[短編(オリ)]マンジュシャゲ

※ホラーチック


 手。それは、前足や、あるいは翼にもなりうる部分だ。

 地を蹴る二本の足、あるいは、空つかむ翼。

 なぜ指を伸ばして、わざわざ器用であることを選んだのか。

 そんなことを言いながら首をかしげていたやつは、両腕を差し出した。欲しいのだろう、と笑いながら。


 マンジュウ、と声が宵闇に。すると、返事こそないが、いたいた、といたいけな少年の言葉。

「今日さぁ、イツキがさぁ」

 まるで友達に投げ掛けるような、楽しそうな声音。答えるものもいないというのに、真似する影法師に語り続ける。

 閑静な道が、いよいよ暗くなっていく。陽が見えなくなると、

「どう思う?」

 との少年の問いかけに、

「イツキは悔しかったろうなぁ」

 とねっとりとした回答が現れた。人間の発したものだろう、と推測こそできそうだが、腹の底に響きそうな、呻き声のようにも聞こえる。

 街灯がつきはじめようとも、少年はのんびりと道を歩く。彼を追いかける影はすっかり縮み、彼の隣にゆらりと立っている。

 そう、地面に映されてはいない。立っている。

 光を吸い込み続ける影をよくよく見ると、真っ黒な人の手が、複雑に指を絡めているような模様を蠢かせていた。

 女性のものだろう細い指から、第二関節から先がない指、はたまた、親指がないものまで。手首から先だけが絡み合って、人影らしいものを形成していた。

「悔しかったのかな? 寂しそうに見えたけど」

 少年の、街灯によってくるくるとまわる影に従って、謎の影は移動する。だが少年は鬱陶しがることもなく、家路をマイペースに歩き続ける。

「本人にしか、わからんさ」

 マンジュウも分からないことあるんだ、と口を尖らせて、なおも続く道を、二人は歩いていった。


◆◆◆◆


 猟奇的なホラーというか、そういうのって、特定の部位に固執したりなんてこと、ままありますよね。ということで、万の手を集めようとする万手(まんじゅ)という怪異の、出会いの物語なんてものはどうでしょうか。

 少年はマンジュという名をマンジュウと思い込んで、対等に扱う、なんていう、なんでもないお話。


 昔からありますよね。

 目は、耳は、鼻は、歯は、なんとやらって。魔力があるとされているのか、あるいはただの噂なのか。命とか血液なんて最たる例で、これを使って魔法を完成させる、という儀式もよくあったりします。

 科学的に見れば鼻で笑うような話ですが、これがなかなかどうして、物語には組み込まれるんですよね。単純に悪趣味だ、と言えばそれまでですが、どこぞに魔力が宿っている、と伝承を作るだけでも、エピソードを作れる。

 こんなお得な話、どこにもありませんよ? なんて。

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