり、そこに俺はそもそも組み込まれていないのだから、必死だった。
より深い付き合いをしていくうちに、おこがましい話だが、俺となら、彼女もその優しいところを無理することなく発揮し、心穏やかに生きていくことができるのではないかとさえ感じ、俺はますます本気になった。
そして彼女は、人生の設計図をおそらく書き換えて、俺と一緒になることを選んでくれた。
本当に、人生諦めたもんじゃない。
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