[短編(市場)・設定]ケモノビト

※世界樹の市場・紅青編ネタバレあり


 あんたはどう思う、と彼女は彼に尋ねた。

「どうっていわれてもな……人類……じんるい、なぁ」

 泉の傍で、紅竜と土竜が座っていた。少し遠くには青竜の群れがあり、彼らに興味津々らしい山飛竜もいる。

「あの遺産の口ぶりからだと、人類って人間のことだと思うんだけど。君たちを造ったのは人間かって、言ってたし」

 ただの推測だろ、と彼は返した。

「今じゃ理解できない、古代語ってことにしとけばいいだろ。それに、そんなことを知ってどうすんだ。遺産は使えるから金が動くんだ。遺産を誰が造ろうが、価値はないだろ」

 紅はそうなんだけど、と目を細めた。

「私しか、知らないからさ。できれば、ちゃんと記録しておきたいのよ」

 興味のない視線。

「じゃ、リエードに聞けよ。遺産、昔のことなら俺よりもあいつの方が、知り合いとかもいるんじゃないか?」

 そうなんだけどねぇ。尻尾が揺れる。

「遺産マニアばっかで歴史に興味があるやつは少ない上に時間を取りづらいみたいなの。私も遺産は興味ないし」

 俺も興味ないな、と泉に石を投げる。

 青と緑が戻ってきて、二人は立ち上がる。


◆◆◆◆


 もう春期のアニメも終わりですね。昨日、某獣人アニメを一気に完走しまして、非常に興奮気味でした、ラクリさんです。

 ケモノいいなー。かっこいいなー。


 で、獣人、獣人、というテキストがよく出てきたこの作品。非純正人間(?)を取り扱うという意味で共感を覚えたわけですが、市場には亜人という概念が存在しないことを、お伝えしていないことを思い出しました。

 理由は二つ、「市場ができる前から彼らは共存しているから」、「人間という定義はあれど亜人という定義は存在しないから」です。


 まず、共存の話。

 作中、歴史が語られることはあまりありませんがコミュニケーションを取れる=仲間である、という概念が前提としてあります。そこに立脚類や四脚類が混ざろうと、意思の伝達ができるため、外見の違いによる差別や偏見が比較的小さいんですよね。なかった、とは言いきれませんけれど。

 同じ言語で会話してるの? と思われるかもしれませんが、同じ言語を使います。どうして、と言われれば、魔法生物の設定を思い出していただくと判るかと思います。


 次に、亜人という定義。

 そもそも、亜人というのは人間という共通定義が共有され、人間と似て非なる存在が現れて、初めて亜人認定されるんです。つまり、予め「健全な人間だけの社会」が存在しないと、獣人、竜人といった概念は発生しない、と考えたからです。

 では人間と獣と竜、立脚類と四脚類で何か軋轢がないのか、と言われればなくはないでしょう。ペルトのおっちゃんが「竜が人間を好いているのか」という発言をしている一方、雪の国ではフェリの両親(獣竜)が処刑されています。

 しかし多くの者は、相手はそういう者である、という認識を持っているのです。一応、獣に犬とか狐とかの属性はありますが、そこの間に異形という概念はありません。


 具体的な事件などは深く作り込んではいません。しかし、市場の執筆開始直後から、意識してきたことです。人間はいるが人類はいない。竜人はいないが、立脚類の竜はいる。ケダモノはいないが、四脚類の獣がいる。

 そんな彼らなりの、この世界の価値観を、なんとなく感じていただけたら幸いです。

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