[短編(市場)]夏の味2

 あづい。背中とかどうしようもなく、暑い。剣でも置いてたら肉が焼けるんじゃないかしら。

 いや、そもそもここにまた来たからって遺産の調査に来るとか、あいつも物好きにもほどがあるわ。前はテレアが海に行こうとか言い出したからついてきたけど、ここまで距離があるなんて。

 またテレアに頼んで連れてきてもらった方が、よかったかも。

 でも後悔なんてしてても仕方ないし、とりあえず、あいつの待ってる宿に戻ろう。

 数冊の本を抱えて借りてる部屋に入ると、少しばかり涼しくなる一方で、かっと身体に熱が湧く。身体に溜まった熱がどうこうじゃなくて、リエードが、それは気持ち良さそうに眠っていたからだった。

 なんでこいつに付き合ってやってんのに、私は炎天下を歩かないといけないのかしら。私が本屋を巡ってたから、だけど。

 やつにしては珍しく、肩を下にして眠っている。グウグウというイビキがやかましくて仕方ないけど、その懐には、湿った布の巻かれている塊がある。

 そこからは冷気が放たれている。どこで見つけたのだろう? 少なくとも、小屋を出たときにはなかったはず。あと宿に来るまでも。

 多分、これのおかげで寝苦しい、ということがないんだろう。はぁ、後でどこにあるのか聞いておこう。このままじゃ夜も寝れるはずがないし。

 本を荷物に加えて、私も横になる。寝藁は、むしろ暑苦しいくらいだった。


「はぁー、きもちぃー」

 目が覚めたけど、僕はそのままじっとしていた。だって暑い。背中も暑い。けど胸とかはひんやりとしている。

 フロントで暑かったら使ってくださいね、なんて言われたから持ってきたけど、すんごく、いい。どうやって作ってんだろ、これ。

 布に巻かれた塊の中身は、透明な氷。そのまま触れたら霜焼けするから、と布を何重にも巻いてるんだろう。

 溶け出したら布が水気を吸うから。数時間はひんやりひんやり。立脚類みたく器用なら、背中にも是非とも使いたいもんなんだけど、いささか無理がある。

 今日は長旅でつかれたし、このままごろごろしとこう。で、明日は遺跡の調査して、おいしいもんでも食べて。

「きもちぃー」

 氷を枕にしてみる。喉の裏もいい感じ。

 あ、ラクリが死んでる。荷物を任せて本屋に行っちゃうから聞きそびれるんだよ。

 ちょっとした優越感に浸りながら、ぐりぐりと氷に鱗を押し付けた。

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