[短編(市場)]晩酌

 サラサラと、小さな器に注がれる液体。一見すると無色透明の水のようだが、嗅いでみればくらりと平衡感覚を惑わす酒である。

 もちろん強いものから弱いものまで取り揃えているこの一室で、まだ起きているのはただ二人。とはいっても向かい合う彼らもまた、ここにあらぬ景色を望んでいるようで視線はちぐはぐだ。片や獣の王、片や、岩のドラゴン。

「テレア様は、楽しめてます?」

 呂律の怪しさのにじむ言葉だが、誰の意識がまだあるのかは理解しているらしい。

「あぁ、楽しんどるよ。こうも静かやと、もの足りんけどね」

 その相手は小さいカップに残っていた酒をあおり、味わうのもほどほどに。

「テレア様は、酔うんですか?」

 静かに置かれたそれに、瓶をつかみ、また注ぐ。ちょうど八分目で引き上げ、もう片手に握る自身のものにも。

「いや、全くや。味もせんから、あんたらの真似をしとるだけや」

 彼女が視線を下に向ければ、立脚類の狐から、他の王、側近たち、騎士団長たち、と豪華な顔ぶれが見事につぶれている。

「では、こちらはいただいても?」

 するとテレアの前にあった皿と、彼のもつフォークが音を立てる。持ち上がったそれは回答を得るまもなく、大口に消える。

「別にかまへんよ。あんたらが食うた方が、まちがいなくええやろ」

 もそもそ。

「ところで、あんたらがつぶれとったらあたしが連れ帰らなあかんのか? そのあたりどうなっとるん?」

 くいっと一杯。

「復興の打ち上げはええけど、何もここまで飲む必要はなかったんやないか? カル?」

 ゆらりと、倒れる。

 ちょうど後ろにいた側近の腿を枕にして、彼は動きを止める。耳をすませば、あらたなイビキの奏者が増えたことが確認できた。

「……平気そうなんは、見た目だけかいな」

 自分に与えられた一杯を、ドラゴンは口にする。次いで、残っている料理。

「家主に聞くんが早いか」

 全てをさらえた彼女は呟いて、立ち上がったかと思うと、宴会の部屋から出ていった。


◆◆◆◆


 市場の後日談にて復興の打ち上げをした場合、王様サイドとその他に分けられると思ったんですよ。

 で、酒に強いのは誰か、となると、カル様かなぁ、となりました。

 テレア様は論外なのでつぶれず、他は酔いがまわって眠ってしまい。

 そんな番外編も楽しそうですねぇ。

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