[短編(オリ)]其姿不見

「おまえのことは、よう聞いとるよ」

 なぜか安らぎを覚える声音に、緊張が弛む。

「しかし、今、おまえさんはどこにおるんじゃ。使いを出しても、一向に帰ってこんでなぁ」

 闇の中から続く、仕方ないからと糸を繋げた、という。明らかに人あらざるもの、ということだけは分かるのだが、それだけだ。何者で、何なのか。そこまでは、分からない。

「健在そうで、なにより。知らせをよこせ、とは言わんまでも、使いに姿を見せてやっておくれ。では、おやすみ」


 妙な夢だな。

 ありがちな、意味深な夢だ。ただの夢だと思いきって背筋を伸ばす。起き上がって、まだネムイゾ、という主張をいなす。

 鼻先に、なにかが触れた。なんだと触れて、よくよく目を凝らしてみれば、糸があった。服を作るためのやつではない。もっと細くて、粘りけのあるやつだ。

 糸を繋げた。

 夢の誰かがそう語って、いたはず。

 近くにこれを張った主でもいるのかと思いあたりを見渡したが、ひっそりと、動かぬものは居なかった。


◆◆◆◆


 蜘蛛、見ませんねぇ。

 引っ越してから蜘蛛を見ないんですよ。

 以前いたところでは冬でもユウレイグモを時々見たのですが、こちらでは外でも中でも、全然いないのです。

 もちろん冬だから、はありますが、秋口にも見ませんでしたからねぇ。どこにいるのでしょうか。住宅街だから? それとも近くに公園とかないから?

 アシダカグモ氏は、冬はどう過ごしておられるのでしょうかねぇ。冬眠とかするのか。

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