[短編(市場)]指名手配3

 市場に唯一いる、四脚類の青い竜はその日、帰宅することをしなかった。というのも、もう一人の情報通の居場所を探していたからだった。

 案内人である黒猫は、この広大な市場で、てこてことどこかに出没する。その姿を追いかければ、尋ね人はこの先に居る。もっともこの話は、その尋ね人が許した者だけが知りうることであり、彼もまた、口外しないよう、不吉の知らせを探している。

 この窮屈な通りで、彼にとっては子供以上に小さな姿を見つけることは、普通に考えれば困難である。だが猫は猫らしく、そんな場所を好んで通るはずがないのである。

 少しだけ視線を上げて、通れそうな場所に目星をつける。邪魔にならない場所で伏せて、いつ通りかかるのかを探す。

 騎士のもとから離れてすでに、それなりに経過していて、諦めようかなぁ、とぼやいたそのとき、ひらりと通りがかる黒猫の姿が。

 ちらりと彼の方を見た気がするが、その瞬間、彼は立ち上がる。


 猫を追いかけ、見失わずに。たどり着いたのはどこだか分からぬ、扉一枚だけある袋小路。

「レノ、ヴィークを呼んできてくれる?」

 だがそれは、あくまで立脚類か、それより小さな者たち専用の門扉。通れるはずもない青年は猫にお願いすると、また隅っこで腹這いになった。

 間もなく、猫を背中に乗せた黒犬が、堂々と歩いてくる。だがその前肢の片方は、白く、無機質なものである。

「どしたの、その脚」

 彼はもちろん気になるのだが、

「気にしないどくれ。ちょっとしたドジさ」

 しばしばおぼつかない足取りで、彼の隣に。

 さて本題だと、竜は手配書を差し出す。なんだってんだい、と首をかしげる黒犬はその内容を追うと、穏やかじゃないねぇ、と目を細めた。

「心当たりはないねぇ。ここにくる荒れたやつも、こんなのを用意するような知恵を持ち合わせてないさ。もしかしたら、別のとこのやつが作った可能性はあるだろうけど、シラを切られるのがオチだろうねぇ」

 彼女は、市場の裏の商売人の、あくまで一人。

「見つけたのはこれ一枚かい? 同じものがないか探してみたかい?」

 いいや、と首を振る。

「じゃあ、探してあげるよ。もし組織だったものならあちこちにあるはずだし、個人なら、数も少なくて、人通りの多いところにしか貼られないはずさ」

 それだけでも分かれば、対策のしようはあるよ、との助言に、竜はお礼を言って、その場をあとにした。

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