[短編(オリ)]その刻限まで、あと4日
王都では、冷え込み、厚い雲が雪が降らせる時期になると、サイマツという言葉をよく耳にする。
サイマツセール、サイマツボーナス、サイマツクエスト、サイマツパーティ、サイマツオマケに、サイマツ装備……これはもはやパーティグッズじゃないか。
目の前に並ぶ、ここでは縁起のいいとされている赤と白の装飾の施されたアイテムたち。いつもよりも若干値引きされているが、中身はいつもと……いや、フルーツ味のポーションか。効果を期待するよりも、娯楽の一つとして用意されている。
どのみち治癒力促進のために飲まれるものだ。苦味の中にフルーツの香りがしたとして、飲みやすくはなるのだろうか。ポーチを開けてストックを確認すれば、三つ、入れる場所がある。使うことは滅多にないが、安売りだし、補充しておこう。
サイマツになると、もとから持ち金の少ない冒険者たちは、安売りしている場所で酒盛りを入れ替わり立ち替わり続ける。冒険することを生業としているわりには、酒という麻薬に手を出して酔いつぶれている。貴族の冒険者たちは実家に帰省して、夜遅くまでパーティ。いいご身分だよなぁ、とつくづく。
自分はといえば、そんな金なんてない。あるとしたらサイマツクエストの紙束。酒の材料、パーティの飾りの人手と材料、除雪作業、冬の毛皮を狩って、なめす手伝い。報酬は出来高制。
次のサイマツのために保存しておけばいいのに、とつくづく思うが、暑い日もあるために、腐ってしまうのだという。手入れを怠った毛皮もごわごわになって、貴族の中古品が市民にまわることも多い。
つくづく、このサイマツというイベントは何なんだろうと考える。
なんでも、マツリゴトの節目とかなんとか。だが盛大な祭が行われるわけでもなく、ちょっとした非日常があるだけだ。
そしてサイマツという言葉を聞かなくなった頃には、ネンシというものが始まる。ネンシに増えるクエストは、大方掃除ばかりだ。
そっちの方が楽でいい。ものを運んで処分するだけ。広場に集められたサイマツグッズを燃やして暖をとる。そこにひたすら放り込めばそれなりのお金がもらえるのだから、簡単なものだ。
さて、今日はさっさと寝ることにしよう。ネンシになるのは、いつのことだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます