第6話

俺の人生に、またこんな暖かい日が訪れるとは、人生諦めたもんじゃない。


28歳でした結婚は、趣味が同じもの同士、お互いの自由も大切にしながら活動的に日々を過ごしていたつもりだった。

いつしか、その自由は、自分が相手のために尽くす幸せを、忘れさせていた。


俺の両親が相次いで倒れ、介護が必要になった時、俺と相手は、お互いの大切にしたいものが大きくずれていたこと、もはやお互いを思いやれる関係でなくなっていたことに気付かされた。


そんな重い空気を吸いながら、それでも事態が好転するような積極的な変化もうまく求められないまま日々を過ごしているうちに、両親は亡くなった。

親孝行も十分にできないままだった。


俺のポッカリと空いた心の穴は、穴の形すら維持する力も出ないままに、サラサラと崩れおち、俺と相手は、あっさりと離婚という結末を迎えた。


それからの日々は、あまり思い出したくもない。

地元に親族が多い家柄であったため、しばらくの間は、俺の人生の家族設計は親族の格好の暇つぶしの憂いの種となった。


俺と相手は、もともとお互い自立して生活ペースをつくっていたこともあり、家事やら何やら物理的に行き詰まることはなかったが、すべて1人でやることが前提というのは、憂鬱だった。


近所のスーパーへの買い出し、なんでもない休日の過ごし方、家具の組み立てや大きな買い物の判断、何をとっても味気なさを感じてしまい、溜め息が出た。


また戻りたいというわけでもないし、

違う選択ができたとも到底思えないし、

自分で選んだことなのだから、

口が裂けてもサミシイとは言えなかった。


ヒトリニナッテサミシイと思うことすらはばかられ、ひたすら「無」を貫いた。


その結果、また誰かと巡り会う機会を探すことも避けていたように思うし、周囲からもそう思われていたと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る