第3話 回り込まれてしまった

「そこの怪しい奴!

 ここでグリフと何をしている!

 どうやって、この場所に入って来た?」


 最初にハルトに声をかけてきた、にこやかな男は、グリフという名前らしい。

 驚いたハルトが振り返ってみると、やはり薄茶色の全身スーツを着ている欧米人風の顔立ちの者が数人いた。

 全身スーツたちは、グリフと呼ばれた男と違い、ハルトと穏やかに会話しようとする様子はなく、警戒している様だ。

 その全身スーツを着た男たちは、ハルトが見たこともない棒状の物をハルトの方に向けている。

 ハルトは漸く、そこにいる全員が全身スーツを着ていることに気が付いた。

 先ほど、グリフという男が話していた通り、普通の服というのは満更、嘘では無いらしい。

 さらに全員が同じ服装と言うことは、この地域の流行りなのかもしれないなと考えている。


「ここで目覚めてから、こちらにいるグリフさん?と少し会話をしていただけですよ。

 いきなりの犯罪者扱いは、やめて貰いたいのですが…。」

 ハルトは、苦笑しながら答えた。


「入って来られない筈のこの場所に、堂々といる理由を説明して欲しいものだな。

 話が通じるのなら、大人しく我々に付いてきてもらおうか。」

 全身スーツたちは、ハルトを不審者扱いしつつ、棒状のものを腰だめに構えだした。

 その剣呑な雰囲気を感じたハルトは、慌てだした。

「ちょ、ちょっと待って下さい!

 コチラとしても、ここがどこなのか知りたいのです。

 抵抗するつもりは、一切ありません。」


 当然のことながら、ハルトには、この周辺の土地勘もない。

 ハルトは、武器らしき物を向けられ、複数の人から囲まれている状況から、逃走など出来るはずもないと判断した。

 ハルトは抵抗するだけ無駄だと思い、両手を挙げた。

 すると、ハルトの行動を見て、全身スーツの男たちに緊張が走った。


「何だ?威嚇のつもりか?

 抵抗すると怪我だけじゃ済まないぞ!」


 周囲の男たちを見渡し、両手を前に出しながらハルトは言う。

「いやいや。

 何もしていないですよ!」

「おい。怪しい動きをするな!」

 パスッと音が聞こえ、ハルトの背中に何かが突き刺さった。


「痛っ?!」

 ハルトは反射的に口にしたが、痛みなのか熱さなのか、よく分からないものを背中に感じた。

 ハルトは、背中を確認しようと思い振り返ろうとしたが、身体が上手く動かせないことに愕然としつつ、倒れ込んだ。

 ハルトが気が付かない内に、体の感覚が麻痺してきていたようだ。


「ゲオルグ!

 早く止めるんだ!」

「わ、分かりました。」

 ゲオルグと呼ばれた男は、慌てた様子で棒状の物を操作している。

 指揮官らしき男が、ゲオルグに向かって問い質した。

「ゲオルグ。

 何故撃った!

 先ず、どうやってここに来たのかを聞くべきだったのに!」

「抵抗したと思いました!」

「そいつは、まだ何もしていなかったぞ!」

「何かをする前に、制圧するべきだと思いました!」

「ゲオルグ。

 貴様の行動は、団長に報告させてもらうぞ。」

「ハッ。了解しました!」

 グリフは、撃たれたハルトの傍らにしゃがみこみ、ハルトの状態を確認している。


「医務室へ運ぼう。」

「そうだな。

 ドルムート、ダーツ。

 運んでくれ。」

「はっ。」

「了解しました。」

 声をかけられた二人は、ハルトを医務室に運ぶ為、準備を始める。


 ハルトは、何処だか分からない場所で、こんな結果になる程、自分の運は悪くはないはずだと思っていた。

 ハルトは、混濁しつつある意識の中で、地面に“ゲオルグ”とメッセージを残したかった、などと思っていた。

 案外、余裕である。

 ハルトは、変な後悔を残しつつ、遠のく意識の中で全身スーツ達の会話を聞いていた。


 指揮官らしき男は、グリフに向き直った。

「グリフ。

 ここで、この男と何をしていた?」

「ザック。

 いくら反対派のごり押しが有ったからと言って、新人のゲオルグを連れてきたのは、失敗でしたね。

 そこに倒れている彼は、アイディーの実を口にしようとしていました。

 全くの部外者ですよ。」

「アイディーの実をか…。

 そうだとしても、どうやってここに入って来れたのか、先ず聞き出したかったのだがな…。

 回復を待つしかないのか…。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る