[短編(市場)]無口な獣と休暇の騎士

 デイルがいる。

 暗くなった部屋で起きて、水と軽食を取りに部屋を出て、調理室目指して廊下を歩いていると、居間に人影を見つけたのだ。椅子に座って、ぼんやりと天井を仰いでいるデイルがいる。

 こっちに気づいていないのか? まぁ、別に構いやしない。邪魔をしないよう、足音を極力消しながら歩く。

 狐のやつは買い出しに出ているのか、調理室に姿はない。水と軽食をかっぱらって、あと机の上にあった固形物を一つだけその場でいただく。乳製品の味だ。

 部屋に戻ろうと廊下に出れば、当然、また居間を見ることとなる。デイルは相変わらず、上の空だ。

 何を考えているのか。どうでもいいことである。……そういえば。

「デイル、仕事は」

 なぜこんな時間にいるのだろう。騎士に身をやつしたやつと、それに献身的なやつは早くに出るというのに。

 はっとこちらに気づいたデイルは、おまえか、と姿勢を正す。

「今日は休みだって、昨日……いなかったか。今日は休みとったんだよ」

 昨日、狐か弟に話して、俺にはなし、か。デイルが帰る頃には寝ているから、当然と言えば、当然か。除け者にされたとか、嫉妬とか、そういうものは感じないが、今はデイルと二人きり、か。

「なぁ、たまには食いに、外に行かねぇか? タマモの料理とスナック以外にも食わねぇと、早死にするんじゃねぇ?」

 どうしようかと迷ったが、それもいい、と返事をする。いつ出るか聞けば、いつでもいいぞと笑う。

 じゃあ、今から。

「おまえが珍しいなぁ。いつもなら断るのに」

 立ち上がったデイルの言っていることは、半分正しい。出掛けようとデイルが言ったタイミングの大半は、弟はともかく、狐がいつも付いてくる。そこに俺がいれば、こいつがじっと嫌そうな視線をことあるごとに投げ掛けてくるのだから、嫌にもなる。そのくせ、弟がいれば坊っちゃん、坊っちゃんと保護者気取りだ。

 それがないなら、恩人であり友であるデイルと食事くらい、したいものだ。

「荷物、取ってくる」

 おう、と足早にデイルも脇を通り抜けて、部屋へと向かった。

 さぁ、何か美味しいものがあればいいのだが。


◆◆◆◆


 クトゥールはタマモよりも滑らかに実況を行わないのです。


 一人称視点において、それぞれの性格を描く、というのはなかなか難しいのではないでしょうか。この二人は正反対な性格なのでこれだけ差を作ることができていますが。

 例えば、地の文での他者の呼び方。タマモは坊っちゃん、お兄様、クトゥールと素の捉え方で彼らを呼び、クトゥールは弟、デイル、狐。しかも彼といった代名詞を使用しない、ということで差別化を図りました。

 こうしてみると、全く違う文章が出来上がって楽しいですね? なりきると書きやすいかもしれませんが、情報の共有に気を付けたいものですね。


 さて、この騎士兄弟の相方であるこの二人、タマモはインスに拾われ、クトゥールはしつこいデイルに付き合わされる形で、住まいを共にするようになりました。

 タマモはその恩から、彼を坊っちゃんと呼んでおり、クトゥールは親友として接している想定です(本編では出てきませんが)。

 インスデイル、タマモクトゥールが主人公の長編もいいなぁ、とか思いながら、今日はここまでです。お付き合いいただきありがとうございました。

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