第360話 浄化の勇者様御一行バカンス篇⑦ 浄化の勇者様御一行in水上温泉〜異世界美少女たちのご入浴

 * * *



「うっわあ〜!」


 感嘆の悲鳴を上げたのはソーラスだった。

 彼女の目の前には幻想的な風景が広がっていた。


「これ、全部お風呂、なのかしら?」


 パルメニもまた、眼前の光景が信じられず、しきりにまばたきを繰り返す。二人の前には、日本式の岩風呂が広がっていた。


 辺りは暗く、しぃんと静まり返り、頭上には薄っすらと星空が見える。


 流れ聞こえるのはチョロチョロと静かに注ぐ源泉かけ流しの湯であり、空間全体を、橙色の暖かな光が満たしている。


『お風呂に入るためには色々規則があります。まずは一度かけ湯を行い、体表面を清めましょう。入るときは右足のつま先からそっと入り、波紋を立てては――』


「きゃっほーい!」


 真希奈の講釈をブッチしたソーラスが、すでに湯船にダイブしていた。


「あーあ、なんとなくするかなとは思ってたけど……」


 温泉を見た瞬間、ソーラスの瞳は子供のように輝き、うちからこみ上げる衝動を我慢するようにウズウズとしていたのだ。


『わかってたのなら止めてください! こら、ソーラス!』


「最高の贅沢だー! こんなお風呂、ラエル様や王侯貴族だって持っていないぞー!」


 水を得た赤猫は大の字になって背中から倒れ、バッシャーンと盛大な水しぶきを上げる。常日頃は真希奈様真希奈様、と敬っているくせに、完全にハイになって聞こえていないようだった。


「わっ、ちょっとダメだよソーラスちゃん、真希奈様怒っちゃうよ?」


 ピタっと、湯船の中で駄々っ子のようにはしゃいでいたソーラスが動きを止める。そろそろ実力で止めようかと一歩を踏み出したパルメニも横を向いたまま固まっていた。


「な、なに、どうしたの?」


『アイティア、あなたって女は……』


 露天風呂へとやってきたアイティアの胸に、パルメニもソーラスも釘付けになった。アイティアは貸し与えられた手ぬぐいで自身の前を隠しているつもりだろうが、全く意味をなしていない。


 それどころか、胸を隠そうとすればするほど、大きな塊は柔軟にかつ重量を感じさせながら変化し、アイティアの両腕の防御を抜けようと零れ出てくる。


「ヤダ、なんかソーラスちゃんもパルメニさんも目が怖いよ……」


 恥じらいながらクネクネとするその姿に、ソーラスは憮然となり、パルメニは赤くなって目をそらす。


「……そういえば、アーガ・マヤで潜入調査してたときの勝負がまだお預けだったなー」


「どんな勝負なのよそれ」


 すっかり興奮も覚めきったソーラスは、湯船から上がると、本物の猫のようにブルブルと水切りをする。パルメニは、全身にそれを浴びながらも問わずにはいられなかった。


「娼館でね、馬鹿な男から情報を引き出す前に、こう足元に跪いてね」


 いいながらソーラスはしなやかな身のこなしでその場に両膝を突くと、日本で言う三つ指をつきながらそっと頭を下げた。


「ご主人様、本日はどちらを可愛がっていただけますか? 赤猫ですか? 黒猫ですか? ――って」


「なんとなく結果はわかるけど、どうなるの?」


「みんな口を揃えてアイティアがいいって」


「そう」


 同じく跪いたパルメニが、ポン、とソーラスの肩を優しく抱いた。


「24戦全敗……」


「もういいから、あっちでゆっくり温まりましょう」


「うん……ぐすん」


 ヒトと獣人を越えた真の友情が育まれた瞬間だった。ちなみにアイティアは真希奈から――


『なんなんですかその一人暮らしに向かないおっぱいはー!』


「一人暮らし!?」


『タケル様を誘惑する気ですか? スル気なんですねー!』


「ち、ちが……でも、龍神様が望むなら……」


 などと言いながらもじもじと赤くなるのだった。



 *



「ぐっふっふっふ……ああ、死ぬにはいい夜だあ……」


 露天風呂の岩場の影、ソーラスたちよりもいち早く、女湯ににて皆の到着を待っていた者が今、出血死寸前に陥っていた。


 イスカンダル冴子の娘、権田原佐智(18)歳である。


 有名なジュエリー職人の一人娘であり、幼い頃から手先が器用で、早くに亡くなった母に代わり、家の中の家事全般をこなしてきた。


 そんな彼女の趣味は、サブカルチャー全般。

 秋葉原でコスプレをし、メイド喫茶でアルバイトもしている。


「ふわあ……、ほんとにおしりから尻尾生えてる……パルメニさんも引き締まったいいカラダしてるなあ。……真希奈ちゃんの球体関節の裸体にタオルが巻かれている姿も、なんかこうマニアックな感じがしてグッとくるなあ……」


 さすがに風呂場にスマホカメラを持ち込むことはできないので、佐智は絶賛心のキャンバスを拡げて、自分が今目に焼き付けているものを写生していた。そして――


「ほああ、なんぞ、なんぞあれー! 艷やかな黒髪に猫耳尻尾! さ、さらにロリ巨乳ですとッッッ!!」


 佐智は趣味でイラストや漫画制作も行っているため、確かな観察眼と瞬間記憶を有している。そんな彼女の目は、背は小さいながら豊満なバストを持つアイティアに釘付けになった。


「86、87、まだ上がる!? 88、89ッ!? あのクビレだとトップとアンダーの差は…………ジーザス、驚異の30センチオーバー! Iカップ!?」


 パルメニを標準、ソーラスをアスリート体系とするなら、アイティアはまさに母性の固まりと言える。佐智は手元にプカプカ浮いていた手桶を手繰り寄せると、つつーっと漫画みたいに鼻血を流し、ポタポタと桶の中に落としていく。


「あんな子絶対エロ同人じゃん! ハイエースされまくりじゃん! お願いタケルさん、あの子を守ってあげて!」


 もちろん、佐智は冗談のつもりなのだが、アイティアは本気でむくつけ共に乱暴されかかったことがある。だがその身の内に精霊モリガンが目覚めたため、全員骨も残らず昇天していた。


 今後もし同じことが遭ったとしても彼女が無理やり手篭めにされることはないだろう。トラウマは増えるかもだが……。


 息を潜めているようで潜めていない、佐智の異世界美少女観察はまだ続く。



 *



「お風呂おっきいねえ、アウラちゃん」


「おおきい……綺麗」


 アイティアの次に登場したのはイリーナとアウラだった。


 ふたりは地球と異世界というより、ヒトと精霊として明確に肌の色が異なっている。


 寒冷地に生まれたイリーナは日焼けというものとは無縁の白すぎてやや青ざめた肌の色をしている。それに対して、アウラは母親譲りの、うっすら火を灯したような赤褐色の肌をしていた。


 しかもいまイリーナはお姉さんぶった感じでアウラをヨイショっと抱き上げ、アウラも、この場にエアリスがいない寂しさからか、ひっしとイリーナに抱きついている。


『イリーナさん、露天風呂の入り方はわかりますか?』


「ふっふー、真希奈ちゃん、まかせてよ。ワンクールアニメに付き物の水着回と並ぶ温泉回だって何度も見てシミュレーションはバッチリなんだから!」


 実はイリーナ、佐智とものすごく話が合いそうだった。


「アウラちゃん、本当はね、きちんと身体を洗ってから入ったほうがいいんだよ。でも今日は私達だけの貸し切りって話だから、かけ湯で済まそうね」


「すます……」


 冷たい石畳の上に降ろされ、アウラは少し身じろぎした。

 小さなお子に慈愛の笑みを浮かべながら、イリーナはそばの手桶にお湯を掬い、アウラを抱きかかえるように、湯を肩から優しくかけていく。


「どう、熱くない?」


「きもち、いい」


「そっか、よかった。頭からかぶる必要はないからね。首から下を優しく優しく……」


「早く、入りたい……」


「うん、じゃあこれくらいでいいかな。入る時に転ばないようにね」


「……だっこ」


「あは、甘えん坊だなあアウラちゃんは」


 よいしょっと、再び褐色のアウラを抱き上げ、イリーナも慎重な足取りで湯船に足を踏み入れる。両足が浸かったところでゆっくりと腰を下ろしていく。


 途中、アウラがお湯に浸かり始めると、浮力が働き、腕から感じる重さが一気になくなる。もともとアウラは羽のように軽い子供ではあるのだが、完全にゼロに感じるのだ。


「はああ〜、いい湯だなあ」


「泳ぎ、たい……」


「ごめんねアウラちゃん、ここはプールじゃないから。身体を温めて、身体を清める場所だから」


「……ぷーる?」


「そうそう、そこならたくさん泳いでもいいんだよ。あと海とかね」


「うみ……行ったことない」


「タケルめぇ……!」


 現代の地球に住んでいて、特に日本ならプールは愚か海で泳いだことがないものは、まずいないだろう。実は自分もそうなのだが、イリーナは知識としてそれらは当然ある。


 プールも海も、思うかべることすらできないアウラを不憫に思い、イリーナはタケルへの怒りの炎を燃え上がらせた。


「じゃあ今度みんなで海に行こっか。そしたらバーベキューとかするの。夜は肝試しとかして、きっと楽しいよ!」


「うん、イーニャも、一緒……」


「アウラちゃん!」


 イリーナの胸に手を当てて、キュッと握るアウラ。そのまま上目遣いでクリっと小首を傾げられ、イリーナはノックダウンした。


「私、アウラちゃんのためならなんでもする! 世界の富を集めることも、世界を滅ぼすことだってなんでもできるよ!」


 母性の目覚め。

 イリーナの中に急速に醸成されていく友情を越えた別の何か。それは母が子に向ける盲目的な愛情にも似て、イリーナの中で急速に形を変えていく。


「真希奈様、震えてるの? どうしたの?」


『ヒ、ヒトが、神にも悪魔にも落ちる瞬間を見てしまいました……!』


 アイティアの肩の上で、真希奈はひとりの少女が変貌する様に戦慄するのだった。



 *



「はあ〜、なんて尊い光景なんだろう」


 色白の少女と褐色の少女が肌と肌を合わせて一緒に温泉に浸かっている光景。それは、佐智の荒んで腐った心を洗い清めてくれていた。


 岩陰に隠れて観察しているだけで、佐智にはイリーナの心のうちが手に取るようにわかる。


 きっとあの少女は決意をしたのだ。

 自分が姉として、また母として、小さな妹、または娘をあらゆる災厄から守るのだと。


「なんて実際そんなことできるわけないけど、それくらいの心持ちという感じなんだろうなあ……」


 佐智は知らない。

 イリーナがその気になれば、世界中のあらゆるセキュリティを突破することができるスーパークラッカーであることを。そして実際に、サランガ災害の時に、その力はいかんなく発揮され、多くの市民の命を救っていることを。


 その力が反転したときの脅威は、ある意味人類にとってはサランガ以上のものとなるだろう。


 知らないが故に、佐智は幸せでいられるのだった。



 *



「おお、これはこれは、なんとも贅沢な風呂よのう」


 ようやく現れたのは、一切局部を隠すことなく、生まれたままの姿を晒すオクタヴィア・テトラコルド。アウラやセレスティア、イリーナと同じく、第二次性徴以前の未熟で未発達な体つきをしている。


 こちらもイリーナ同様、白すぎる肌をしているが、よくよく目を凝らせば、肩や首筋の周りに薄っすらと蛇の鱗のようなものが見て取れた。血管の集合体が見せる種族的妙であり、身体が暖まったり、極度の興奮状態になればもっと如実にその特徴が見られることだろう。


「オクタヴィア様、お先してまーす」


「ずいぶん遅かったのね。どうかしたの?」


 きちんとマナーを守り、湯船に浸かっているソーラスとパルメニ。ふたりの方にトテトテと向かいながらオクタヴィアはギョッとして足を止めた。


「う、浮いておる……!」


「いやぁ、そんなにまじまじ見ないでくださいぃ!」


 もちろん、アイティアのたわわな胸を見てしまった故の呟きだった。お湯の浮力に任せて「あー、らくちん」と遊ばせるままにしているところを見つかってしまったのだ。


「オ、オクタヴィア様、深く考えずに直感で答えて欲しいんですけど!」


 バシャっと、手を上げながら言うソーラスに隣でパルメニが「やめときなさいよ」と肩を抑えようとする。だが赤猫は突貫した。


「もし、オクタヴィア様が男だったら、今この瞬間、私とアイティアどっちとニャンニャンしますか!?」


「ニャンニャンとな?」


「そう、ニャンニャンです!」


 お酒のせいなのか、それとも温泉のせいなのか、真っ赤に染まった顔で、ソーラスは真剣そのものといった表情で迫る。比較対象のアイティアは「あはは」と苦笑いを浮かべた。


「それじゃあソーラスにお相手を願おうかのう」


「え」


「ええッ!?」


「いよっしゃあああー!」


 意外な答えに、アイティアとパルメニが驚き、ソーラスは飛び上がって拳を突き上げた。


「同情とか哀れみじゃないですよね!? 魔族種の根源貴族様ともあろうお方がそんな詰まらないことしませんよね!」


「お主、どんだけ卑屈なのか。まあ本心じゃよ」


「それは、是非理由が知りたいわね……」


 感涙に咽び、もはや言葉もないソーラスを脇にのけ、パルメニが問いただす。オクタヴィアは腰に手を当てながら、ふう、と首を振った。


「胸がデカくても得をすることなどなんもないからのう」


「ああ、なるほど」


 ひとり得心がいったとばかりにパルメニはうなずいた。


「それってどういうことですか?」


 正気に帰ったソーラスが湯船の縁から身を乗り出して聞いてくる。オクタヴィアはプカプカと乳房をお湯に遊ばせているアイティアを見下ろした。


「儂もいずれそうなる予定じゃからのう。戯れに町娘の格好で外を歩いたこともあるが、男どもの助平な視線がウザイのなんのと。最初は周りの女共の嫉妬も心地よかったんじゃが、四六時中だと気が滅入るわ。のう、アイティアよ」


「はあ、まあそうですねえ。お母さんと妹は普通なのに、どうして私だけこんなんなんだろうって、思ってましたねえ。別に恨んだりとかじゃないけど、純粋にどうしてって。なんかの時に、おっぱいだけ揉ませてくれって、男のヒトにお金を押し付けられて触られそうになったり――なんてことは割りとよくあることで……」


 陰々滅々としながら、アイティアが昏いオーラを放ち始める。光の反射のせいか、髪の色が紫色に見えるような……。


「ごめん、アイティアごめんよう! 私の醜い嫉妬なのさ! 馬鹿な女と笑っておくれよう!」


「きゃ、ちょっとソーラスちゃん……!」


 突然抱きついてきたソーラスをアイティアは優しく受け止めた。


「よしよし、気にしてないよ。ソーラスちゃんだったら許せるもん」


「アイティアお母さん……!」


 こちらも偉大なる母性を発揮させるアイティアに、ソーラスは己の愚かさを嘆き涙する。


「やれやれね」


「やれやれじゃのう」


 パルメニとオクタヴィアはお互い目配せをし、笑い合う。ニャンコ娘同士のじゃれ合いを微笑ましく見守るのだった。


「む、そういえば、前の奴め、なにをしておる?」


 かけ湯をして湯船に入ろうとしたオクタヴィアの手が停まる。一緒に脱衣所に入った前オクタヴィアがおそすぎるのだ。やれやれと引き返しかけた途端、ガラッと入り口から本人が現れる。


「おまたせしました」


 前オクタヴィアの姿に、その場にいた全員が釘付けになった。



 *



「なっ、え、うそ……!」


 佐智の興奮はマックスに達しつつあった。

 長湯に加えて異世界美少女たちのあられもない裸体に心臓は高鳴り続け、そろそろ鼻血も出なくなってきていた。


 イリーナとはまた違ったタイプの色白幼女、オクタヴィアの登場に感激し、佐智の鋭い観察眼は、蛇の鱗のような血管をも看破していた。


 そして極めつけが、前オクタヴィアの登場である。


 佐智が予想するに二人は姉妹か母娘――としか思えない極めて近似の容姿をしており、そのどちらかだろうと思っている。本当は母娘というより分身に近いのだが。


 脱衣所の扉をスライドさせて入ってきた前オクタヴィア――その容姿は完璧だった。


 170センチはあろうかというモデルなみの長身で、髪はややくすんだ白髪。瞳はトロンとややタレ気味であり、釣り眼気味のオクタヴィアとは対象的だ。


 なにより目算推定95センチオーバーと思われるバストと、キュッとくびれた腰、そして安産型の大きなおしりがなんとも――


「エ、エロス……!」


 あんなエロ漫画に出てくるような体型がほんとに実在しているとは驚きだ。だが、佐智に一番衝撃を与えたのはそんなものでではなかった。


 ゆっくりと湯船に近づく前オクタヴィアは、両手で自身の大きなお腹を大事そうに抱えている。


「ボテ腹……!?」


 佐智の意識はそれを認めた瞬間、闇の中に沈んだ。



 *



「ゲップ……コーラを飲みすぎました」


 ポコンと膨らんだお腹を抱えてやってきたのは前オクタヴィアだった。


 エアリス、ビックセレスティアと並び、抜群のプロポーションを持っている彼女に、新たに妊婦属性が付与された瞬間だった。


 いや、実際は単なる炭酸飲料の飲み過ぎによって腹が膨らんでいるだけなのだが、胃下垂気味に腹が膨らんでいるため、極めて妊婦に近い見た目になっている。


「飲みすぎじゃこの馬鹿者め。もはや呆れて途中から注意するのもアホらしくなってしまったわ」


「申し訳、ありません……げふぅ」


 遠慮なしにゲップする前オクタヴィアに、全員が渋面を作ったのは言うまでもない。


『どうですかね、イリーナさん、この状態でお風呂に入るのは』


「うーん、コーラって糖分の固まりだから、血糖値が急上昇して、今相当気持ち悪いはずなんだけど。あと水ぶくれ気味だから汗を流すのは有効かなあ……」


『とりあえず、気持ち悪くなったりしたら、すぐに上がるようにしてください』


「おおせのままに……」


 ゆっくりと跪き、真希奈指導の元、かけ湯を行う前オクタヴィア。


 肩から大きな乳房を滑り落ちたお湯が、お腹に弾かれて石畳の上に拡がっていく。


 湯を被るたびにその白すぎる肌は薄紅を纏い、オクタヴィアと同様に、首の周りや肩口、そして腿の外側に蛇の鱗のような血管が浮かび上がっていく。


 湯船の中に浸かっていた一同はその一部始終を食い入るように見つめていた。


「私、やっぱりアイティアが羨ましいかも……」


「わ、私だって前オクタヴィア様の身体には憧れちゃうよ」


 猫娘ふたりは湯船の中で身を寄せながら、お互いを慰めあっている――と、


「マキナ、イーニャ」


 イリーナの腕の中で玉のような汗をかきながら温泉に浸かっていたアウラがふたりを呼ぶ。


「どうしたのアウラちゃん?」


『なにかありました――――か!?』


 アウラが指をさす方向、岩風呂の向こうから、真っ赤な血溜まりが漂ってくるではないか。


 そしてその奥から流れてくる少女に、アイティアは悲鳴を上げた。


「きゃーッ、な、なに、なんなの!?」


「パルメニっ!」


「了解!」


 緊急事態に強いソーラスとパルメニが、真っ赤に染まったお湯も恐れずに漂う少女を救出する。


『佐智さん! 一体どうしたのですか!? っていうかいつから入っていたのですか!』


 湯船から引き上げられ、冷たい石畳の上に横たえられた佐智は、自分を取り囲んで覗き込む、裸の異世界美少女たちの姿を見た。


 それは無意識の行動。

 そしてオタクとしては当然のセリフ。


「我が生涯に、一片の悔いなし……」


 ゆでダコみたいにのぼせて大量出血までした佐智は、極楽にいるような気分を味わいながら再び気絶するのだった。


 続く。

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