第19話 シオンとの組み手

 ハルトは、師匠の孫娘シオンと組み手をすることになった。

 シオンの方は、心を切り替えたのか、しっかりと準備をしている。

 ハルトは、例え組み手とはいえ、人を簡単に攻撃出来る様な性格はしていない。

 その様な性格をしていたのなら、空手や拳法などの、より実践的、攻撃的な武道を習っていたことだろう。

 さらに、相手は初対面の女性相手であり、ましてや師匠の孫娘でもある。

 万が一にも怪我をさせてしまっては大変なことになるので、遠慮をしてしまっても仕方無い。


 師匠は、組み手の為にウレタンの様な柔らかい素材の槍と剣を用意して、ハルトとシオンにそれぞれ手渡した。

 防具は渡されなかった。

 剣を持ち、ハルトと向かい合うシオン。

 師匠とミネルバは参加せずに、向かい合う二人と少し離れた場所に立っている。


 やがてシオンは、ウォーミングアップを終え、ハルトに話し掛ける。

「こちらは、何時でも構いません。」

「こちらも準備出来ましたよ。」

「シオンや。

 ハルト君は素人だからの。

 くれぐれも手加減を忘れないようにの。

 ハルト君。

 シオンの方が強いのだ。

 胸を借りるつもりでぶつかってみると良いだろう。」

 という師匠の言葉に

「…」

「はい。

 分かりました。」

 頷くシオンと返事をするハルト。


 師匠が開始の合図をする。

「それでは、始め。」

「やあ。」

 シオンは、開始早々ハルトへと近づき、可愛らしい掛け声と同時に打ち込んでくる。

 その打ち込みは想像以上に早く鋭く、ハルトは、その一撃を槍の中程でどうにか受け止めた。

「うわぁ。」

 シオンは、振り終えた剣をすぐさま返しハルトに迫る。

 ハルトは、5合程、槍で受け止めていたが、遂にシオンに打ち込まれてしまった。

 あっという間に組み手が終了となる。

 これで終わりだろうと思い、ハルトはシオンに挨拶をする。

「いやあ。

 とても敵いません。

 お強いのです…ね。」

 ハルトがシオンと目を合わせると、シオンはハルトを睨んだまま立っている。

 ハルト自身には、シオンに睨まれる憶えは全くない。


「この組み手は、あなたを鍛えるためにやっているのです。

 あなたは、先程の一回だけの組み手で、何か得られましたか?」

「…」

 シオンからの指摘に、ハルトは返す言葉もない。

 いきさつはどうであれ、師匠が組み手の相手として、自分よりも腕が立つ者を連れてきたのである。

 相手となったシオンは、真剣に組み手に臨んでいた。

 ハルトは、そこに思い当たり、頭を下げ謝罪をした。

「失礼な態度を取り、申し訳ありませんでした。

 お詫び致します。

 重ね重ね失礼だとは思いますが、今一度、組み手の相手をお願い出来ないでしょうか?」

「謝罪をお受けします。

 相手が年下でも、しっかりと謝れるのですね。

 少しだけ見直しました。

 分かりました。

 一度と言わず、何度でもお相手します。」

「はい。

 ありがとうございます。」


 ハルトは、それから何度もシオンと組み手を行ったが、一本も取ること無く、本日の訓練は終了となった。


「ハルトくん。

 今日の訓練は終了じゃ。

 シオンもご苦労だったの。」

「はい、おじい様。

 お疲れさまでした。」

「…はあはあ。

 お疲れさま…でした。

 ありがとうございました。」


 師匠の声に、シオンは少し汗ばんだ程度の様子で、すぐに返事をしていた。

 一方、ハルトは四つん這いで息を切らせていた。

 そんな状態のハルトにシオンは声を掛ける。


「ハルトさん。

 それではお約束通り、お話しをお伺いします。」

「えっ?」

「え、ではありません。

 納得のいくお話を期待しています。」

「シオン…。

 ワタシも付いて行きます。」

「は、はあ。」


 師匠の血縁者と言うだけあって、しつこさが師匠と似ている。

 更にミネルバまで付いて来るという。

 疲れているので、もう休ませて欲しいと思いつつも頷くハルト。

 ハルトの1日は、未だ終わらないようだ。

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