[日記]そこかしこにある理想たるもの

 身振り手振りをするのは人間だけではない。

 この言葉から続くフレーズは大方、この行き者たちもです、だろうが、今回ばかりはそうでもない。

 ロボットも、目の前にある画面にいる誰かも、だ。


 最近はどうにもvtuber系の小説が、注目されている作品として登場していることが多い気がする。見出しも、あらすじも、ブイブイとしているようだ。

 一方、買い出しに出掛けた先、ディスプレイで身振り手振りをしている人がいるではないか。もちろんそれは肉体を持たず、ポリゴンというには滑らかすぎる肌を持って。


 これは極端な話、肉体から解き放たれる、という古からの人間の願望が、現実となり、こうして見えるようになってきているのかもしれない。

 宗教しかり、妄想しかり、今ある現実から抜け出そうにもつきまとう肉体から魂魄だけをあるべき、いや、この世にあるべき理想郷に降臨させる、という思想はいつの時代にもあった。

 その世界には、自らを不愉快にさせるものもないし、楽しく暮らしていける。それを浄土だとか、天国だとか、そう表現していて、今もそう伝わっている。

 偏屈な者から見れば、ただの夢を見ている、目の前を非現実と決めつける愚か者。救われたいと願う者からは、自らを導いてくれる師。

 そして、ある思想では、今ある苦痛は肉体から引き起こされている、とするものもあったろうか。


 あなたはどうだろうか?

 この肉体から解き放たれると、救われると考えるだろうか?

 この不便な、重力に縛られ、面倒な生活が必要で、病を患う、ただの生き物という個である肉体から。だがそれは、同時に今を向き合わない、ということと同義であることを忘れてはいけないだろう。

 たとえ、魂魄だけを移し、天国にいるのだと悦に浸ろうと、まだその肉体は現存し続けている。まだあなたは生きている。

 解放なんてものは、まだなされていない。

 夢を見るのは結構だが、まだ魂魄と肉体は切り離せないのだから、仕方ないと、今日を行きていくことにしましょうよ。

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