[短編(市場)]指名手配2

 みるみるうちに、暗い昼間から眩しい夕方、誰そ彼と影伸びる景色を噛み締めることなく、青い竜は、いまだ人の引かぬ建物を訪問する。

「インスいる?」

 数人の門番が顔を見合わせるも、誰もが首を振る。ここも外れか、と肩を落とす彼にかかるのは、一筋の光明。

「デイル隊長の弟の、インスですよね? 今日はあっちの詰所にいるはずですよ」

 門番の一人がそう、教えてくれる。その方角を見据えて、ありがとうと言い残してまた歩き出す。

「それで、何の用でしょうか」

 彼の言う通り、一般騎士の一人はそこにいた。ここまで何件回ったと思ってるんだ、と疲れはてている竜は、青年に件の紙を手渡した。

 視線険しく、じっとなぞる視線は、ふと上げられたときには、いつもの柔らかいものとなる。

「樹海の魔女……身内の心配は結構ですけど、もしこれが、騎士が発行したものだったらどうしていたんですか?」

 それは絶対にないね、と断言すると、それはもちろん、と青年は微笑む。この兄弟は竜たちのことを知っているし、なんなら、兄は必要ならば、身内びいきなどせずに、すぐに行動に移すはずなのである。

「ええ、もちろん。見たところ、そんないい紙でもないし、ラクリさんに私怨がある、としか言いようがありません」

 もちろん、矛先を向けられている当の本人は、売られた喧嘩は、余力があれば買うだけの実力はある。しかし揉め事は、初めからないに越したことはない。

「こっちでも調べておきます。ダンジョン洞の常連ですし、傭兵の線もありますから、一人でどうこうしないでくださいよ?」

 僕はそんな無鉄砲じゃない、と胸を張る竜。誇れることじゃないでもないような、と苦笑いを浮かべた騎士は、張り紙を徴収する。

 何かあれば手紙でもなんでも、連絡するよ、と約束をして、二人は別れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る