[短編(オリ)]無、表情に浮かべたるは1

※暴力要素あり


 それは大きな音と共に現れた。私にあてられている個室のセキュリティを、物理的にぶち破って。

 はっと振り返れば、もう動かないだろう扉が左右で待機しており、たたずむのは、どう見ても人ではない何かである。

 何者であるか理解する前に立ち上がり、銃口をそれに向ける。ここで初めて、それを観察することができた。これが暴力に頼るということか、と思考を追いやりながら、引き金に指をかけた。

 二足歩行の、私よりもふた回りはでかい人間の骨格をした何か。皮膚はなく、おそらく甲殻が全身を覆っている。てかてかと光を反射しているあたり、堅そうだ。そうなると関節に鉛弾を打ち込めば無力化できるだろうが、このもやしに狙えるだろうか。

 つぶらな、爬虫類を思わせる目、ここを狙ってもいい。どうしてこんなやつがいるのか不思議だが、その後ろには引きずったような血痕に気づき、手に力を込めた。

 出口を探しているなら、ここは行き止まり。だがそんなことはすぐに分かるはず。じゃあどうしてこいつは止まっている?

 息をしている。よく見れば体が濡れている。漂ってくる甘い匂い。鋭い爪に……口は見えない。

 襲ってこないそれになお、銃口を向けながら、じっと待つ。警報が鳴り始めている。セキュリティが壊されたなら、応援も間もなく。

 と、視界が回転した。ワンテンポ遅れて背中に鈍い衝撃。

 ミシと嫌な音が内側から聞こえて、揺れる意識が状況を理解する。何か右足をつかまれて、転倒させられたらしい。そして、視線を落としてみれば、怪物は無表情に、私を引っ張っていた。視界の中心にそれがくると、にやりともせず両手で持ち上げられ、分厚い肩に担がれる形となる。

 腹にくる圧迫感にうめきながら、いまだ揺れる視界の中、背中から心臓を撃ち抜いてやろうとしたが、ここで気がつく。この手に、もう武器はない。

 歩きだした怪物を尻目に、できるだけ状況を把握しようとする。


◆◆◆◆


 続きはまた明日!

 時間が足りなかった!

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