第365話 キミが笑う未来のために篇③ 龍王の名声とゴシップネタ〜冒険者ナスカ男色疑惑発生!
* * *
「はーい、みなさんおはようございまーす」
ざーまーすっ、と、どこかやる気のないローテンションの返事がこだまする。
ようやく日が昇り始めたダフトンの街並み。その中心の繁華街はノーバの外れに冒険者ギルドはある。
僕らは未だ閉まったままの商店が軒を連ねる朝の大通りに集まり、ギルド職員であるハウトさんが抑え気味に声を上げている。
ハウトさんはツバが拡がった帽子と半袖短パン、ショルダーバッグに大きめの水筒を肩からぶら下げていて、まるで遠足の先生みたいだった。
「本日は早くからお集まりくださりありがとうございまーす。皆様を引率します、ハウト・エマニエルでーす」
わー、パチパチ……と、やはりテンション低めの拍手が起こる。みんな低血圧なのかな。
「今回、先発隊と称しまして、ゴルゴダ平原に出現しました地下迷宮を皆さんで討伐してもらいまーす。一口にゴルゴダ平原と言いましても、ダフトンの西、馬車で丸一日の距離にありまーす」
馬車で丸一日か。大体100〜150キロくらいだろうと当たりをつける。
「えー、中には知らない冒険者の方もいらっしゃるかもしれませんので、お伝えしておきます。ヒルベルト大陸は魔族種と呼ばれる、非常に稀有な種族が多数お住まいになっています。その全ては27名いらっしゃるという根源貴族の方たちが、自分の領土を守りながら生活をされています」
ハウトさんが説明を始めた理由は、ダフトンにいる冒険者は多種多様で、魔人族と獣人種がほとんどであり、中には僕みたいな(自称)ヒト種族も混ざっていることを考慮した結果だった。
「ここからここまで、という根源貴族の領土は非常に限られていますが、勝手に入っていくと一族郎党係累から睨まれる場合もあるので注意が必要です」
大概の種族は河川ルレネー、ルグルー、あるい大河川ナウシズの流域に隣接している。それ以外にも小川や湖といった水源の近くに居を構える場合が多いようだ。
ヒルベルト大陸は川沿いに北進すればテルル山地にぶつかり、それより先はヒト種族の領域にたどり着く。東は大河川ナウシズに阻まれた獣人種の領域と魔の森、南へ行けばジオグラシア海に出る。
僕の居城から西には広く荒涼とした平原が拡がっている。
ゴルゴダ平原と呼ばれる乾燥地帯で、ポツポツとオアシスのように小さな水源がある以外、特に目立った丘や山などのない場所だ。そこをずーっと突き進んでいけば、アーガ・マヤを挟んだニオブ海にたどり着く。
「それでですねー、なんとも不運なことに今回、地下迷宮が発見されたのはどこの領域にも属していない中域緩衝地帯でして、一番最寄りの魔族種領土が我らがタケル・エンペドクレス様のおわすここ、ダフトンとなってしまうんですねー」
あーあ、と諦めの溜息が聞こえる。
うーん……まあこういうのは災害に近い諦観が必要だな。
「というわけで、ダフトンの冒険者ギルドに所属するみなさんに地下迷宮討伐の白羽の矢が立ったというわけです。えー、では続きの説明をギルド長ノーメン・ザークさんよりお願いします」
ハウトさんはそのまま全員の前から離れ、大通りに一列に配置された帆掛馬車へと向かっていく。引率責任者だから忙しそうだな。
「どうも……元冒険者8段位、ノーメン・ザークです」
ハウトさんのときよりも確実にまばらな拍手が起こる。
ちなみに彼の言う8段位とは結構すごいのだ。
冒険者なりたては、10級からスタートし、実績により昇級すると数字は少なくなっていく。
1級を取ると昇段試験が行われ、それに合格すると初段位が与えられ、一流冒険者の仲間入りをする。
8段位とはかなり高位であり、大概は根源貴族や大商会の御用達として専属契約を結ぶレベルの段位だった。
挨拶をするギルド長は表情筋というものがないのか、無表情のまま話し始める。
「皆さん、冒険者は慈善団体ではありません。依頼とお金がなければ動かない。では今回の皆さんの雇用主は誰であろう、冒険者ギルドです」
戦意を鼓舞するようなことでも言うのかと思いきや、いきなり現実的な話をされて全員のやる気がもりもり減っていく。こんなヒトがダフトンのギルド長だったのか。
「その冒険者ギルドが皆さんにお支払いする討伐報酬は、地下迷宮に出没する
そう、魔物族は魔力を持った特別な獣だ。通常の獣よりも知能は高く、身体能力もある。さらには極稀に攻撃魔法を放つものもいるほどなのだ。
「皆さんご存知の通り、我らが王、タケル・エンペドクレス様は黄龍石を用いた宝飾品を販売し始めました。それによって魔石市場の価格が暴落するのではないかと危惧しましたが、魔力ではなく用途の定められた魔法が封じ込められているとか。どのみち、我ら庶民には手も足も出ない値段で売られているのが幸いで、魔石市場は変わらず機能しています」
みんなには興味のない話だが、正直僕は彼の話は面白いと思った。
宝飾品としても優れ、守りの魔法が付与されたドルゴリオタイトと、単なる魔力が添加された魔石とでは似て非なるものだ。互いの市場を食いつぶすことなく両輪の歯車は回り続けている。
「地下迷宮ができてしまったことは大きな不幸ですが、それは好機でもあります。つまり狩場です。金のなる木です。是非、たくさんの魔石を持ち帰ってください。ちなみに完全歩合制になりますので、自分が討伐した魔物族の魔石は自分で管理するよう――」
持ち帰られた魔石は、魔力が宿った天然鉱石として、主に魔法を生業にする魔法師学校に卸されたり、採掘場に回されることになるそうだ。実際中に宿った魔力を100%の形で取り出すことは出来ないそうだが、それでも魔法の威力を底上げすることができ、採掘現場では岩盤爆破に使われる。それは完全にダイナマイトと同じ扱いだった。
最後にノーメン氏は「いっぱい稼ぐぞー」と、夢も希望もない掛け声で締めた。終始無表情だったのだが、その言葉にはずいぶん熱が籠もっていたように思う。その証拠に他の冒険者も多少やる気になったようだ。表情の明るい者が多い。
「えー、では馬車の準備ができましたので10名ずつ班になって乗り込んでください」
ハウトさんがそう言うと、馴染みのある者同士、あっという間にグループができていく。うおお、トラウマが。僕にとっては最初の難関だ。
「あ、ナスカさんはこっちです。魔法師の方はこちらに来てください」
ハウトさんが僕に向かって手招きをした。
ほっ、としながらそちらに歩いていくと――
「あなたがホシザキ・ナスカね」
僕の行く手を遮るように、一人の冒険者が立ち塞がった。
珍しい女性冒険者である。女性というよりは少女と言ったほうが正しいか。
年の頃はセーレスやアイティアと同じくらい。小さめのケモミミを生やしており、飴色の長い髪は後ろでポニーテールにしている。
動き回るからだろうか、スポーツブラみたいなアンダーの上から革製のレザーアーマーを纏っている。下は薄手のミニスカートのような腰巻きで、足元は頑丈そうなブーツを履いていた。
なにより印象的なのがその瞳。
自信と希望に満ちた、非常に生き生きとした目をしている。
それを表すよう、彼女は自分の腰元に手を当てながら、えっへんと名乗りを上げた。
「初めまして、私の名前はイオ・ファン・ロイダーズ。イオって呼んでちょうだい」
「は、はあ。どうもホシザキ・ナスカです」
グイグイくる女の子は苦手なのだ。
主に僕の幼馴染様を想起させるためである。
イオと名乗った少女は僕の全身を舐め回すように見ている。
まるで蛇が絡みつくような視線だ。オクタヴィアの遠慮のない視線も実は苦手だったりする。あれ? 僕ってトラウマだらけだな。
「今回の討伐隊には50名に対して魔法師は私とあなただけなんですって。これは極端に少ない数だわ。通常は最低でも一割の魔法師をつけるべきなのに」
へえ、普通はそういうものなのか……。
すみませんね、僕は普通じゃないもので。
その言葉を聞いているハウトさんが苦いものを噛んだ顔をする。
ギルド職員として情けない気持ちもあるのだろう。
「でも聞けばあなたは魔法師一級の資格を持っているんですってね。すごいわ。それって実力のある魔法師と戦って勝ったってことでしょう」
イオはズイッと僕の目の前にやってくる。
そしてあっという間に僕の手を握ると、ギュッと力を込めながら言った。
「私、強い男って大好き。よかったら結婚してあげてもいいわよ?」
「はい?」
突然何を言ってるんだこの子は。
だが彼女の瞳は真剣だ。
どうしたものかと困っていると――
「――きゃッ!?」
突然僕と彼女の間に空気の塊みたいなものが弾けた。
軽いイオの身体はたたらを踏んで後退する。
真希奈ぁ……。
「な、なに今の? 風の魔法?」
「ごめんね。あんまり可愛い女の子が近づくと無意識に出ちゃうんだ」
それは本当だ。
真希奈が嫉妬を抱くほどの女性が近づけば、愛娘の魔法が炸裂する。
だがイオはそれが僕自身の口説き文句だと思ったようだった。
「そんな、可愛いだなんて……。いいわ、ますます気に入った。あなた、是非私と――」
再びぐいぐい距離を詰めてくるイオに、本気で身をかわそうとした瞬間――
「いい加減にしないか」
「いたたッ、やめて、髪を引っ張らないで!」
身を乗り出していたイオの顎がガクンと跳ね上がる。
何かと思えば、彼女のポニーテールを引っ張って止める男の姿があった。
「すまないなキミ。俺の相方が失礼した」
そう言ってペコリと頭を下げた男性もまた冒険者の身なりをしていた。
冒険者――というよりも剣士と言った風情だ。
胸部を覆うライトアーマーと両手のガントレット。
膝から下にも脚甲を纏い、腰元には長大なロングソードが見て取れた。
「ジャン、馬の尾っぽのように引っ張るのはやめてよ!」
「イオ、キミはもう少し節操というものを身に着けたほうがいい」
「いい男がいたら声をかけずにはいられないわ! それが強い男なら尚更よ!」
「だからってキミは、昨日も龍王城で粗相をして――」
なんだって? 龍王城?
「今の話詳しく聞かせてくれる?」
僕がそう言うと、ジャンはしまった、という顔になった。
僕がジッと彼を見つめ続けると、逃げられないと知ったのか、申し訳なさそうに話し始めた。
「すまん、俺の監督不行き届きだった。俺たちはつい最近ダフトンにやってきた流れの冒険者なのだが、こちらにおわす龍王、タケル・エンペドクレス様はかなりおおらかな方だというので、謁見できないかと城まで訪ねて行ったのだ」
なんかイヤな予感が……。
「その時に、侍従の方を大変怒らせてしまったようでな……反省している」
「侍従ってエアリ――エアスト=リアス様のことか?」
僕がそう口にすると、馬車に乗り込もうとていた冒険者たちが足を止めるのがわかった。なんだなんだ、と注目が集まる。ジャンは迷う素振りを見せるも、正直に話すことにしたようだ。
「その時は知らなかったんだ、まさかメイド服を着たあの女性が、かの有名な風の精霊魔法師様だったとは。この討伐が終わったら手土産を持って改めて謝罪に行くつもりだ」
それはどちらかというと周囲の冒険者に向けた防波堤だった。確かにここは龍王のお膝元。その一番の家臣である風の精霊魔法使い、エアスト=リアスの逆鱗に触れることはタケル・エンペドクレスを怒らせることと同義だ。
他のみんなから、こいつら俺らの王様に何をしてくれたんだ? 的な責める視線が突き刺さる。ジャンはその視線に顔を青くしたが、隣のイオはふてくされたように髪を掴んでいたジャンを振りほどいた。
「ふん、ただ単にタケル・エンペドクレス様のお
やっぱりか……。僕は内心で頭を抱えた。
昨夜のエアリスが不機嫌だった理由はキミだったのか。
しかもずいぶんオブラートに包んでいるが、自分の婚約者に相応しい、などと上から目線で言ったそうじゃないか。
気がつけば、僕らの周りは冒険者に取り囲まれていた。
一触即発な雰囲気にジャンは剣の柄に手を置き臨戦態勢に。
イオは素知らぬ顔で唇を尖らせ憮然としている。
これは、マズイか……?
「てめえ、それでエアスト=リアス様を怒らせたのか?」
「そ、そうだ。物凄いエア・ハンマーで二人して叩き出された……!」
「そっかそっかぁ」
ひとりの冒険者の質問にジャンが応えると、周りからせせら笑うような声が聞こえた。それはだんだんと大きくなっていき――
「ふははっ、おもしれえ姉ちゃんだな!」
「無礼だが間違っちゃいねえ。龍王を夫にできたら最高だろうな!」
「気に入ったぜおめえら!」
いい酒の肴を手に入れた、とでも思っているのか、むくつけき冒険者たちは、あごひげをさすったり、黄色い歯を見せながら腹を抱えて大爆笑を始める。
ジャンはあからさまに安堵した表情になり、僕も胸をなでおろす。
イオだけは相変わらず、「でしょでしょ! 龍王の妻になったらあなた達、家臣にしてあげるわ!」などと
「でも実際どうなんだ? エアリスちゃん――おっと。エアスト=リアス様が龍王様の第一后様だろ?」
誰かが放ったその一言に、周りは静まり返った。
あとエアリスを「ちゃん」づけしたおまえ、後で話があるぞ。
「なんたってディーオ様の娘で、その本人が見い出した正当後継者だもんな。もちろん自分の夫にってことだろ?」
「いや、そもそも正当後継者って、ディーオ様の息子なのか? タケル・エンペドクレス様って。聞いたことねえよな、そんな話……」
「さあな。だが昔からディーオ様を知ってる年寄り連中はみんな口を揃えて三代目って言ってるぜ」
「ああ、あのブロンコのジジイも言ってたな。ディーオ様の力を受け継いでるって」
「後継者かどうかは知らんが強い。それは間違いない。好き放題してた我竜族の王を実力でねじ伏せたんだ。俺、実は野次馬に行って遠目で一部始終を見てたんだ」
「本当か! おまえその話、詳しく聞かせろ!」
多分地球でいうところの芸能人のゴシップネタと同じ扱いなのだろう。
領主で龍王である僕と、その一番の家臣であるエアスト=リアスとの関係は、邪推とかそういうのを抜きにして、みんなで共有すべき当然の話題のようだった。
「あのさあ、おまえらバハのばあちゃんの食堂の隣にできた、水精魔法の治癒魔法師さんって知ってるか?」
誰かがそう口にし、再び周りがシーンとなった。
そして口々に「知ってる!」「
「おまえら知らないだろうから教えてやるけど、あの
なにぃ!?
と驚愕の声がこだまする。
ああ、バレてたのか。
いやバレるだろ普通。
「あの
なんだってーッッ!!
今度こそ朝の眠りを覚ます大声が轟いた。
ダフトン名物、
「え、え!? 俺ら日常的に精霊様を見てたのか!?」「現人神だろそれ!」「あ、ありがたやー!」「俺、ダフトンに住んでてよかった……!」
などなど、思い思いの感想を口にする冒険者。
だが、話題の本番はこれからと言わんばかりに、セーレスの正体をバラした冒険者が続きを話す。
「水の精霊魔法師様――名前はアリスト=セレス様っていう、もともとはリゾーマタの人魔境界領域に住んでたらしいんだが、タケル・エンペドクレス様に見初められて、わざわざダフトンまで移り住んできたらしい――」
「ホントかそれ!」
僕はビックリした。
何故なら真偽を問う声は、冒険者の囲みの外、ノーバ商店街のおじさんからされたからだ。
「本当らしい……その証拠に今アリスト=セレス様は龍王城に住んでるらしいぞ」
「それじゃあエアリスちゃんはどうなっちゃうのよ!」
今度は囲みの反対側、果物屋の女将が悲鳴を上げた。
おいおい、いつの間にかとんでもない数の人垣が……。
朝っぱらから騒いでいた僕らを注意しようとしてやってきた商店街のみなさんが、ホットでナウな話題に取り込まれてしまったようだった。
「わからん! タケル・エンペドクレス様が何を考えているのか。精霊魔法師様ふたりを囲われて、それでおしまいか? なんにもしてないのか?」
「あの子供が精霊様ってことは、実の娘じゃないのか? 結婚しているわけじゃないのか?」
わいわいガヤガヤ。
本来注意すべきハウトさんまで一緒になって、あーでもないこーでもないと論議に花を咲かせている。ダメだこりゃ。ここは強引でも話題を変えないと……。
「ちょっと皆さん、いい加減地下迷宮の討伐に行きましょうよ!」
僕は
だが、帰ってきたのはあまりにも予想外の言葉だった。
「ちっ……今大事な話してるんだからよ、男色のナスカは黙ってろよ」
………………は? 今なんて言った?
「おお、そういや久しぶりだなナスカ。おまえゼイビスを追ってダフトンを出ていったんじゃないのか?」
「いや、出ていってもいないし、なんでゼイビスの名前が……?」
ゼイビスとは本名をエストランテ・ゼイビスアスといい、ドルゴリオタイトを巡るエストランテお家騒動で僕の協力を仰ぐために刺客を躱しながらダフトンまでやってきた東國の王子様だった。
今では第一王子として復権し、弟であるベアトリス第二王子が戴冠するまでエストランテを治めている。ダフトンにいる間、彼はゼイビスと名乗り、冒険者連中とは飲み友達だったようだが……。
「なんでって、お前ノーバの高級娼館にゼイビスを連れ込んだんだろ? 有名な話だぜ?」
ああ、あったなそんなこと……。
エストランテのお家事情を聞くため、聞き耳をたてられない場所で会談を行ったのだ。それが高級娼館だったのだが、まさか僕がゼイビスを連れ込んだことになっていたなんて。その時は真希奈とオクタヴィアも一緒だったのに!
「待ってくれ、僕は男色でもなんでもないし、第一ゼイビスはもう国に帰って嫁さんをもらってるんだぞ!?」
「いや、だからおまえ、振られたんだろ?」
「ちーがーうーッ!」
だがどんなに言い訳をしても信じてもらえず、彼が実は王子だったなんて話せるはずもなく……。僕は好いた男に逃げられた哀れなモーホーと認識されてしまっていた。
「そ、そうだっんですかナスカさん。私初めて知りました。ちょっと衝撃的すぎます……エアリス様とはホントなんでもなかったんですね……」
ハウトさんは顔面蒼白なってキョロキョロと目を泳がせて挙動不審になっていた。
「まあ、ナスカったら。あなたってとても辛い恋をしてるのね。でも大丈夫、私と結婚すればそんな醜聞なんて吹っ飛ぶから」
「愛の形はヒトそれぞれだ。特に干渉するつもりはない。だが俺の後ろに立つようなら容赦なく斬り捨てるぞ」
イオとジャンからもそのような言葉をかけられ、僕は絶望した。
タケル・エンペドクレスの名声が皆の間でかなり広まっていることには内心嬉しかった反面、アンダーカバーとして作り出した冒険者ホシザキ・ナスカは男色家であるというレッテルが貼られてしまった。
この汚名を返上するためには華麗にダンジョンを討伐する他あるまい……!
「みなさーん、いい加減出発しますよー!」
ハウトさんの声に「うーい」と返事をしながら、全員速やかに乗車していく。
朝の光を浴びながら馬車に揺られる僕は、首元から下げた手鏡――スマホを両手で掴み、こっそりとのぞき見する。
そこには多分に同情的な目を向ける愛娘の顔があった。
僕の気持ちをわかってくれるのはお前だけだよ真希奈……くすん。
続く。
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