[短編(オリ)]その刻限まで、あと5日
窓掃除。毎年恒例のイベントだが、なんでこの家にはこんなにも窓が多いのだろう。
太陽の光と共に生活する。そんなコンセプトのデザインの家に、一目惚れして入居したのは数年前。子供たちも手伝ってはくれるが、できても低い位置の、安全な場所くらいだ。
幸い、意欲的な長男は、おれも手伝う、と腰をゴツゴツと叩いてくる。それに応じるために昨日購入した脚立を使って、目は離せないながらも、しっかりと手伝ってくれている。成長だなぁ、としみじみ思いながらも、飽きてしまえば、あとは俺の仕事。
さぁ、あとどれくらいで飽きるかな。冬休みの宿題もやらせないとな。
で、長女はといえば、妻と風呂場や台所で掃除をやりつつ、昼食と、夕食の仕込みをしているらしい。いいご身分だな、と思ってしまうが、年末年始、お節とかの用意もしているのだから、それを責めることはできない。
おいしいものが食べられるのも、彼女たちのおかげ。その中にいびつな、火の通っていない野菜があるのも、ご愛敬。この前はニンジンがガリガリしていたっけか。
次男はといえば、まだ掃除という概念を理解していないらしい。この騒がしい年末のなか、スウスウと寝室の布団で眠っている。長男は時として、そんな彼に口を尖らせるものの、来年くらいからお手伝いしてもらおうな、と諭せば、ぶーぶー言いつつも窓をキュッキュッと鳴らす。
それにしても、終わらないな。
ここが終わったら、次は階段の踊場、次に二階。寝室はお昼の後にして、次男を妻に任せてからにしよう。それから個室。先は長い。
はー、昨日が仕事納めなのに、結局働くしかない。休める日なんて、大掃除が終わってから正月三が日。なんでこんなにも働かないといけないのか。
社会人になったときって、社会のために、会社のためにって必死になってたっけ。結果、身体を壊してどうにか復帰。その過程で妻と出会って、今に至る。
まぁ、家族のためって考えは、社会とかよりもずっといいことだと思う。
だって社会のために働いても、うかがう顔がどこにも存在しない。だからもっと、もっとと際限なく頑張ろうとしてしまう。会社には上司という顔はあるが、彼が気にしているのは俺ではなく、会社という組織。上司はさらにその上司を気にして、社長に至っては株主だ。俺なんて歯牙にもかける存在ではないのだ。
これから、関係が冷え込むかもしれない。けど、上司なんかよりも、笑顔を見るのも、雑談に興じるのも簡単なのだ。
ちょっと、と声がかけられる。うんと振り替えれば、早く終わらせてよ、と。その手には、湯気たつ料理が。
おっと、手が止まっていた。冷えて赤くなった手を再び動かしながら、今日のお風呂が楽しみだなと考える。
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