[短編(市場)]フライドフード

「鍛練が足りんぞ。我が子ながら情けない」

 長く、ゆっくりとしたため息をつくのはエルディで、相も変わらず、その前でへばっているのはリエード。

「はいはい。父上はお強いことで……間に合うかなぁ、宴までに」

 よろよろと立ち上がる我が子を支えることもせずに、どうだかなぁ、と渋い顔。

「そもそも、体力がないのが問題だな。すぐにへばりおって。貧弱にもほどがある」

 リエード自身は、そもそもが戦いとか、そういったことは苦手である。それでも宴に参加したい、というのは、彼女への、ただの見栄である。ただ、参加人数を満たすために、たまたまやってきていた二人を巻き込んでいるだけであって。

「どうせ、僕は貧弱だよ。みんなみたく、強くなろうとか思わないし」

 大儀そうに起き上がる息子を一瞥して、帰るか、と尋ねると、そうしよう、と歩き出す。

 しばしの、他愛のないやり取り。ジーダとの関係、はたまた、ラクリや、王様にまつわる話。どれもこれもこれといった結論も、オチもない、ただのよた話。

 途中、珍しく人通りの少ない道で、点々と、明かりをともす屋台が見えた。グゥとは鳴らないものの、そのうちの一つにリエードは駆け寄った。

「二つ、ちょうだい? 代金はここから」

 店主に首もとの鞄を指し示して、代わりに手渡されたのは、人間の手のひらの大きさはある、熱々の茶色い塊だ。

 ひとつを待っていたエルディによこし、彼は四足歩行をしながら、器用に唇で商品を押さえつけながら食べていく。

「なんだこいつは。食い物か?」

 そうだよ、と目を丸くしている父親の目の前で平らげてしまう彼は、早く食べなよ、と尻尾を振り回す。

 ザクッとした茶色いものにかじりつくと、中からは熱い液体、脂が溢れてくる。それがこぼれぬよう仰げば、それは喉に向かって一直線に流れ込む。

「……! ゴホッ!」

 喉を焼かれ咳き込む父に、これといった声もかけぬリエードは、僕もやったなぁ、と目を細める。

「僕の好きな、フライっていう食べ物です。おいしいでしょう?」

 じきに咳は納まったものの、彼は恨めしそうに、落ちたフライを睨み付け、

「……今日の鍛練の復讐のつもりか? 明日、覚悟しておけ、リエ」

 と、それを拾い上げてバリバリと食ってしまう。唖然とするリエードは、勘弁してよ、と追いかけるのであった。

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