[短編(市場)]愛猫がかわいい

 心臓の鳴動と合わせて、ズキ、ズキと右肩が痛む。大きくなっていくそれは、無視しようとすればするほど、忘れるなと言わんばかりに存在を主張する。

 眠れないね。そう喉の奥で唱えると、引き上げられた意識とは対象的に、義手との接続部はおとなしくなっていく。困ったもんだよ。わたしも、今更だけど引退した方がいいのかねぇ。

 あのドラゴンたちとのやり取りの後、復興していく市場の姿を陰ながら眺めて、人手や物資もこっそりと調達して、ようやく一段落したところだ。それもいいかもしれない。

 けどそうなったら、と横になる私の体に密着させて丸くなって眠る、黒猫の姿がある。ぎゅっと目を閉じて、舌をぺろりと出しながら。

 愛らしい姿に、鼻が鳴る。この子も置いていかないとねぇ。こっちでの生活しか知らないのはわたしも同じだけど、まだ若いこの子はどうにでもなるはずだ。

 思えば、レノを拾ってどれくらい経つだろう。

 姿を眩ませるためにあちこち移動してた途中、はぐれたか、捨てられたかの子供が、仕事のために出掛けようと開いた扉の前にいたのだ。しっかりとした足取りで、じっとわたしを見上げてたっけ。

 貧困区が近かったはずだから、どうせそこ生まれなんだろう。そう結論付け、仲間を引き連れて目的地へと向かう。

 で、騎士どもに危うく見つかりかけたその日の仕事を終えて帰ってこれば、まだ猫の子供がいて、わたしを見つけるなり一鳴き。

 正直、拾わなくてもよかっただろう。こんな日陰でしか生きられないのに、ガキを拾うなんて、馬鹿げてる。

 そんな馬鹿をしてみれば、こいつはこうやって、わたしの回りをうろちょろするようになった。説明もしてないのにわたしは親ではない、と認識はしているし、隠れ蓑にしているとある店の店主から、案内人にしてみたらどう、と提案され、その通りにしたら売り上げは上がるし。

 こうしていれば、わたしが独占できるのは、なんだかんだで愛おしい。

 顔を近づけてみれば、焚いている香に負けじと、柔らかい臭いがする。たまらず鼻を突撃させると、驚いた様子もなく、レノは薄く目を開いた。

 驚いた様子もないあたり、寝ぼけてるのか、肝が座っているのか。少しだけ猫を味わってから、また寝ようと心に決める。

 辞めるか、辞めないか。そんなことがどうでもよくなってしまった。ゆっくりと息を吐いて、目を閉じる。


◆◆◆◆


 市場の猫はレノしかいませんね。思えば獣枠で猫化は虎のガンダーとか、そのあたりですかね。


 要は、猫がかわいいというお話でした。まるっ。

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