[短編(市場)]あ、行き倒れだ5

 夜の樹海は迷いやすい。それは、昼間以上に方向感覚を失いやすいうえに、一気に冷えてしまうからだ。

 だからこそ夕暮れ時、リエードはするり、するりと根っこや樹を避けながら歩いていく一方で、時折立ち止まっては振り返り、待ってよ、と精一杯体を小さくしながら追いかけているシェーシャがいる。

「君、よく川まで行けたね? もっと先なのに」

 彼が聞くところによると、樹海のどこかに、妙に開けた、樹のない場所があるという。そこに着地して歩き回って、水の匂いを追いかけたらあそこにたどり着いたそうな。

 運がいいのか悪いのか。そう呟くリエードに、よかったんじゃないかな、と楽しそうなシェーシャ。

 そうこうしているうちに、彼女にとっては二回目の小屋にたどり着く。すっかり暗くなった木々の間にぽつりと灯る明かり。

 もう帰っているんだろう、と彼はシェーシャの到着を待ってから、その暖簾をくぐった。

「ラクリー、ちょっといい?」

 ひとまず頭だけ。そこには、昼間見かけた竜の姿が。

「おまえは……」

 相変わらずの鋭い視線に、思わず一歩下がる青年の隣から、ひょこりとシェーシャが真似して頭をのぞかせる。

「ギル!」

 明らかにはずんだ彼女の声に、

「シェーシャ!」

 彼もまた目を丸くして、勢いよく立ち上がる。そしてずんずんと大股に歩き出す威勢に、リエードは後退り、屋外へ。

「どこに行ってたんだ! 市場で待ってろって言っただろう!」

 彼女の頭を左右からはさみこみ、じっと眼を覗き込む。泳ぐことのない目は、静かにぶつかり合う。

「ギルが遅いから悪いんでしょ! いつまで経っても来ないんだし!」

 互いに牙を剥いて、

「思っていたより大きかったんだよ! 俺だってこんな遅くなるとは思ってなかった!」

 しかしそれは単に、互いを想っているだけで。

「あんたが連れてきたの? あの子」

 わいのわいのと続く言い合いにぽかんとするリエードの隣に、いつの間にかラクリがいた。

「うん。ヴィークさんに教えてもらった川に行ったら、ね」

 どうやら木屋の裏へ、薪を取りに行っていたらしい。

「こっちは、市場の近くで拾ったわ。妙な巡り合わせね」

 そうだね、とリエードが笑っても、ラクリは澄ました顔で、

「あの二人には泊まってもらうとして、どうしようかしら。お腹も、すいてきたわね」

 まだ続く二人の旅路の途中を、眺めていた。

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