[短編(市場)]無、表情に浮かべたるは2
のしのしと歩く怪物に運ばれること、はや数分。顔を上げてあたりの様子をうかがってはいるが、倒れている常駐の警備と血糊があるばかりで、頼みの綱である応援が現れた様子もなかった。
ズキズキと痛み始めた右足。腐るかなー、と呑気なことを考えていると、視界がふと暗くなる。いや、暗い部屋に入ったのだ。
甘い匂いが濃くなった。この暗さといい、ここはどこだろうか。少なくとも、私はこんな匂いのする部屋は知らない。暗い部屋ならいくらでも知ってるが。
視線をあげれば、廊下は既に見えなくなっていた。こいつは何をしようとしているのだろう。私を警備のように殺すでもなく、その大口で食うでもなく、ただ運んでいる。
これが最期なら、あいつと会っておきたかった。もうここに引きこもって一ヶ月が経つのか。
ふと怪物が立ち止まる。だが後悔と、この身に起こるだろうを不幸を並べていては、気分が落ち込むばかりで、周囲を見渡すことなどしなかった。
体が不意に持ち上げられる。そして、まるで赤子の持ち上げるような体勢にさせられ、怪物と向き合うことになる。
無表情。ただ、私を見つめて。
大口をあけたのだろう。赤い空間が見えた。
ぎゅっと目を閉じて、何が起こるのかを待つしかなかった。
肩の骨が軋み、砕けた。
悲鳴を上げる間もなく、私は口に入ってくる甘い液体に咳き込む。だが空気なんてものは入ってこない。
どうにか目を開けると、ようやく分かる。ガラスごしには怪物がいて、じっとこちらを見ている。
上がらなければ。本能的に上方向に手を伸ばすが、あるのは閉じられたのだろう、内側からは開けられないフタだ。
ガラスを液体の満ちているガラスを内側から叩く。だが怪物はこちらを見つめるばかり。
もう一度。突如跳ねたその体は、ゆっくりと膝をついた。
三回目。崩れ落ちた怪物の背後には、武器を構える重装備の警備員たちの姿が。
助けて、ともう一度。だがここで気がついた。
彼らの周囲にある、ガラスはなんだ?
よくよく目をこらしてみれば、そこには、同じ怪物が興味ありげに亡骸を見つめていた。
◆◆◆◆
テーマ
培養槽から出てきた化け物が研究者を半殺しにして培養槽につっこむ
半殺しにはいきませんでしたが、まぁそれなりに雰囲気出せたかなぁ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます