[短編(オリ)]自己犠牲エンディングなんて断固拒否します

 気がつくと、そこは見覚えのない土地だった。

 野良猫の駆けていく路地裏も、井戸端会議に打ち込む主婦も、ボールを追いかける子供たちもいなくなっている。

 あるのは、草原と、ぽつんとある町らしい場所だ。

 しかも、それはただの町ではない。不思議と見覚えがあるのだ。そう、昨日で終わりを迎えたあのゲームに登場する、奇妙で巨大なオブジェ。

 どうやって作ったのか分からない。人の背丈などゆうに越える石像だ。近づかなくても、全容のはっきりと分かるそれに、どういうことかと情報が錯綜する。

 ひとまず、町を目指して歩き始めた。なんでこんなところにいるのか、ということは謎のままだが、呆然としていても、誰とも会いそうになかったのだ。

 町に着くと、門番らしい人に身分証を見せるよう言われる。だが生憎、ここに来たばかりで何がなんだか。説明しても、身体を触られても、身分証なんてものはない。

 怪しいと皺を深くする門番に連れられて、とりあえずは町に入ることができた。


 ……あれ、この展開、覚えがある。

 たしかあのゲーム、いきなりフィールドに放り出されて、この町を目指して、こんなことがあって、それで、勇者の剣を引き抜かされて……最後には、

 ラスボスによって制御の利かなくなった魔法を止めるために、勇者は、亡くなる。

 そう、まさしくトロッコに乗せられている。どうにか覚えているイベントをなぞっている。台詞の言い回しや、こちらの発言によって変化はあるが、大筋は全て同じだ。

 剣も抜けて、国王から祝福されて、身分証を渡されて……あのエンディングまで、一直線って、ことなのか?

 一つの仮説に行き着いた頃には、もう、次の村へと歩きだしていた。


◆◆◆◆


 昨日の続きです。

 ゲーム上で破滅するから、自分がそうなってしまってそれを回避する、とかはありますが、命にまで関わるとなったらどうするのでしょう? しかも自分と世界の天秤つきで。

 世界ではなく一個人の命とかならば、迷うまでもないのでしょうね。

 結末が分かっているからできることがある。しかし敷かれたレールは分岐点などなく、終わりに向かって一直線。

 まさしく、明日死ぬと分かっていたら、というような内容ですね。


 もしかすると台本を作り出しているやつをどうにかする、というようなパターンもあるかもしれませんが、そんなものがなかったら?

 ただゲームで描かれていた通りに進んでしまうのなら? あなたの用意した主人公はどう抗うのか?

 とても興味がありますね。どうやってひっくり返しますか?

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