[短編(オリ)]今日は、そういう日

 人気のない場所に踏みいる一人。特に特徴もない服で、いくつも並ぶ、低い石の柱の間を通り抜けていく。

 誰もいない墓地。とはいってもれっきとした、遺族のいるものたちである。いまはただ、オフシーズンというだけで、一人だけ、あるいは一家庭だけがお参りに来ることも、そう珍しいことではない。

 その人は、奥の奥にある一つと向かい合った。手には水をたたえたバケツと、杓子に線香など。

「久しぶり」

 一年ぶりだと続けて、

「もう何年だろう」

 指折り数えることもせず、バケツを置く。

「帰ってきてないかもしれないけど、いいじゃないか。それとも、他の人たちに見栄を張りたいとでも思うのかい」

 水をかけて、砂埃が貯まっているところには、重点的に。

「いいじゃないか。一年に二回も掃除してもらえてるんだから。仏様が贅沢を言うもんじゃないよ」

 およそきれいになったなら、次は線香を。

「あんたがいなくても、こっちのことは見えてるだろ? お盆だけ戻ってくるとか、旅行かっての」

 細く立ち上る煙が消えて、特徴的な香りが鼻につく。

「じゃ、また来年。生きてればまた来るよ」

 にこりと笑って、墓石を視線でなぞる。

 そこには日付があって、明後日のことを示している。

「また、今月の第二週に」

 そう言い残して、墓地には誰もいなくなった。

 霊も何も、今は明るい眩しい、昼間である。


◆◆◆◆


 記念日って、記念日じゃないですか。日付を指すじゃないですか。第何週何曜日を記念日にするっていう考え方ってないじゃないですか。

 あるとしても変動する祝日あたり。


 たしかに毎年日付が変動したら、今年の記念日は何日だよ、とか考えないといけませんからね。それは面倒です。だから記念日、というものは特定の日付を指すのでしょうね。

 でも折角あるなら、そういう記念日の作り方してもいいんじゃないかなぁ? その日は絶対にここに行く、とか。

 そういうことをネタに短編を作れそうなのですが、どんなものがいいですかねぇ。そのうちの一つが墓参りでした。

 お盆、命日に限ってやってくるのではなく、第何曜日、を基準に墓参りをする人っていう。変人ですかねぇ。そうでしょうねぇ。

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