[短編(市場)]指名手配4

「そもそもが、変じゃないか」

 そう口にするのは、食に興味などないといわんばかりに保存のきく乾物をかじっている、立脚類の土竜だ。

「え、なにがだよ。ラクリのことさ、なんか変なやつに喧嘩をふっかけたとか、あると思うよ?」

 そう悪い噂を口にするのは、先刻、とある宝石店の裏口を叩いた青い竜。泊めて、と積もる話もなしに出迎えた山飛竜は、いいよ、と二つ返事。その二人は適当に戯れていたのだが、飛竜が飽きて寝付いてしまってからのことだった。

 ことのあらすじを店主に話すと、そう疑問を呈したのである。

「まず、そこに書いてあるのは、樹海の魔女、を探してるってことだ。ラクリ・エストじゃない。つまり、名前は知らないが、樹海の魔女ってことは知ってるわけだ」

 それくらい、知っている。紙には魔女を探しています、ということだけだ。

「おかしくないか? 樹海といえば広いが、ここでは一ヶ所しかない。しかも、お前を除けば、誰も立ち入らない場所だ」

 それも、市場に住む者の常識だ。

「あいつの名前を知らなくても、指名はできる。だがそれなら、そんなものを出さずに樹海に踏み込めばいいだろう? お前とあいつしか住んでいないなら、何回か分けて住処を探すことだって、できるだろうが」

 つまり、と首をかしげる青に、店主は一杯の水をのみ干して、

「手配書を用意するメリットが、ない。そこらに潜伏してるやつを探すなら、網を張れる。だがそこにいるってことが分かってるのに、わざわざ広げようと思うか?」

 と締めくくる。

「ギルの言いたいことは分かったよ。なら、これはなんで貼ってあったんだよ」

 すでにどこにいるか、が割れている以上、無駄に網を広げたって意味はない。ならば?

「さてな。だが、変であることは確かだ。騎士もヴィークのやつも、心当たりがないんだろ? ただで捕まるようなやつでもないだろうし、近くで様子見をしていればいいんじゃないか?」

 この複製されたうちの一枚が、何を意味するのか。青は納得のいかない、ありもしない魔女の烙印を、じっと眺めながら、その日は眠りについた。

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