第5話 質問という名の取り調べ

 ハルトが目を覚ますと、医者のユーギンと見知らぬ男が話しをしていた。

 どうやら、ハルトに付いて何かの確認をしている様だった。


「…。

 だとすると、ハラハルト君は、この惑星の生まれでは無いのでしょう。

 彼の言動から判断すると、明らかに何らかの教育を受けていると思われますよ。

 医学的に看ても、我々とは異なる環境で生活していた様です。」

「それならば、そのハラハルト君とやらに、直接聞いてみることにしよう。」

「体調が万全ではないので短めにお願いしますよ、団長。

 …おや。

 丁度、目が覚めた様ですね。」


 団長と呼ばれた男は、濃い茶色の髪をしており、白い全身スーツの上に、体の要所要所にパッドが入ったジャケットを纏っていた。

 その男は、ハルトが目覚めたことに気が付くと、ハルトが寝ているベッドに近づいてきた。

 それを見て、ハルトは上半身を起こした。


「お目覚めかな。

 お初にお目に掛かる。

 私は、ザグレブという。

 自警団の責任者をしている者だ。

 この度は、若い団員が失礼をした。深く謝罪をする。」


 見るからに偉そうな人に謝罪をされたハルトは、少し気が引けながら、答えた。

「幸い後遺症も無いとのことですし、私の身体の調整?もしてくれたとのことなので、却って助かった部分もあります。

 本人に謝罪して頂けるのであれば、それで構いませんよ。」


 ザグレブと名乗った男は、少しホッとした様子だった。

 しかしそれは、ハルトの理性的な応対に対してであって、部下の仕出かした不始末の事についてではなかった。

「君の配慮に感謝する…。

 ところで、君に聞きたいことがあるのだが構わないだろうか?」

「はい。私で分かることなら。」

「そうか。

 それは助かる。」

 ザグレブは、そう返事をすると秘書官の様な女性を呼び寄せ、メモを取る様に指示をして、ハルトへの質問を始めた。


「君の出身地は、どこかな?」

「S県です。」

「それは国の名前かな?」

「?いえ。

 国名というなら、日本ですね。」


 ハルトは違和感を感じながらも、質問に答えていく。

 仮にも一組織の長たる者が、日本という国名すら知らないということはどうなのだろうか。

 この診療所がある場所は、余程小さな国なのか、教育が行き届いて無いのかもしれない、と思う一方で、“こんな所に日本人が”みたいなテレビ番組を見る限り、日本という国自体を知らない人も多くいるようだから、日本の知名度が低くても仕方ないのだろうな、などとも考えている。


「君が所属している組織は、何という名前なのかな?」

「組織?ですか…。

 勤務先で良いなら、Bという会社です。」


「その会社とは、なにをするところかな?」


「その製品とは、どんな物かな?」


「これは、何をするものかな?」


 ハルトが幾ら説明しても、今一つ理解して貰えない。

 世界各国で、様々なメーカーから売られている商品を、ハルトが説明する為に、秘書らしき女性から受け取ったタブレットの様な物に簡易な絵で描いてみせても理解して貰えない。

 ザグレブも、至極真面目に話を聞いているところをみると、ふざけているのではなく、馬鹿にされているということでも無いようだ。

 ハルト自身を精神的に疲れさせようとしているのなら効果はあるな、と思ったりもしている。


「君は、何者かな?」

 ハルトに対する質問が、段々おかしくなってきていた。


「何者って…。

 私は、日本の会社員です。」


「…。

 質問を変えよう。

 この閉ざされたシオンに、どうやって入って来たのかな?」

 ハルトは、その質問に戸惑った。

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