第10話 ここに来た理由

 グリフの言葉を聞いたハルトは、居ても立ってもいられず、早速立ち上がろうとする。

 それを見たグリフは、慌ててハルトを止める。


「場所も知らずに、どこに行くつもりなんだい?ハルト。

 少し落ち着いて欲しい。

 二つ目は、君がここに来た理由を調べてみる、っていうことなんだ。」

「俺がここに来た理由?

 それは自分の意思でもないし、全く思い当たらないよ。」

「何らかの原因やキッカケがあるはずなんだけど。

 君が覚えている範囲で、何か変わったことは無かったのかい?」

「いや。特には…。

 寄り道せずに仕事から帰って来て、普段通りに食事して…風呂入って…テレビ見て…ゲームして…寝ただけだしなぁ。」

「…テレビとかゲームっていうのは良く分からないけど…。

 君は随分と忙しいんだね。

 …眠ってから、一度も目は覚めなかったのかい?

 眠っている間に、夢も見ていなかったのかい?」

「夢か…。

 そういえば、変な夢を見たな。

 何処何処に行け、と神さまに言われたよ。

 滅茶苦茶怖かったな。」


 ハルトのその言葉を聞き、ガックリと脱力するグリフ。

「ハルト…。

 それだよ。

 君がここに来た理由は。」

「えっ?どれ?何?」

「その夢だよ。」


 グリフの指摘に、ハルトは即座に否定する。

「いやいや。

 夢は夢、だろう?」

「ん?

 そちらでは、精神や意識の研究は、あまり進んでいないのかい?

 今回の場合は、現実が夢に及ぼす影響と、夢が現実に及ぼす影響についてだね。」

「…。悪いけど、少し胡散臭そうだね。」


 ハルトの失礼な言葉に、苦笑しながら応えるグリフ。

「まあ、そうかも知れないね。

 例えば、研究者が夢の中で解決方法を見付けたりしたとか…。

 その様なことは記録に残されていないのかい?」

「それは…。

 寝ている間に知識や記憶が整理されるから、夢の中で結論が出るってことじゃないのかな。」

「ああ…。そういった場合もあるね。

 でも今回のケースは、少し違うものだと思うよ。

 実際に、ハルトはここにいる訳だしね。」


 ハルトの言葉を聞いたグリフは、全く異なる例を挙げる。

「あまり良い例えではないんだけど…。

 意識が無く入院していて、理論上では助からない筈なのに、奇跡的に助かったとか…。

 そんな話しを、そちらの世界では耳にしたことは無いのかい?」


 グリフに訊ねられて、ハルトはテレビや雑誌で、その様な類の物事を見たことを思い出す。

「そんな話を聞いたことはあるよ。」

「夢の話だけではなく、ヒトは自分の力だけで生きている訳では無いんだ。

 外的な要因。全体の力。“大いなる意思”と言って通じるかな?」

「大いなる意志?

 悪いけど、全く意味が分からないや。」

 グリフの言葉を聞き、困惑するハルト。


「ハルトがさっき言っていた、神様に相当するのかな。

 ハルトが言うところの神様という存在、大いなる意思というものは、こちらでは確立されているよ。

 実際に姿を確認したという事例は、記録には残されていないのだけどね。」

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