[短編(市場・創作論)]食と熱
台所に魔法によって再現された火を置くと、ボッと音を立てて、乾いた木材が燃えていく。
ふわふわとした尻尾を振りながらタマモはフライパンを浮かべて、勢いを増していく熱の上に移動させた。
次に油がひかれて、勢いが強かったのかあっという間にパチパチと音を立て始めた。そこにぷかぷかと浮かぶ卵が、殻を輪切りにされて中身が二つ投下される。
ジュワと心地良い音を蓋で閉じ込めて、狐は待つ。
すると、バタンと扉が開かれた。もそもそと臭いの強い毛皮を揺らしながら入ってきたのは同居人の獣だ。
「あなたの分はまだ出来上がりませんよ。お二人の朝食が先です」
クトゥールは彼女の方をちらりと見、入り口付近に置いてある瓶をひとつ手に取った。備蓄の水だ。
「いらない。気分じゃ、ない」
蓋を開けて、あおる。びちゃびちゃと飛び散ろうが気にしない彼は、空になった瓶を丁寧にもとの場所に戻して出ていった。
「まったくもう……坊っちゃんとお兄様が別居すれば、あいつの世話をする必要もなくなるでしょうか」
良からぬ考えをと共に、魔法に運んでこさせた雑巾で濡れた床を拭き取る。
「そもそも、獣として情けないでしょう。遺産ばかり持ってこさせて、身だしなみは最低。買い物を手伝わなければ何もしない」
溢れてくる悪口と共にビシビシと揺れる尻尾。
「参りましたねぇ」
台所を満たす焦げ臭さにタマモが慌て始めるのは数秒後のことだ。
◆◆◆◆
調理の文化を示すときに、「それらしさ」が欲しくなるこの頃。
タマモとクトゥール、および兄弟は市場生まれの市場育ち。そんな彼らは文化が入り交じる日本のような生活をするのでしょうか?
作中、彼女が作っているのは朝食目玉焼きですが、卵はそれだけ手に入れることのできる畜産業が発達しているのか?そのあたりも気になりますね。
魔法の世界では火は貴重品とはなりにくいと考えられますし、そのあたりのレアリティも気にするとリアリティ増すんでしょうかねぇ
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