[短編(七日)]人のうみ出した、その日

「いっぱいだねぇ。こんなに買って、何するんだい?」

 いつもは食事の並ぶそこに、しかしまだ昼には早すぎる時間に、何枚もの板状のものが積まれている。

「万芽にはあげないよ。毒でしょ、チョコレート」

 へぇ、と椅子の背もたれでしげしげと見つめている猛禽に、エプロンを身に付けお湯の温度を確かめている少女が。

「毒、毒ねぇ。食べてみなきゃ、わからないもんだよ? それに、ペットにチョコレートは禁止ってのは、あくまでペットに適用されるべきじゃないかい? あたしゃ、神様なのに」

 ペットみたいなもんじゃん、とボウルを二枚重ねて、一枚目を手に取った。

「いやいや、日向ぁ。そりゃ、違うだろう? 例えるなら、菓子パンは食事かどうかって話さ。それはおやつって言う人もいれば、食事っていうやつもいる。その実、食事としてはいろいろと不十分なのさ」

 片翼を広げ、演説する猛禽は、一欠片くらいおくれよ、と背伸びする。

「私からしたら、ペットだよ。口うるさい、ペット」

 あぁひどい! 片足を持ち上げ、鉤爪をわきわきと動かすと、

「産まれた頃から、ずっっっと面倒見てあげたのにさぁー、世話をしてたやつをペットなんて、ひどいやつだよぉ日向ぁ!!」

 何か劇でもしているかのように悲しみを大袈裟に示す神に、頼んでないし、と日向が包丁でチョコレートを刻み始める。

「あー、あたしもバレンタインチョコ欲しいなー? 大好きな愛娘から、おくられたいもんだよ」

 わざとらしい。

 少女は心底、ため息をつきたかった。どうしてこんな家に産まれたんだろうなんて。こんな、迷惑な居候が、神が、いるなんて。


◆◆◆◆


 今年は七日からバレンタインネタでした。

 彼菜の生まれ変わりである日向と、万芽の二人についてはふわふわとした設定しかありませんが、万芽に関してはもう猛烈にアピールすることでしょうね。

 チョコちょうだいよ、と、多分、怪異であり神様だから、大丈夫?

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