[短編(オリ)]これは長編予定の傑作だ!

 おお、という感心の言葉は、いつものように先生の口から漏れた。

「今回の流浪魔導士シリーズはどんなものかーって見るけど、まーた今回もぶっ飛んでるねぇ」

 それは手にしている部誌に寄稿されたうちの一本の最後の句点にたどり着いた証でもある。もちろん、電子データでよこされていたそれは、最低でも一度、全員で回し読みをするために印刷されたもので、一足先に先生と部長、副部長が編纂と校正のために読み合わせているのだ。

 部員数はほんの十人だが、うち一人が書き続けているシリーズ、それが放浪魔導士シリーズ。その名の通り、さ迷い歩く魔法使いが主人公で、ただ広がるだけの世界を旅する、という内容の物語である。

「また、トップでしょうか。よくもまぁ、何もないことをここまで書けるものだって思いますけど」

 部長が答えると、それがすごいんだよなぁ、と先生。

 そう、この物語には何もないのだ。これといった主人公の立場が危うくなるような事件も、立ちはだかる脅威も、ド派手な演出も。孤独に旅する魔導士に人間ドラマなんてものはないし、ましてや相棒となる幻獣がいるわけでもない。王道な要素すら何もないのに、無色透明なキャンバスを、草の薫る、眩しい太陽に塗りつぶしてしまうのだ。

「言葉巧み、ですよねぇ、ほんと。どうやったらこんなの描けるんでしょうか」

 副部長の尖った唇が、ずるいといわんばかりだ。

 この著者の親が作家だとか、そういう情報は全くない。単純な積み重ねによるものなのか、指導の才能に恵まれた作家がいたのか。

「将来は楽しみだけど、このシリーズが完結することがあるのか、そっちの方が心配だわ。もっと、すごいのを書いてくれるんじゃないかって、勝手に期待しちゃうんだけど」

 そう、これはまだ短編が、たまたま、いずれも傑作として続いているだけである。しかも、部誌という、とても狭い世界で。

 これが長編となったとき、傑作としての地位を獲得できるかは、また別のお話である。


◆◆◆◆


 ハロー、ハロー、ライターさん。あなたは一体、文芸歴何年でしょうか。


 文芸部に所属していましたか? それとも自分でもこんなの書けるわ、あるいはなんとなく初めてみたクチでしょうか?

 私はかれこれ、書き始めたのは17年前? 最近はとんと書いていないにせよ、そういうブランクがあっても別にいいだろう、というスタイルで今はのんびりです。


 さて、スゴイと評価されても、長編やらなんやらでないと、結局何にもならないってこと、よくありますよね。要は、ボリューム不足だとお金にならないっていう話です。

 どれだけ短編として優れていても、それが複数収録されたものでないと、一冊にはならない。すなわち、販売できる状態にはならない。しいて言うならば、詩集とかで複数の名人から提供してもらうような形、合同誌のような形でなら、まだできるかもしれませんけれども。

 そんな人、どれだけいるんでしょうねぇ。長編は長編の、短編は短編の難しさがあるにしろ、お金になるという点では、長編だから有利、というのも何か変な感じがしますけれどねぇ。

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