第379話 キミが笑う未来のために篇⑰ いつかその純愛と誠意が届くまで〜ダフトン市上空・空中大決戦

 * * *



「ようばあちゃん、もう看板かい?」


 赤ら顔のパオ・バモス、ホビオ・マーコス両名に声をかけられ、歓楽街ノーバの外れに食堂を構える店主・バハはニッコリと頷いた。


「おお、久しぶりだねえパオ、それにそっちはホビオじゃないか。最近は港の方が忙しいんだって?」


「ああ、お陰様でなあ」


「しかしこんなにやりがいがある仕事も久しぶりだ」


 客も引けた店内には明日の仕込みをせっせと熟すバハと、厨房の方で何やら料理をこさえている孫娘のビオしかいない。


 パオはダフトンを預かる区長という肩書で、ホビオは街の治安を預かる警備長だった。ふたりはフラフラとおぼつかない足取りで店の中へと入ってくる。


「大分飲んでるようだねえ。どれ、なにか飲み物でも――」


「いや、実は酒ばっかでろくに食べてないんだ」


「残り物でいいから、なにか食べさせてくれないかな」


「なんだいアンタたち、いい年なんだから、空きっ腹に酒ばっかだと身体を壊すよ」


 若い頃から散々言われている言葉に、パオとホビオは顔を見合わせ、照れたように笑みを浮かべた。


「面目ないと思ってるけど、これでも今日は家に帰ろうと早めに切り上げて帰ってきたんだ」


「じゃあうちで食べるより奥さんのご飯の方がいいんじゃないのかい?」


「そうしたいんだけど、急なことだし、この時間だともう残ってないだろう」


「そうそう、俺達もようやく時間ができたから、その隙間で帰ってきたんだよ」


 バハは皮むきをしていた芋を水を張ったタライに入れると、厨房へと声を掛ける。


「ビオ、いい実験台が来てくれたよ。お前が今こさえてる新しい料理、食べさせてやんな」


「え、なあにおばあちゃん?」


 ひょいっと奥から顔だしたのは紛れもないバハの孫娘ビオ。確か元服の歳を過ぎたばかりだったか。だがパオもホビオも「お」と声を上げた。


「なんか、あれ、パオちゃんかい?」


「ああ、急に大人っぽくなったなあ」


 自分の記憶にあるよりグンと魅力を増した少女の姿に、幼い頃から彼女を知っているふたりは感心したように目を丸くする。


「なんだ、おじさんたちか。最近はまた我竜族の町の方に行ってるんでしょ。そのまま帰ってこなければよかったのに……」


 つん、とそっぽを向いたビオはそのまま厨房の奥へ引っ込もうとする。あんまりな孫娘の態度にバハが声を荒げた。


「こりゃ、まだおまえはそんなこと言ってるのかい。いつまで後生大事に恨みつらみを抱えてるんだい。当の我竜族たちだって、殊勝に謝りに来てくれたじゃないか」


「おばあちゃんこそ、あんなんで許しちゃうなんて甘すぎだよ! あいつらは結局強い奴の言いなりなんだ。上が方針を変えれば、またきっと私達をいじめにくるに決まってるよ!」


「はあ……、やれやれ」


 感情的なビオに対してバハは頭を抱えた。


 ディーオ亡き後、空白の領地となったダフトンに、我竜族がやってきたのはまだわずか四月ほどまえのこと。それが是正されたのはまだ三月前のことである。


 僅かな時間だけどとはいえ、我竜族によって街が占領され、物流が止められ、暴虐な振る舞いをされていたという記憶はまだ新しい。ビオのように彼らを毛嫌いする者たちもまだ少なくない。


「ビオちゃん、別に彼らを擁護するわけじゃないけど、街で悪さしていたのは、我竜族全体からすればごく僅かな奴らだけさ」


「そうだよ。ミクシャ・ジグモンドとその親衛隊の数十名だけさ。ただ、それでも彼らの力に抗えなかった俺たちが悪いんだ」


 街の警備を担当していたホビオは度重なる小競り合いで怪我をし、最後はろくに臣民たちを守ることすらできなくなっていた。


「ふん、だからって奴らが乱暴者であることに変わりはないよ」


 一旦厨房に引っ込んだビオは大きめの平皿をふたつ抱えて戻ってきた。それをパオとホビオの近くの食台に置いてやる。


「いつまでも突っ立ってないで座ったら? あと、料理の味は保証しないから」


「あ、ああ、ありがとう」


「いや、見た目はすごく美味そうだぞ?」


 口は悪くてもやっぱりビオはビオだ。自分たちが幼い頃から知ってる優しい少女の片鱗を見て、パオとホビオは目尻を下げる。そして出された料理をひと掬い、口に放り込んだ途端、さらに目尻を下げることになる。


「おお、こりゃ美味い。ぎゅっと味が濃くて染みるなあ」


「確かに。それにしてもこのトロトロになった肉、なんの肉だい?」


「カウロスの肉よ」


 その名前を聞いた途端、ふたりはぎょっとした。

 ホビオはカラーンと木さじを取り落としたほどだ。


「カウロスってあの魔物族モンスターの」


「その肉って、嘘だろう?」


「まあね。カウロスってのは嘘。魔物族じゃないカウロスモドキの方の肉よ」


 パオとホビオはホッと胸を撫で下ろす。

 カウロスとは牛頭の魔物族。

 カウロスモドキは頭がよく似た四足獣だ。


「いや、でもカウロスモドキの肉は筋張ってて食べられたものじゃないって聞いたぞ?」


「ああ、それなのに、このスープの肉と来たら柔らかくて、口の中に入れただけで溶けていくみたいだ」


 ハフハフとふたりは夢中でビオの料理を食べ始める。まるで皿まで舐め尽くす勢いで完食してしまった。


「美味かったあ」


「ごちそうさん」


 腰の曲がったバハが、ふたりの前に水を差し出す。パオもホビオも一気に飲み干した。


「いやあ、料理の腕、上がったんじゃないの。バハさん越えたでしょうこれは」


「ああ、本当にびっくりするくらい美味かった。この料理、店には出さないの?」


「私なんかまだまだ。だってこの料理はエアリスちゃんに教えてもらったんだもん」


 ふたりが空にした皿を流れるように片付けるビオ。その所作を見るに、やはり料理人としてよりかはまだまだ給仕の方が板についているようだ。


「エアリス様に?」


「そう。びーふしちゅー、っていうんだってこの料理。固くて筋張ったカウロスモドキの肉を徹底的に煮込む料理だから、薪代がかかるし、火の管理も大変。大衆料理としては出すにはお金がかかりすぎるのよ」


「え、それって……」


「今、どれくらい持ち合わせあったかな?」


 慌てた様子で懐をあさりだすパオたちに、ビオは「いいよ、今のは賄いの残りを出しただけだから。私のおごり」と言った。


「そいつはありがたい、けど……」


「ああ、本当に美味かった。これが賄いだなんてとんでもないよ」


「ありがと」


 ふたりからの称賛にビオは微笑を見せた。

 その表情はまさに、少女から大人へと変わる直前の、羽化の瞬間のように見える。


 だからついつい何の気なしにオッサンたちは言ってしまったのだ。


「ビオちゃん、ホントになんか変わったな……」


「ああ、もしかしていいヒトでもできたのかな?」


 ――ガランっ! と厨房に持っていこうとした木皿が床で跳ねた。ビオは足元に皿をひっくり返したまま固まっている。


 その光景におっさんふたりはバハの方を見た。


「お察しの通りだ。実はここ半月ほど、ビオに毎日交際を迫ってきている男がいるんだよ」


「おおっ、それはそれは!


「ビオちゃんおめでとう!」


「めでたくない!」


 まるで子供の癇癪のように大声を張り上げたビオは、足元の皿を拾い上げると、バタバタと厨房へ引っ込んでいってしまった。


「ありゃ……なんかマズイこと言ったかな俺ら」


「うーん、あの年頃の子は繊細だからなあ……」


「いやいや、アンタたらはなにも悪くないよ」


 バハは厨房の方をみやりながら静かに首を振る。


「あの子に交際を迫っているのはね、若い我竜族の男なんだよ」


「えっ!」


「嘘だろ!?」


 現在パオとホビオは、ルレネー河の袂に中型船舶が停泊できる港を、我竜族の協力の元建設中だった。


 ダフトンから東に10キロほどの場所にある大河川ルレネー河。


 タケル・エンペドクレス王は流浪の民だった我竜族にその肥沃な土地を与え、住まうことを許した。


 さらにその場所を交易の拠点として整備し、あの東の大国エストランテと貿易をする予定なのである。


 港の建設に身体能力に優れる我竜族は貴重な労働力として頼もしいが、いかんせん彼らには技術がない。流浪の民として一所に留まらない生活をしてきたのだから、拠点の作り方など知らなくて当然だ。


 したがって、測量技術や土木技術、建築技術を持った職人たちを派遣し、今我竜族の新しい町は空前の活気に湧いている。


 港が完成し、貿易船がやって来るようになれば、我竜族には永続的に仕事ができるだけでなく、ダフトンの街も潤うことになる。そんな街、ヒルベルト大陸のどこを見渡してもありはしない。


 龍神族の王、タケル・エンペドクレスがやってきてからわずかな時間でこれらが実現してしまった。


 親愛なる前王、ディーオ・エンペドクレスの後継として君臨した仮面と鎧の王は、最初こそ臣民に怪しまれていたが、もはやその実力と政治力を疑う者は誰ひとりとしていなくなっていた。


「おいおい、もしかしてアイツか?」


「ああ、昼休みになるといつもいなくなるのがいたな……」


「知ってるのかい?」


 バハの問いかけにパオとホビオは頷いた。

 今、我竜族という労働力を動かしている中心人物は彼らふたりだ。


 ダフトンからやってきたヒト種族も獣人種も、そして我竜族も分け隔てなく働き、一刻も早い港の建設に向け一願となっている。


 特に今は、我竜族がダフトンの街にやってくることはない。我竜族の拠点からダフトンまでの街道は整備の途中だし、いくら謝罪をしたとはいえ、我竜族に対する臣民感情はよいものとはいえないからだ。


 パオやホビオも、港が完成して、街道の整備が終わり、本格的に貿易が始まれば、好景気に沸く中、自然と我竜族への悪感情も和らいでいくだろうと考えていた。


「土木作業してる若い我竜族が、いつも昼時になるとふらっといなくなって、しばらくすると戻ってくることがあってな……」


「まさか、ノーバのこの店まで毎日通ってたのか」


「おやまあ」


 我竜族の拠点からノーバまで最低でも馬車で飛ばして半刻はかかる距離だ。


 それを毎日往復して、さらに一番キツイ土木作業に従事しているのか。


 頑丈さが売りの我竜族とはいえ、いつかは潰れてしまうかもしれない。


「体格がとにかく大きくて、しかも泥だらけだからねえ、いつも入り口から店の中には入って来ないのさ」


 なんでもその男は、まだ街が占領状態のときにビオを見かけて一目惚れしたらしい。


 なのでまずは入り口で謝罪。周りの客に対して迷惑をかける旨と、かつて自分たちの同族が暴力を奮って申し訳ないと、真摯に頭を下げていくそうだ。


 それから一通りビオへの愛を叫んでは「また明日来ます!」と言い残して帰っていくという。


「最初は私もビックリしてね。周りの客も冷やかしてばかりいたんだけど、もう半月以上、毎日だからねえ。私も段々いじらしくなってきちまってさあ……」


「ああ、確かに出会いは最悪だったかもしれねえがこりゃあ……」


「もしかしたら、いい結果になるかもしれないな……」


 バハからの説明を聞いたパオとホビオは席を立ち、厨房の方へと声をかけた。


「ビオちゃん、キミの気持ちはよく分かる。我竜族のしたことはちょっとやそっとじゃ許されるものじゃない」


「でもタケル・エンペドクレス王は、ゾルダ・ジグモンド王を誅した際にすべての罪をお許しになるとした。今の我竜族には一切の罪がない状態なんだ」


 ガンッ、と返事の代わりのように何か硬いものがぶつかる音がした。おたまか鍋か、それらを力任せに叩きつけたような音だった。



 いくら王の勅命でも、納得できるものではない。それはパオたちもわかっている。


「でも彼らは今、自分たちのため、そしてダフトンへの罪滅ぼしのために大変な工事を毎日行っている」


「ああ、一日中河の中に浸かって、ヒト種族だったら絶対に音を上げるような力仕事を黙々とこなしているんだよ」


 返事はない。いや、きっと聞こえている。息を殺すようにして耳を傾けているはずだ。そう思ってパオとホビオは畳み掛けた。


「港が完成したらとんでもない騒ぎになるぞ。他国からやってきたたくさんの物やヒトで溢れて、この食堂も今までとは比べ物にならないくらいたくさんの客で埋め尽くされることになる」


「ダフトンの臣民すべてが恩恵を受けることになるんだ。そしてその功績の一端は間違いなく我竜族によって齎されたものだ。毎日ここに通っているその彼も、きっといつかは赦されたいんだ。そして好きなヒトと結ばれて幸せになりたいと想っているはずだ……」


「俺たちはもうとっくに赦してる。今の彼らの仕事ぶりは信頼に値するものだからね」


「だからいつかキミも、彼のことを赦してあげてほしい」


 結局、ビオからの返事はなかった。

 少し説教臭かったかもしれない。


 最後に「一度港に来てご覧。見てるだけでもおもしろいよ」と言い残して店を出る。


 申し訳ないがおじさんふたりにできることはここまでだ。あとはバハにまかせよう。


「明日は朝一で戻らんとな」


「ああ、このまま何事もなく無事に終わってくれればいいが……」


 酔いもすっかり覚めた様子で、ふたりは家路を急ぐ。夕餉も終わりの時間。これから歓楽街のノーバを除いた周辺の住宅街は本格的に眠りの時間になる。


 パオもホビオも家に帰るのは10日ぶりだ。

 妻と子どもたちと僅かな時間、団らんを楽しもう。


 そう思っていた矢先だった。


「うわっ!」


「なんだっ!?」


 頭上、はるか上空から、雷のような破砕音が轟いた。


 それは今まで聞いたことのない、なにか途轍もない力を持ったもの同士がぶつかり合ったような音だった。


 ふたりしてウーッと首を伸ばし、星空を見上げる。


 するとそこには、まるで火花が散るように、深緑の光と濃藍の光とが瞬き合う光景が映し出された。


「な、なんだあれ……魔法の光か?」


「精霊様がこんな時間に遊び始めたのか?」


 風の精霊アウラ様と水の精霊セレスティア様。

 にわかには信じられないが、現人神ともいうべき精霊の化身がヒトの子供の姿となってダフトンの上空で飛竜と戯れる姿は名物となっている。そして危ないからとタケル王がお諌めにやってくるのも恒例である。


 だが、おふたりとも必ず夕刻には帰り、こんな夜まで遊ぶなどということはない――はずだった。


「おおっ!?」


「これはただ事じゃないぞ!」


 パパパっ、と深緑の光が瞬いたと思ったら、今度は濃藍の光が炸裂する。


 ドォォォンと、遠雷のように爆発音が後からやってきて、それに気づいた周辺の住民も、燭台に火を灯しながら外に出てきた。


「パオ区長とホビオさんですか? これは一体なんの騒ぎです?」


「いや、私達もさっぱりで」


「なにか魔法の光のように見えるんですが……」


「あ、また光った!」


 ドゴォン…………ゴゴゴゴっ!!

 いままで一番の爆発音だった。

 ビリビリと周囲の窓が揺れている。


 これはただごとではない。

 今すぐ周囲に避難勧告を――然る後に龍王城まで走って、タケル王の協力を仰がねば――などとパオとホビオが決意した途端、それをあざ笑うよう周囲の空気が震えた。


『あーあー、親愛なるダフトン臣民の皆様。夜分に大変おさがわせしております。真希奈です』


 ザワッと、周りが騒がしくなる。

 風の魔法を使って声を広範囲に拡散しているのだとパオたちには分かった。


「真希奈って、確かタケル・エンペドクレス王に引っ付いてる妖精の……?」


「いや、俺はタケル王が自分で創造した精霊だって聞いたけど」


「バカおまえ、神である精霊を創ったら、タケル王は神以上の存在ってか?」


「いや、だからそういうすげーお方なんじゃねーの?」


 ザワザワと住民たちが自分の持ちえる情報を交換し始める。それはほとんどパオとホビオの持っている知識と変わりないものだったが……。


『現在、ダフトン上空において、高度な魔法戦闘が発生しております。臣民のみなさんは物見遊山などせぬよう、戸締まりをして屋内待機をしてください』


「魔法戦闘!?」


「おいおい、どこのどいつが戦ってるんだよ!」


「はた迷惑な……」


 みなの反応は概ね怯えと不安といったものだった。だがパオとホビオはそのなかでもことさら冷静だった。


 タケル・エンペドクレス王が御自ら創造した人工精霊真希奈。嘘かホントかは知らないが、高度な知性を宿しているのはこれまで会話した経験からわかっている。


 そしてそんな彼女が上空で魔法戦が行われていると言った。つまり魔法を駆使して空中戦をしているのだ。


 そんなことができるものはこのダフトンにおいてもごくごく限られた者しかいない。


 つまりは――


『現在戦っているのはエアスト=リアス、アリスト=セレスの両名。前者はみなさんご存知の通り、前王ディーオ・エンペドクレスの遺児であり、後者は癒やしの魔法の使い手として市内で診療所を開いています』


 ああ、やっぱりあのふたりか、とパオとホビオは思った。


 エアスト=リアス――エアリスはディーオ存命の頃から知っているし、アリスト=セレス――セーレスは最近評判の魔法師だ。


 特にセーレス先生はタケル・エンペドクレス王がやってきたのと時を同じくしてダフトンにやってきたという長耳長命族エルフの先生だ。


 今まで街に医者と呼べるものはおらず、病気の際には薬草を煎じて飲むか、神官の巡業を待つしかなかった。


 それがどんな病気や怪我も、たちどころに治してしまうとして大評判になっているのだ。


 知名度ではエアリス様に及ばないが、急速に認知度を増してきているのがセーレス先生であり、そんな彼女は今龍王城に住んでいるともっぱらの噂になっているのだが――


「なんでふたりが戦うんだ?」


 誰かが漏らしたつぶやきは、そのまま全員の疑問を代弁していた。


 なぜふたりが魔法を使ってまで戦い合わなければならないのか理解できない。


 だが、パオとホビオだけは「まさか……」と思い当たるフシがあるのだった。


 それは――


『現在ふたりは、タケル・エンペドクレス王の庇護下にあり、この度めでたく結婚の運びとなりました。ですが――現在はどちらが第一妃になるのかで意見が対立しております』


 えっっ――と、ダフトンの全臣民が声を上げた。


 結婚。タケル・エンペドクレス王とエアスト=リアス、アリスト=セレスが。


 それは――


「一大事じゃねーか!」


「寝てる場合じゃねえ、みんな起こせ起こせ!」


「こりゃあ祭りじゃー!」


「おう、誰か酒もってこいやー!」


 周囲一帯が蜂の巣をつついた騒ぎになった。

 眠たそうに目をこすった子どもたちまで起き出し、空中に咲いた魔法の光に大喜びしている。


 中にはどちらが勝つか、あるいはどちらが第一妃に相応しいか賭け事を始めるものまでいる始末。


「案の定というかなんというか……」


「こうなったらしょうがない、しっかり行く末を見守ろう」


 頭を抱えるパオと、その肩を叩くホビオ。

 夜空には深緑と濃藍の残滓が交互に瞬いては消えていく。


 こうしてダフトンの臣民すべてを巻き込みながら、精霊魔法師同士の戦いは苛烈さを増していくのだった。


 続く。

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