[短編(市場)]指名手配

 いつものように樹海に立ち入る青い竜。前肢と後ろ脚を互い違いに動かして、太い根っこも落ち葉も、全てを難なく乗り越えていく。

 するする、とはいかないが、のったのったと、木々をくぐっていく。

 やがてぽつんとたたずむ小屋、もとい彼の住処にたどり着き、出入り口の布をくぐって一言、

「おーい、いる?」

 すぐそこにある階段に向けて叫ぶ。まもなく、

「何よ」

 と答えが来て、さらに応えることは、何したんだよ、と。

 呼びあいだけでは埒が明かないということで、二階から降りてくるのは橙の竜。面倒そうに、食卓の定位置につく彼を睨み付けて、それにならう。

「これ、読んでみなよ」

 相対する直後に示されたのは、差し出された1枚の紙。ざらざらとした手触りの安物に、さして興味の無さそうなのは変わらずに、

「樹海の魔女の、指名手配……賞金はそれなり、ね」

 と内容を読み上げた。

 そこには絵もなにもなく、樹海の魔女を捕らえよ、ということだけが書かれていて、ともすれば、道行く読める者々にとっても、気に止めることはそえそうないだろう。

「いや、だから何をしでかしたんだよ。場合によっちゃ、つき出すよ?」

 青はいぶかしむような視線をやって、赤はじっと紙に視線を落としていて、裏返した。

「何もしてないわよ。これ、そもそも公式なやつなの? 騎士の詰所に私が行っても、いくつか質問されて終わりじゃないかしら?」

 よくよく見やれば、単に彼女を探している、ということとどこに連れていけばいいか、以外の情報は一切ない。道端の張り紙にそんな情報はないだろ、と反論してみるも、

「こういうのは、じゃあなんで探しているのか、を書くでしょ。感謝を言いたい人探しなら経緯、凶悪犯なら事件の名前。たぶん、個人的な恨みとかそういうのじゃない? これは」

 そう、つまりはただの紙切れだ。そう結論付けた赤は、すっと立ち上がって二階へと戻っていく。取り残された青は、改めて自分が剥がしてきた紙を引き寄せて、

「うーん、インスとかに訊いてみるのが早いか……」

 そうぼやいて、まだ陽も高いからと、のそのそと小屋を後にした。


◆◆◆◆


 ラクリさんが魔女ならリエ君はなんだろう。使い魔、ではないのは間違いない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る