第15話 師匠との出会い
ハルトはグリフの紹介で、武術の師匠に会うことになった。
武術や体術の師匠ということは、見るからに厳つい人なのかも、と腰が引けているハルトは、先ずグリフに師匠の人となりを聞いてみることにした。
「グリフ。
その師匠って人は、怖い人なのかい?」
「アハハ。
師匠は怖くは無いけど、少し変わってる人かな…。
師匠は必ず名前を名乗るけど、名前では呼ばないことをお薦めするよ。」
「えっ?
どういうこと?」
「ハルト。
残念ながら、説明は終わりだね。
師匠が来られたよ。」
ハルトに告げながら、向かって来る人物に手を振るグリフ。
ハルトはグリフを見てから、その師匠を見ている。
その師匠は、やはりグリフ達と同じく西洋風の顔付きをしている。
背は高く無い。ハルトよりも低い程だ。
銀髪を頭の後ろで結んでいる。
結構な年齢を重ねているであろうに、身のこなしには、全く老いを感じさせないものがある。
それは偏に日々の鍛練によるものなのだろうなとハルトは思う。
「師匠。
こちらです。」
その師匠は少し憮然とした表情で、ハルトとグリフのもとに近付いてくる。
「そんなに大きな声を出さなくても、聞こえておる。
グリフ。
鈍っておるのではないか?
少し遊んでいくか?」
「やめておきます。
今日の内に、やっておかなくてはならないことがありますので。」
「そうか。
暇が出来たのなら、偶には顔を見せろ。
孫が会いたがっておる。」
「分かりました。
その内にお伺いします。」
ハルトは二人のやり取りを聞いている。
ハルトが、ふとグリフを見てみると、ちょっと面倒そうな表情をしていた。
(あれ?いつもにこやかなグリフが、こんな顔をするとは珍しいな。)
ハルトがそんなことを考えているうちに、挨拶が終わったようだ。
「師匠。
こちらが“ハラハルト”君です。」
グリフの言葉に、一瞬、目を見張る師匠。
その後直ぐ、本当に楽しそうな表情になる。
「ほう。
そうかそうか。
“ハラハルト”君か。
ところで、君は武術か運動をやっておったのかね?」
「いえ。
武術というより、護身術を少し齧った程度です。」
ハルトは高校と大学のクラブ活動で数年間、護身術を練習しており、初段迄は取っていたのだが、道場に通っていた訳ではない。
「ほう。
その護身術とやらを、儂に見せてくれんかのう。」
「分かりました。
運動不足なので、大分鈍ってるとは思いますが…。」
そう言いつつ、説明しながら身体を動かしていくハルト。
ハルト一人では出来ない所は、グリフに手伝ってもらいながら、色々な技を見せていく。
師匠はハルトの動きに対して、その都度質問をしている。
杖術も含めて、出来る技の全てを終えると、体力が続かず息も絶え絶えになるハルト。
師匠はハルトに話し掛ける。
「ふむ。
良く分かった。
君の言う、護身術の心構えも理解出来る。
身体の関節や動き、仕組みを利用するのも合理的ではあるが、実戦を想定するとなると、ちと物足りんのう。」
「物足りない…ですか?」
「自分や仲間の命が掛かっている時に、相手を気遣う余裕があるのかのう。
骨を折れるのならば、折るべきだろうよ。
この頃は、ドームの周囲でも、妙な奴らが彷徨いていることだしのう。」
ハルトとグリフは師匠の言葉を聞き、それぞれが違う理由で驚いている。
グリフが驚いたのは、ドームの周囲を彷徨いている者がいるということだった。
ハルトが驚いたのは、骨を折れと言われたことだった。
現代の日本国内で、護身術を習っている者は割といるが、そこまでの覚悟を持つものは少ない。
中には常在戦場の精神を持つ者もいるだろう。
常に考えているのであれば、刃物の一突きで致命傷になりかねない無防備な身体を、見ず知らずの他人に晒す様なラッシュ時の電車には乗れないし、酒を飲んだあと、おちおち街中も歩けない。
護身の為の武術では、敵を痛めつける事よりも、敵を作らないことを目標としているものが多い。
つまるところ、現代の護身術は相手との調和を求めている。
強さを計るための演舞や試合等はあるが、試合にもルールが存在する。
その時点で、実戦とは程遠い。
「幸いシオンの外には、未だ長柄の武器がない様だから、君の杖術とやらも少しは使えるだろう。
ただの棒ではなく、槍に持ち替えて貰うがの。
これからしばらくの間、鍛えることにするかの。
宜しくな。
ハラハルト君。」
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