第20話 終わらない質問
ハルトは、シオンとミネルバからグリフとの関係について、とても長い時間質問された。
あまりにも長くなった為、シオンが
「もう遅いので帰ります。」
と言った。
ハルトは、やっと解放されると喜び、返事をする。
「そうですか。
お休みなさい。」
だが、二人は出て行かない。
不思議そうなハルトに、シオンが告げる。
「送って行って下さいな。」
「気の利かない男デス。
夜道を女性だけで歩かせるつもりデスか?」
責められて驚くハルト。
(なんだそれ、紳士の国かよ。
俺よりも強い奴が何を言ってるんだ。)
しかし、ハルトは口に出すほど馬鹿では無い。
「はあ。
それは失礼しました。」
「はい。
お願いしますね。」
道中も質問され続けるハルト。
(もう勘弁して。)
しばらく歩き、シオンとミネルバが暮らしているという部屋の前まで来たハルト。
「着きましたね。
それでは改めて、お休みなさい。」
ミネルバとシオンは、ハルトに挨拶をする。
「早く帰るデス。
女性の部屋の前に長くいると、通報されるので気を付けると良いデス。」
「ハルトさん。
良い夢を。
お話しの続きは、また明日。」
と最後にシオンが言い、扉が閉まる。
(まだ続くのか……。)
ハルトが放心状態になっているとシオン達の部屋の隣の扉が開く。
「騒がしいのう。
おや、ハルト君じゃないか?
シオン達を送って来てくれたのか。
もう、そんなに仲良うなったのか。
結構、結構。」
師匠は、それだけ言うと扉を閉めた。
ハルトは、とぼとぼと帰路に着いた。
宣言通り、翌日も話は続いた。
勿論、ハルトには何ら後ろ暗いところは無く、黙っている必要も無いため、ハルトが知っている限りのことを全て伝えた。
シオンは、ハルトの受け答えにおかしいところが無いため、一応は納得したようだった。
しかし、グリフが何故ハルトに興味を持ったのか知りたいとのことで、ハルトを観察するとハルト自身に告げてきた。
「…と言うことで、暫くの間、あなたの行動を観察させて頂きますね。」
「は、はあ。
それは、お断り出来たりは…。」
「ハルトさん。
あなたに後ろ暗いところが無いのであれば、何も問題はありませんよね?」
「…そうですね。」
とても断れる雰囲気ではない。
しかし、観察されるとは言え、ハルトの行動は、そのほとんどが師匠の所での訓練なので、何も問題は無い。
ハルトにとっては、多少居心地が悪いのは事実だが。
現在、ハルトの身元は、グリフ預かりとなっている。
ハルトに居室として与えられている部屋も、グリフの居室の隣にある。
グリフが提出した資料によって、ハルトが来訪者だと判断したとはいえ、いきなり現れた見ず知らずの者を、誰もが監視せずに放っておく訳がない。
残念なことに、これまで彼らの前に現れた来訪者の全てが、良い人間ばかりで無かったことは、彼らの記録にしっかりと残されている。
ドーム内の人々の多くが温厚であるとは言え、全ての人々が来訪者であるハルトを受け入れてくれる筈もない。
ドーム内の人々の中にも、来訪者を排除したいという思想を持つ、来訪者反対派と言うべき人々も存在している。
全ての人々の意見が完全に一致するということは、不健全でもある。
今回のシオンとミネルバの行動は、誉められたものではないが、反対派への対応として監視者を置くということにもなる為、来訪者を支援する者達に、彼女らの行動は歓迎されるのだった。
以下は、この世界の住宅と簡単な政治体制に関連する設定です。
本編に影響は無いはずなので、読まなくても大丈夫です。
住宅について触れてみます。
この世界では、住宅は低層マンションの様になっています。
高さは3階までと決められています。
昇降装置は無く、高齢者や体の不自由な者は、一階部分に住むことになっています。
建築業の人が住居を建てますが、現在は人口が減少傾向にあるので、修理と改築を専門にしています。
住居等の建築物は、都市計画で形や色、さらには場所や向きなども全て決められていて、全て居住区画内に建てられます。
居住区画の他に庁舎一棟、工場区画、農場区画、ハルトが現れた場所でもある公園区画があります。
グリフは歴史や文化の研究者をしているので、住宅区画で研究を行っています。
単身者用の部屋と、家族用の部屋がありますが、部屋の大きさが変わるだけとなっています。
ドーム内は小さな自治区なので、治める長がいます。
長の独裁を防ぐため、議会を通さないと決定出来ません。
現在の長は師匠の息子で、シオンの父デギウスが勤め、母ミリアンはその補佐をしています。
基本的に長は血族で引き継がれます。
長だからと言って、特別な報酬などは無いので、他の者よりも良い生活などはしていません。
朝だろうが夜だろうが、関係無く緊急の案件が発生することがあるので、誰もやりたがりません。
先代は師匠の弟(師匠は断った、というより弟に譲りました。)が勤めていました。
師匠の名前“アハゲ”は、継ぐ者、中継ぎといった意味の古語が由来となっています。
師匠は名前の由来を知り、どうせ継ぐことになるなら後継ぎがおらず、多くの人を救うことにも繋がる武術を継ぎたい、と思い至りました。
後継ぎは本人の意志が尊重されるので、弟に譲ることにしました。
その弟は定年まで勤め上げて、引退しました。
次代は弟の子供が継ぐはずだったのですが、自警団と外界のトラブルで死亡しました。
このトラブルには、当時、反対派の関与が疑われていました。
弟の孫にあたるミネルバは、両親が死亡し2歳になったばかりだったので順番を飛ばされました。(成人している直系の者が優先、先代と議会に認められた者のみに権利が発生する。傀儡による支配などは出来ない。)
先代の兄である師匠、その息子である現在の長が代わりに勤めることになりました。
ミネルバは、長の家族に引き取られることになり、育てられました。
やがて、シオンが生まれました。
順当ならば、次代はミネルバかシオンになるはずだったのですが、シオンに6歳になる弟ができました。
ミネルバは、他にやることがあるという理由で(実際は両親を失った理由を調べる為)、辞退します。
この調査は、ミネルバと恋人のグリフだけで密かに行われています。
グリフは歴史の調査も担当しているので、当時の資料を調べても怪しまれません。
シオンは祖父同様に、武術を次代に残すために弟に譲りました。
シオンの弟サナルは、長になるための教育を受けながら両親と暮らしています。
長は任期期間中のみ、庁舎内で暮らすことになっています。
母星シオンでは、長は三人体制でした。
居住可能と判明した、3つの惑星に、長が一人ずつ移民することになり、それぞれの血脈は続いています。
議会の方は3~5年の任期があり、連続で任命されることはありません。
各区画の責任者も議会に参加します。
こちらは、連続で議会に参加しても良いことになっています。
シオンはミネルバと共に、祖父である師匠の隣の部屋で暮らしています。
ミネルバは師匠の弟の孫で、シオンのまた従姉にあたります。
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