第2話 私というモノが産まれたと言う話を話した話
検査が終わり、父は故郷・鹿児島に住む祖母に私が産まれたと報告の電話をしたらしい。
当時、電話をかけるのは深夜の割引時間でもバカ高かったらしい。
大学卒業 初任給 男子 = 3万6700円 女子 = 3万0700円
タクシー 初乗り基本料金 130円
国鉄(現在のJR)初乗り30円
定形普通郵便15円
そんな時代に電話料金市内3分10円
埼玉から鹿児島までは長距離電話になるので公衆電話だと昼間は10円で2.5秒。
滅多なことでは電話なんてするモノじゃない時代。
喜び勇んで報告をしたので在ろう。
しかし、それに返ってきた祖母の答えは「〇〇さんげー〇〇さんが亡くなった」だったらしい。
『おめでとう』も『良かった』の一言も無かっただとか。
亡くなったのは父の一番上の姉が嫁いだ先の祖母だか曾祖母だかだとか……父にとっては一度も面識もなく、見ず知らずの他人である。
その人物の死が自分の子供が生まれた喜びに祖母の手により冷や水を掛けられた気がしたんだろう。
亡くなった人の葬式のことばかり話す祖母に父は何も話さず電話を切ったとか。
私は父が酔うたびに幾度となくこの話をするので幾度となく聞かされた。
ごくごく普通のありふれたエピソードのハズが父の記憶には忘れられない悔しさと情けなさともに在るらしい。
自分の親から向けられた言葉だから尚更なのかもしれない。
私が高校生になったとき、祖母にこの件を聞く機会があったので問うてみたのだが、はぐらかされた。
大正生まれの祖母は、20年ほど前に亡くなったので当時何を思ったのか今となっては完全にわからないが、なんでそう言う対応をしたのか覚えてはいたので、何か思うことがあったのは確かだろう。
昔の人は気にくわない時は、今の私たちみたいに暴露するのではなく、はぐらかすスキル持ちなのか?と私は受け取ったから。
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