[短編(オリ)]ある者の語り
ある村の一軒家にて、男女が二人。
「なんでこんなところで、きこりなんてやってんのよ」
安物の酒をテーブルに乗せ、どっかりと座っている男。
「じゃあ、俺がきこりしちゃいけない理由でもあんのか?」
小さなカップにはじめの一杯。女はいたって真剣な眼差しで、無愛想な男をじろじろと見つめている。
「あんたがこの世界に平和をもたらした勇者、英雄なんでしょ? その手柄を横取りされてくやしくないの!?」
質の悪い酒は、香りさえも鼻につく。
「別に、くやしくなんかないさ。たまたま、王女の隣に座ったのが、俺じゃなくて名乗りをあげた勇者だった。憎らしくはあるが」
ぐいとあおり、深く大きなため息。
「だったら、ぬくぬくとしてるやつに決闘でもなんでも申し込んで実力でねじ伏せればいいじゃないの。勝てるでしょ?」
それはちがいない。男は眉を寄せる。
「でも、それがどうした? 勇者は、多くの国民が帰還してるのを目にされている。つまり、それに挑んだ時点で俺が国賊。しかも、そんな前例を作ろうもんなら、国家転覆も簡単にできるようになるだろ」
あいつが王女を娶った時点で勝ち逃げされてんだよ、と虚ろな視線。
「そんなのおかしい。だって真実じゃない」
女は引かない。
「勇者はたしかに、王女の目覚めと共に帰還し、その証人を多くの作り出した……これが嘘で塗り固められたものだったとしても、虐殺を繰り返してた魔王がいなくなったのは、事実で、王女は眠りから帰還した。そこに名もない功労者がいても、史実からは消されるだけなのは、明白だろう?」
理不尽な。
「折角、命を懸けたってのに、これだ。全部奪われて、仲間は全員死んで、証人も残らない。笑えよ。こんなほらふきに付き合ってるだけ時間の無駄だ。さっさと、帰れ」
自身を嘲笑って、またあおる。どんどんと迷走していく彼の言葉に、女はその場を後にした。
◆◆◆◆
こんな感じのエピソードを考えてるんですけど、結末を迷いがちなんですよねぇ。
ハッピー? デストロイ? ニュートラル? デッドエンド?
地盤はあっても導けない。そんなことってありますよねぇ。こういうときは熟成するに限るのですが、いつまでも美味しいワインにはなりませんなぁ。困った。
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