[短編(オリ)]名も亡き者たち

 声が聞こえる。耳を両の手で塞いで、その中に耳栓があったとしても、びりびりととした声が聞こえてくる。

 許さない。敵だ。警報を鳴らせ。起きてよ。

 決して彼らは、そこにいるわけではない。ただ、浮かんでいる。さ迷っている。

 殺せ。殺される。助けて。

 悲鳴が、耳の中で、こだまする。

 いい加減、いい加減、慣れた。鼓膜が震えてるわけではないみたいで、隣の人の声も、遠くからの呼び掛けも、聞こえる。

 じゃあなんだろう、この声は。

 誰も気にしていないこのやり場のない言葉たちは。

 ずっと気になってて、訊いたことがある。この声が誰にも聞こえていないことを、なんとなく知って、

 ここらへんって、戦場だったのか、と。

 それは大層昔のこと。小さな紛争があったらしい。その通称を教えてもらって、調べてみれば、まぁ、そんなに情報は出てこない。あくまでも概要だけ。この声たちのことなんて、誰も気にも留めていない。

 助けてください。敵が来る。隠れろ。

 今もなお、聞こえてくる。聞こえる理由も気になるけれど、助けることなんてできないんだろうな、となんとなく思ってる。


◆◆◆◆


 地縛霊。幽霊の一種ですが、では幽霊とはなんぞや?

 こう、自殺したら幽霊になる、なんてことはよくありますが、戦死した人も、なきにしもあらず。しかし気になるのは、なんで戦死した人っていうのは何百人といるはずなのに、霊はそれほどいない、とされること。

 何でなんでしょうね? 収拾がつかなくなるからでしょうか。それともほとんどの人間は死ぬとき、後悔も何もしないのでしょうか?

 そんなことはないと思いますけどねぇ。生きていても未練たらたらなのに、死してそれが成就するなんてありえませんし。

 そういうテーマのオムニバスもいいかもしれませんねぇ。戦場カメラマンならぬ、戦場参拝者というか、傾聴者といいますか。

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