[短編(市場)]表される姿に
ギルが案内した先は、広場へと続く混雑した道から、少し裏に回り込んだ路地だった。ここだ、と看板も出ていない扉をノックもせずに開き、ずかずかと入ってしまう。そういう場所なのだろう、と後ろにいたラクリは彼に従う。
「あ、ギリーじゃん。今日は彼女と一緒?」
彼女が足を踏み入れると同時に、見るからに嫌そうな顔をした彼は、声の主に噛みつくのだった。
適当な席に案内されて、静かな食事が行われた。先に終えたラクリが尻尾の向きを変えながら問いかけた。
「あんたら…いや、あんたって、床で寝るの?」
彼の手が止まる。
「なんだ、いきなり。俺たちの家、知ってるだろうが。藁はシェーシャの寝床で、俺は、ベッドで寝る」
ただでさえ鋭い視線が険しくなるが、そんなものを気にすることもなく懐から本を取り出す紅竜は、空いた手でテーブルの皿を通路側にどける。
「『宝石の行方』って本にね、あんたらのことが書いてあって。いわく、原石を採掘土竜は、一生を土のなかで寝て、起きて、掘り続けるんだって」
内表紙を見せられた彼は、どこに書いてある、と尋ねると、水を一口。パラパラと紙がめくられると、色とりどりの宝石や石の絵が載っていることが分かる。
彼女に示された箇所には、原石を掘る者たち、という章の見出しがあり、三つ目に取り上げられていた。
土竜
元は穴を掘り、その中で一生を過ごす竜である。
彼らの掘り返した土の先には原石が取れることが多く、そこに目をつけた商人が交渉を始めたのがーー
んなわけねぇだろ、と彼は機嫌を悪くしたか、皿の残りを掻き込んだ。
「あいつらは、階級社会だ。石を掘り当てやがるのは事実だが、階級によって寝床も食うもんも違うんだ。知りたいか?」
小話程度なら、と本をしまった彼女は、にこりと微笑んだ。
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