第380話 キミが笑う未来のために篇⑱ 激突ふたりの精霊魔法師たち〜世界を変える逆転の発想!?

 * * *



「真希奈真希奈真希奈ぁ!」


『お待ちくださいタケル様。そんな性急につばを飛ばしながら真希奈の名前を連呼してくださるなんて、がっついた感じがしてとても興奮するのですが……』


「わけ解んないフェチズムを開花させるな! ――ってそうじゃなくて、拡声魔法なんか使って何してくれてんだよ、ダフトン中に僕らのことが知られちゃったじゃないか!」


 現在僕は、星が瞬く夜の中にいる。

 市内上空に展開した魔素情報星雲エレメンタル・クラウドにより、欠片も魔法戦闘の余波を地上に及ぼさないようにしている。


 そう、魔法戦闘。

 精霊という高次元生命の加護を受けたふたりの魔法師同士によるガチの殴り合い。それは一般の魔法師たちの戦いを遥かに凌駕する神話の戦いそのものだ。


 エアリスが放ったエアカッターを水の防壁で防ぎきったセーレスは、お返しとばかりに水精の槍を投擲し――音速に迫る槍をエアリスは事もなげに身一つで躱してのける。


 これほどまでに高度な魔法戦になると、ほとんど陣取り合戦のようなものだと気付かされる。


 特にセーレスは空中での足場を形成するため、アクア・ブラッドを霧状に展開し、自らが自由に動ける版図を拡大しようと躍起だ。


 だが、いかんせんロケーションが悪い。

 空は完全にエアリスの領域だ。

 この惑星を取り巻く大気のすべてがエアリスの眷属と言っても過言ではない。


 結果、セーレスは自らの周囲に張り巡らせた球形状のアクア・ブラッドフィールドを纏いながら、空の絶対王者であるエアリスへと挑み続けている。


 それはあたかも天に向かって槍を突き立てんとする蛮勇行為のようだ。


 戦闘はセーレスに不利。

 エアリスに優勢。


 それは戦う前からわかっていたこと。

 こんな先の見えた勝負で、本当に彼女たちは僕の傍らを勝ち取れるつもりでいるのだろうか。


「いや、違う。ふたりはお互いに、僕の一番を譲り合っているんだっけ。……押し付け合ってるのか?」


『さすがにタケル様がその認識ではいけないと思います』


 真希奈の的確なツッコミ。

 こんな風に僕と会話をしながらもその実、彼女は風の魔素を利用した拡声魔法により、ダフトン市全域に僕らの痴話喧嘩を全部説明してしまっていた。


『どのみち、これほど派手な戦闘になってしまったのですから隠し通すことなど不可能です。臣民たちを不安がらせるよりも、酒の肴にでもしてもらった方がいいです。なんと言ってもタケル様はみんなの王様なのですから』


「王様はつらいよ」


 私生まれも育ちも地球は日本です。

 リゾーマタで産湯を使い、性はエンペドクレス、名はタケル。


 人呼んで――


瘋癲ふうてんのナスカと発しま――あら、これではダメですね』


「わざと間違えただろおい!」


 瘋癲って。僕の精神は正常である。

 今は仕事もしてるし穀潰しというわけでもない。

 我が娘ながらエスプリが効きすぎだ。

 またぞろ地球に行った折に仕入れた知識だろう。


「――おっと!」


 水精の槍と風の刃が反発し弾け合う。

 あまりの威力に深緑と濃藍の火花を散らせながら、それぞれが地上へと猛スピードで落ちていく。


 僕はすぐさま魔素情報星雲エレメンタル・クラウドで干渉し、ふたりの魔法を無効化する。


「そういえばふたりが戦うのって初めてか……」


 エアリスは地球でセーレスの分身であるセレスティアと戦っている。


 その時は、『高次元情報生命量子結合体』――精霊合体を行ったエアリスが勝利している。


 だがこの戦い、エアリスが『精霊合体奥の手』を使うまでもなくセーレスに不利。人生経験こそエアリスはセーレスに劣るが、魔法師としての密度はエアリスが上だ。


 ブロンコ・ベルベディアを師に仰ぎ鍛錬を行ってきたエアリスに対し、セーレスは長い時間をリゾーマタという閉じた世界の中で過ごしていた。


 いざ戦いとなったときの闘争心やセンスで、エアリスはセーレスを圧倒していると言わざるを得ない。だが――


『タケル様!』


 真希奈の鋭い呼び声に思考を中断する。

 明らかに周囲の様子がおかしい。


 僕が魔素情報星雲エレメンタル・クラウドのベールで市内全域を覆っているその上、先程までは満天の星空が広がっていた夜空は、今やどんよりとした雲で覆われていた。


「ま、まさか――!」


 ポツ、ポツポツポツっと、雨が降り始める。

 僕は慌てて全身に魔力を滾らせ、魔素情報星雲エレメンタル・クラウドにもさらなる魔力を注ぎ込む。


『間違いありません、アクア・ブラッドの雨です!』


「おいおい、ついに天候まで操れるようになったのか僕の嫁は――!」


 先程僕は魔法戦闘も陣取り合戦だと言った。

 大気のすべてがエアリスの領域だというのなら、セーレスは神なる血を以て、その領域を切り取り、自らの異界を創り上げる。


 これで立場は逆転した。

 先程まではエアリスが巨大な白い紙で、セーレスが墨汁の点だとすれば、今はエアリスこそが矮小な点の存在になってしまった。


 自由にのびのびと、空の中を自在に駆け巡っていたエアリスは今、深緑の魔素を自身の周囲にギュッと密着させ、このアクア・ブラッドの雨でできた異界に抗っている。


 その姿は泥濘でいねいの中を泳ぐ魚のように精彩を欠いたものだった。


 セーレスの反撃が始まる。

 水精の槍を用いた攻撃。


 だが今や雨粒のひとつひとつすべてが彼女の意のままに鋭い槍へと変化を遂げる。


 エアリスは三百六十度の全方位から水槍の容赦ない攻撃を受けていた。



 *



「くっ、まさかこんな手を打ってこようとは――」


 セーレスの雨を使った全方位攻撃にエアリスは完全防御の体制を取った。


 空こそが自分の版図。大気こそが自分の眷属。

 それは驕った考えだとでも言うように、エアリスの領域は簒奪さんだつされてしまった。


 妙だった。

 始めから反撃の手が緩いと思っていた。

 それもそのはず、よもや自分を閉じ込めるために天候まで操ろうとしていたとは――


「エアリス、もういい加減認めて。エアリスこそがタケルの一番。あなたが頷いてくれないとこの戦いは終わらないよ」


 全身をずぶ濡れにしたセーレスは、濃藍の魔素を纏いながら語りかけてくる。


 穏やかな口調とは裏腹に、攻撃の手は一切緩めていない。


 エアリスを釘付けにするため、雨粒を変化させたアクア・ブラッドスピアを暴風の如く突き立ててくる。


「馬鹿なことを申すな――、タケルが誰のためにヒトを捨てたと思っている。誰のために聖剣を欲し、世界をも飛び越えたと思っているのだ。すべてはそなたのためではないか――!」


 深緑の光輝が増す。

 一瞬でも気を緩めればすべての魔素を剥ぎ取られてしまう。


 アクア・ブラッドに絡め取られれば自分に付随する時間そのものを静止させられてしまう。


 恐ろしい。液体、個体、気体と様々に形状を変化させられるあの能力は汎用性が高く、機転次第でいくらでも応用が効く。


 今はチクチクと針のむしろのように自分の風の魔素を削ってきているだけだが、本気になればすぐにでもケリが付いてしまうだろう。


 本当に恐ろしいほどの魔法の才能。

 こと潜在能力に於いて、セーレスは自分を凌駕している――


「違う、違うよエアリス……!」


 まるで水中に浮かぶようゆらゆらと身体を揺らしながらセーレスは首を振った。


「何が違うというのだ。私は誰よりも傍らでタケルを見てきた。あの者の目には常にそなたしか映ってはいなかった……!」


 エアリスは自らの最高技、ホロウ・ストリングスを繰り出す。


 だが一本ではない。魔力の糸を使いこなすケイトのように、ホロウ・ストリングスを幾重にも編み込んでいく。


 ――ホロウ・ストリングス・チェーン。

 分子切断の切れ味はそのままに質量と有効範囲を広げたそれは、しなる鞭の速度でアクア・ブラッドを押しのけながら突き進む。


 対するセーレスが繰り出したのは水精の蛇。

 その頭部が半月状に変化し、超高速で振動し始める。


 ――アブレシブジェット・カッター。

 刃の部分を超高速で流体加速させたそれは、何物をも切り裂く絶対の剣となる。


 風と水。


 異なるようでいて方向性を同じくする魔法は、矛盾のほこ同士となって拮抗する。


 即ち、アブレシブジェットの刃をホロウ・ストリングス・チェーンが絡め取った瞬間、周囲の大気を巻き込んでプラズマ化。眩いばかりの稲光となって炸裂する。


 エアリスは両手で手綱を握るようホロウ・ストリングス・チェーンを持ち。


 セーレスは両手をで押し込むようアブレシブ・ジェット・カッターを支え続ける。


「私は――私はエアリスになりたかった! タケルが味わった苦痛も悲しみも全部ともに分かち合いたかった! 何も知らないでただ助けを待っているなんて嫌だった!」


 雨粒ではない、涙の雫を撒き散らしながらセーレスが叫ぶ。


 それは心からの哀哭。その証拠に昂ぶった感情とともにアブレシブジェットから放たれる紫電が激しく荒ぶる。


「私だって――」


 空という領域を侵され、圧倒的劣勢下でありながら、エアリスは手の中にある魔素の束が命綱とでも言うよう、力強く握り直す。


「私だって――一番最初にタケルに出会ったのが自分であったらと思わずにはいられなかった! そうすればあるいは、そなたの代わりになれるやも知れぬと、馬鹿なことを考えたりもした! だがな――――」


 エアリスを中心に風が巻き起こる。

 彼女を胎内に収めたままの風の繭が、アクア・ブラッドによって侵食された領域を僅かでも取り戻そうとグググっと膨らんでいく。


「私にはそなたの代わりはできない! そしてそなたも私にはなれない!」


 咆哮、そして魔力の発露。

 それはすぐさま魔力の糸となって寄り集まり、一本、二本、三本とホロウ・ストリングス・チェーンを形成――セーレス目掛けて殺到させる。


 対するセーレスも即応。

 同じ数だけのアブレシブジェット・カッターを創り出し迎撃する。


 接触の瞬間、カカ――っと、真昼のような閃光が夜空を駆け巡った。



 *



 強烈な光がダフトン市全域を照らし出す。

 次の瞬間、これまでで最大級の衝撃音が轟いた。


 臣民の誰もが目を覆い、耳をふさぎ、頭を抱えた。空気の焦げ付く匂いに鼻を押さえるものもいた。そして今もなお続く紫電の瞬きに戦慄と畏怖を抱く。


 これが精霊魔法師同士の戦い。

 ヒトが空を飛び回り、大気を従え、天候を操る。

 まるで神のような御業の数々。


 ともすればこれが痴話喧嘩の延長なのだと忘れてしまいそうになる。


 タケル・エンペドクレス王はこのふたりの精霊魔法師を本気で妻に迎えようとしているのか。


 臣民の中にあったお祭り気分が一気に冷めていく。


 そしてこのふたりの大人しくなるのなら、結婚でもなんでも早くしてやって欲しい。


 そう願わずにはいられなかった。



 *



 セーレスとエアリス。

 水と風。

 濃藍と深緑。

 アブレシブジェット・カッターとホロウ・ストリングス・チェーン。


 ふたりの渾身の威力を込めた魔法攻撃の激突は凄まじいものだった。


 その余波は暗雲を退け、降り注いでいたアクア・ブラッドの雨をも吹き飛ばすに十分なものだった。


 目を灼くほどの閃光が収まったあとには、ふたつのムートゥの柔らかな光だけがセーレスとエアリスを照らしていた。


「はあ……私の負けだ。そなたの好きにするがいい……」


 降参したのはエアリスの方だった。

 アクア・ブラッドの蛇に四肢を絡め取られ、彼女は空中に牽引されている。


 動かせるのは首から上だけ。

 誰がどう見ても勝敗は明らか。

 だが――


「エアリス……今手を抜いて戦ったでしょう!?」


 勝ったはずのセーレスは両の眼を釣り上げ、敗者へと詰め寄っていた。


「馬鹿なことを申すな。私は全力だったとも。セーレスが強すぎるのだ」


「絶対ウソ! エアリス全然本気じゃなかった! 見せかけばっかりで、肝心なとこで全部手を抜いてたのわかってるんだから!」


 敵に勝ちを哀願するは愚の骨頂。

 負けを認めない相手を折れさせるのは不毛というものだ。


 だがセーレスは食い下がる。

 決して諦めてしまっていい勝負ではない。

 彼女たちの人生がかかっているがゆえに。


「もう一度勝負して! 今度はあれ、アウラと精霊合体して!」


「バカを言うな。あんな力を使ってはそれこそ収集がつかなくなる」


「じゃあ今度は私もアクア・ブラッド使わないから!」


「なら私もホロウ・ストリングスは使わん」


「ダメ! エアリスは使っていいの!」


「それではまっとうな勝負とは言えんではないか」


「そうだもん! エアリスが勝てばいいんだもん!」


「なら私は一度負けているのでもう勝負はしない」


「ずーるーい! そんなのダメぇ! ダメなんだもーん! うわーん!」


 もうめちゃくちゃだった。

 セーレスは髪を振り乱し、わんわん泣きながら再勝負を申し込む。


 だがエアリスは自分の敗北を頑として譲らず、話は結局、戦い始める前の平行線に戻ってしまった。


 エアリスの拘束が解ける。

 セーレスはアクア・ブラッドフィールドにぺたんと座り込み、天を仰いでべそをかき始めた。


 人目もはばからず泣きじゃくるセーレスだったが、そんな彼女をエアリスが放っておけるはずもなく……。


 歩み寄ったエアリスは、子供のようにべそをかくセーレスを見下ろし「はああ」と盛大なため息をついた。


「お互いに、最初から本気でなど戦えるわけがないではないか……そなたはタケルの妃となる女なのだ。万が一にも傷などつけられない」


「それはエアリスの方だもん……ひっく。エアリスがタケルのお嫁さんになるんだもん……」


 やっぱりそれだけはお互い譲れない感情だった。

 エアリスは自分も頭ごなしに意見を押し付けてばかりだったことを反省し、己の心の内側を吐露するため、その場にしゃがみこんだ。


「セーレス、聞くのだ。先程言ったな、そなたは私になりたかったと」


「う、ん……」


「そしてそれは私も同じだとも言った」


「言ったぁ……!」


 大粒の涙がボロボロ溢れる。

 隠すことをしない、偽ることをしない。

 嬉しいを嬉しいと。

 悲しいを悲しいと。

 それだけでこの少女はなんと魅力的なのだろうかと思う。


 涙に濡れた頬、張り付いた髪の毛を整えてやりながら、エアリスは優しく語りかける。


「そのような気持ちに陥ったのは恐らく――私達はお互いにないものねだりをし、自分たちの知らないタケルの姿を補完し合おうとしていたのだと思う」


「どういうこと……?」


 どうもこうもそのままなのだが。

 今のセーレスは子供と同じなのだと思い、エアリスは幼子にするよう、そっとセーレスを抱き寄せた。


「私たちはもっと早くに、じっくりと腰を据えて話し合いをするべきだったのだ。そして、そなたがタケルと過ごした日々をどうか私に教えて欲しい。そのかわりに私も、タケルと過ごした毎日を、そなたに包み隠さず伝えよう」


「本当?」


「ああ、誓う。もはや私にはタケルのことに関して、そなたに秘めておかなければならない感情はない。同じ男を好きになった者同士、前よりもさらに親しい関係になれるはずだ」


「うん……私も、どんなに小さなことでも、大切なこと、恥ずかしいことも、エアリスになら話しても……ううん、聞いて欲しいと思うよ」


 エアリスが笑みを深める。

 そして早速ひとつ、今までは決して言えなかった秘密を告白する。


「私達はこれから、本当の意味で家族になる。そしてやはりタケルの一番にはそなたが相応しいと私は思う」


「それは――」


 そっと、人差し指で唇を塞ぎながら、エアリスは続ける。


「なぜなら私は、そなたのことを焦がれるほどに強く求めるタケルの姿にこそ惹かれてしまったのだから……」


「私を……?」


 こくりと、腕の中から見上げてくるセーレスにエアリスは頷く。


「初めて会った時からあの者の中にはそなたがいた。気がつけば、そなたのために無茶をするタケルを、私は好きになっていたのだ。だから、私の中では最初からタケルの一番はセーレスであると決まっている」


「エアリス……!」


 セーレスはギュッとエアリスを抱きしめた。

 お互いがひとつに溶け合ってしまうほど長く、情熱的な抱擁だった。


 ピッタリと密着した胸の奥、熱く脈打つ心臓の音が、ふたりの体内にこだましていることだろう。


 どれだけそうしていただろうか。

 ふたりは別れを惜しむよう、互いの身体を離す。


 息がかかるほどの距離で見つめ合いながら言葉を交わす。


「セーレス……わかってくれたか、私の気持ちを」


「うん……わかったよ」


「そうか、では――」


「わかったよ、だから私、エアリスと結婚する!」


 すべての時間が凍りついた。



 *



 今回のオチ、というか勝者。


「それでね、タケルと結婚する私がエアリスをお嫁さんにするの。そうすればタケルの一番は私で、私の一番はエアリスでしょ? これってすごくない? 二番目とかなくなっちゃうの!」


 本気で、僕は自分の妻になる女の子が何を言っているのかわからなかった。


 それはエアリスも同じようで、もうすでに考えることを放棄した彼女は、セーレスの腕の中ぐでーんと力なく抱っこされていた。


「タケルの第一妃が私で、私の第一妃がエアリス。うん、完璧! こういうのタケルの世界では『じぇんだーふりー』って言うんだよね!」


「なにその高度な知識!?」


 セレスティアからの情報か?

 何せうちの中で一番地球の生活が長いのは、僕に次いでセレスティアだ。


 様々な雑学を仕入れていて、それを宿主であるセーレスと情報共有していても不思議じゃない。


「いやいやいや、女同士が結婚って、そもそもできるのか?」


「いいの! そんなこと言い出したらまた喧嘩になるでしょ! 私、エアリスのこと大好きだからもういいの! むちゅー!」


「んうっ、んんっ!?」


 ああ、思考停止して油断していたなエアリス。

 ゼロ秒で唇に吸い付いたセーレスからの熱烈なチッス。エアリスは目を白黒させたあと、みるみる顔を赤くさせていく。


「エアリスぅ、可愛いよエアリスぅ。このおっぱいも揉み心地最高なんだからー」


「ひゃ、ひゃめ、手つきがイヤらしいぞそなた!」


「ダメぇ、暴れないのー、エアリスはもう私のものなんだからぁ、ね、観念しなさい」


「馬鹿者、こんなっ、ところで、あっ!」


「誰も見てないよ、こんなお空の上じゃあ。あ、ここが気持ちいーの?」


「やめ、タケル、見てないで助けないか――ああっ!」


 やべえ。正直鼻血出そう。

 僕のことを好きな女の子同士が睦み合う姿がこんなにも素晴らしいものだったなんて。


 こ、ここは是非僕も参戦しなければ――


「しゃーっ! メッよ、メーっ!」


 伸ばしかけた手が叩き落とされる。

 金髪の一部を水精の蛇に変化させたセーレスが獲物を奪われまいと牙を剥いてくる。


「セ、セーレスさん?」


「エアリスは私のお嫁さん? いやお婿さん? ……とにかくそうなったの! このおっぱいに触りたいなら私の許可を取りなさい!」


「なんだそれ――」


「なんだそれはああああっ!?」


 叫んだのはエアリスだった。自分の乳房の所有権がいつの間にか他所様になっていたのだ。そりゃあ叫びもする。


「もうエアリスうるさい、そんな口はこうしてやるー!」


「んうっ、やめ、舌を入れるなっ! タケル、助け――」


「あー、今日は初夜ってことで、諦めろ」


「そんな――!」


 よいではないか、よいではないかー……なんて迫りだしたセーレスは誰にも止められないと思う。まあもうここまで来たら、僕も覚悟を決めるだけだ。


 セーレスとエアリス。

 ちょっと百合百合しいけど、仲がいいのはとてもいいことだ。うん。


『臣民のみなさん、これにて一件落着!』


 真希奈が外界に向け、大岡裁きのように告げれば、街全体から歓喜の悲鳴が聞こえてきた。


 おめでとうございまーす! やっぱり祭りじゃー! エアリス様ー! セーレス先生ー!


 などなど、もうとっくに夜も更けているのにとんでもない騒ぎになった。


 どうせ見えるはずもないだろうが、僕はみんなに手を振った。


 胸がいっぱいで、少しでもこの喜びを皆に対して現したかったのだ。


 そして僕の背後ではいよいよふたりのイチャイチャが佳境を迎えていた。


「やめろ、セーレス! 水精の蛇の拘束を解くのだ!」


「エアリス、私とひとつになろう?」


 ホントにもう前途多難な嫁たちである。

 まあ何はともあれ――僕たち結婚します!


 続く。

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