第355話 浄化の勇者様御一行バカンス篇② 浄化の勇者様御一行in御徒町〜異世界ファッションショー開幕!?
* * *
「いらっしゃいませー――あのぉ、何名様でしょうか?」
突如として大所帯で現れた僕らに対し、店員の女性が引きつった笑み浮かべる。
「えっと13……11人です」
真希奈とアズズは数えるわけにはいかないよね。
「少々お待ち下さい、すぐにお席をご用意します」
すみませんねえ。お願いします。
僕らがやってきたのは昭和通り近くにあった喫茶店ルノアールだった。
以前上野駅前でカーミラたちと入った喫茶店でも良かったのだが、微妙に歩くし、大人数で入るには向いていないと思ったのでこちらにしたのだ。
「おまたせしました、ご案内します……!」
やや息を切した様子で店員さんが戻ってくる。
「ありがとうございます」
僕が先頭に立って歩こうとすると――
「あっりがと、ござます!」
とセーレスが言った。
まだセレスティアという精霊を介した日本語の発音に慣れていないのだろう、完全な片言になっているが、本人は気にした様子もなくニコニコ笑顔である。店員さんも最初は驚いた様子だったが、釣られて笑顔になっている。
とりあえず入り口に固まってると迷惑になるから、みんな行くよ。
*
三十分前。
「タケル、これなんかどうかな?」
「あの、タケル様、私の方もその、見て欲しいのですが」
「役得じゃのうお主は……」
上から順にセーレスとアイティア、そしてオクタヴィアである。
今僕らは山手線御徒町駅前にある吉池ビルに来ている。
ここは一階から六階までユニクロやGUなどのお店が入っていて、最新ファッションを安価で手に入れることができるのだ。
「うん、似合ってる似合ってる」
当然のようにファッションショーが始まってしまった。
特に異世界の洋服に興味を示したのはセーレスであり、さきほどから様々なコーデを試している真っ最中だ。
アイティアは特に、あんな寝間着みたいな格好で地球に連れてきてしまった責任があるので、満足の行くまで付き合う所存である。
ちなみに今セーレスが着ているのは胸元のフリルに水色のラインが入ったワンピースである。袖はノースリーブで、丈は膝下まであるようなロングタイプのものだ。先程から数えてもう五着目のお披露目なのだが、ホント何を着ても超似合う。
対するアイティアは同じくワンピを着ているが、トレンチタイプを着ている。薄めのベージュ色で、上半身は肩に紐をかけるオーバーオールっぽいやつだ。うん、かわいいね。
「ほ、ホントですか……!?」
おっと最後の言葉が口に出ていた。
アイティアは赤くなった顔を両手で隠してクネクネし始める。
隣の試着室にいたセーレスはツンと唇を尖らせた。
「私の時はそんなこと言ってくれなかったのに」
「いや、もちろんセーレスもかわいいよ」
当たり前じゃないですか。
その証拠にさっきから店員さんがチラチラ僕らを見てますよ。
通りがかった他のお客さんも目を丸くして立ち止まったりしてますからね。
「むー、ちょっと待ってて。もっと可愛いのもってくるから。行くよ、セレスティア、アウラ」
「お母様気合入ってるぅ! お父様を悩殺しちゃおうね!」
「もちろん! ほら、アウラも可愛いの選んであげるから!」
「う、ん……!」
いやいや、趣旨変わってますがな。街を歩いて違和感のない格好を選んでくださいね。
「ほんに役得じゃのうお主よ」
このこの、とばかりにオクタヴィアが肘で突いてくる。
「見よ、先程から通りがかる男共が羨ましそうにお主を眺めておるぞい」
そうなのだ。さっきから痛いくらいに視線を感じている。「なんであの美少女集団にあんな奴が混ざっている!」という感じで睨まれているのだ。
実際、僕らが使っている試着室はひとつかふたつのものなのだが、セーレスやエアリス、アイティアの容姿を見た他の客が遠慮か気後れをしていて、ほとんど僕らの独占状態になってしまっている。申し訳ない。
「じゃがどうなのじゃ、お主としては」
「何がだよ」
「おなごの好みよ。セーレスとエアリスは言うに及ばず、アイティアやソーラスも負けておらんぞ。パルメニの奴も、あれでなかなかヒト種族の中では上位の部類に入るしのう」
オクタヴィアめ、すっかり噂好きの耳年増みたいになってやがる。
だが実際、自分が生まれた日本にやってきて、改めて思い知らされるのは、ハイレベル過ぎるセーレスたちの容姿のことだった。
エアリスは高身長のグラマラスボディで、褐色の滑らかな肌と銀色の髪が目立つ目立つ。常にクールでいて、一歩引いてみんなを見守るおっかさんポジションも様になっていて、アウラやセレスティアが無茶をしないかいつも気をつけてくれている。ありがたやー。
セーレスは一見幼いように見えて、健全な色気がある。金髪に翡翠の瞳、
最近急速にその魅力を増してきたのはアイティアだ。もともと年上の好事家にはとことん好かれるコケティッシュな色気があったが、精霊モリガンを発現させて以降、大人の雰囲気がグンと増したような気がする。
猫耳が頭から生えているため、奇異の視線で見られがちだが、本人がとてつもなく可愛いので「まあいいか、似合ってるし」とばかりに許容されていると思う。秋葉原も近いしコスプレってことで誤魔化そう。
「そういうオクタヴィアはその服でいいのか?」
「お主の目から見て変でないのなら構わんよ。どうじゃ?」
クルリと、一回転して見せるオクタヴィア。
気取った仕草が恥ずかしかったのか、回り終わった後、チロっと真っ赤な舌を出してくる。
彼女の格好は真っ白いワンピースに、ボトムは黒いレギンスである。足元はローカットのスニーカーだ。正直に言おう、超似合っていると。いや、口には出さないが。そのかわり頭を撫でておこう。
「な、なにするんじゃお主は!」
「そうしてると年相応の子供なのなおまえ」
「どういう意味じゃ?」
いや、そのまんまだよ。頼むからそのままおとなしくしててくれ。
「まだ終わらないのか、タケル?」
「こっちはもう決まったんだけど」
「いやあ、とっても上等な服ですね。ありがとうございますタケル様!」
焦れた様子で試着コーナーにやってきたのはエアリスとパルメニさん、そしてソーラスだ。
三名はさすが手慣れたもの、というか、あっという間に自分に合う服を見繕って、すでに会計まで済ませてある。
エアリスさんは簡素なノースリーブシャツにテーパードデニム、クリアミュールのサンダルである。簡素だが彼女の抜群のスタイルが一発で分るナイスなコーデだ。でもサンダルの踵が高いので、僕より背が高く見えるのはちょっとおもしろくない。
パルメニさんはさすが大人って感じで、クリーム色のバックシャン(背中が開いている)のブラウスに、ワイルドなシルエットのサロペット(細いストラップのオーバーオール)、足元はパンプスで決めている。ちなみに頭にはアズズの仮面がくっついているのは愛嬌だろう。
ソーラスは赤毛猫耳を裏切るまさかの青色コーデで統一している。ヘムニットのプルオーバーシャツは水色で、下は青の花柄のフレアロングスカート。足元は動きやすさ重視の白スニーカーで固めてある。
なんというか、三人共きちんと自分というものをわかっている感じがする。魅せ方、というか背伸びもなにもしていない、ごくごく自然に自分の魅力の引き立て方を知っている感じだ。僕も絶賛を惜しまない。
「いいね! すごくいい!」
「うむ。タケルの従者としてみっともない格好はできないからな。当然だ」
フンス、とばかりにエアリスは胸を張った。シャツを押し上げるバストが半端ない。あまり街中ではしてほしくないな。後で注意しておこう。
「そう? ありがとう。異世界の服なんて初めてだからあんまり自信がなかったんだけど、そう言ってもらうと安心するわね」
『おいタケルよう、実はこいつあーでもない、こーでもないってかなり悩んでたんだぜ!?』
「アンタ死にたいの……?」
アズズの仮面をギリリと力を込めて握るパルメニさん。まあまあ落ち着いて。
「タケル様、本当にありがとうございます! 私、男の方からこんな仕立てのいい服を贈られるなんて初めてです!」
うんうん、そう言ってもらって僕も嬉しいよソーラス。
でも君たちが着てる服が、量販店の中でもかなり格安な部類だってことは黙っておこう。
ちなみにお金は常に真希奈(人形)の中にこっそり隠している。
何かあった時のために、地球のお金は常に携帯するようにしているのだ。
それも限界があるので、あとはイリーナにでも借りるしかない。
どうやら僕らはほとんど着の身着のまま地球にやってきてしまったようだからね。
「あれ、そういえばイリーナはどうした?」
「さっきからいるわよ」
背後から声をかけられて振り返る。
そこにはダーク系のカットソーに明るい色のチノパンを履いたイリーナがいた。
おおう、可愛いじゃん。
「さっきからずっといるのに、あんた、セーレスさんやエアリスちゃんばっか見すぎ!」
「いやすまなかった。別に無視していたわけじゃないぞ。ちゃんと似合ってる」
「なんかおざなりって感じ」
ぷいっと向いた横顔がほんのり赤くなっているのは気のせいだろう。うん。
「おまたせ、今度こそ決めて見せるからね!」
「お母様大胆!」
「見てて……」
ようやく戻ってきたセーレスは、セレスティアとアウラと一緒に試着室の中に入ってしまった。「わー」「きゃー」「えへへ」という声と共にカーテンが波のように揺れる。中でなにしてるんだよ。
そして遂に――
「じゃーん! どうだ、参ったか!」
ワンピースなのはさっきと同じだが、フラワー柄のレースタイプのモノになっている。白を基調としていて、非常に可愛らしい。下はハーフレギンスを着用し、膝下が透けて見えるのも微妙に色っぽい感じがする。足元はちょっと背伸びした感じがするストラップサンダルだ。
「参りました」
「よし、えへへ!」
ガッツポーズのセーレスである。
いやはや、一番の魅力はやっぱりその笑顔だね。
「お父様父様、私は!?」
「私、も……」
セレスティアは先程セーレスが着ていた、胸元に水色のフレアリボンをあしらったワンピースのキッズサイズ、足元はこれまたリボンがついたヘップサンダル姿だ。
アウラはエスニック柄のカシュクールシャツ(胸元が着物のように打ち合わせになった上衣)に、下は簡素なサーマルスリットが入ったパンツ、足元はキッズ用のストラップサンダルを履いている。
「可愛い! さすが僕の娘たち!」
思わずふたりを抱きしめる。
えへへ、とセーレスそっくりな笑い方をするセレスティアと、アウラはエアリスみたいなドヤ顔でピースサインである。
「むー、ふたりだけズルいなあ。私は?」
セーレスが両手を開いてクリっと小首をかしげる。
やめてください。僕の理性の鎖が千切れそうになるから。
「そ、そういえば、まったく前オクタヴィアの姿が見えないんだけど」
もしかしてまだ服を選んでいるのか?
「ここにいます……」
全員ぎょっとした。
何故なら閉まったままだった隣の試着室から声がしたからだ。
「な、なんじゃお主、いるのならさっさと出てこんかい」
「わかりました……」
オクタヴィアがそういうと、シャっとカーテンが空いた。
「ぶーッッ!」
僕は吹き出した。
何故なら前オクタヴィアはランジェリー姿だったからだ。
しかも妖艶な色気を誘う黒のガーターベルト着き。
地球の下着なんて初めてなのに、どうして着方を知ってるんだ!?
「なんちゅう格好をしてるんじゃお主は! ほ、ほとんど裸ではないかッ!」
「タケル様に、悦んでいただこう、かと……お嫌いですか?」
「お父様、見ちゃダメ!」
「ダメ……」
すかさず両手に抱いたセレスティアとアウラによって目を塞がれる。
だが一瞬でも見れば十分である。エアリスに負けないくらい均整の取れたプロポーションは、クッキリと目に焼き付いて離れそうになかった。
ちなみに、ひとり抜け駆け? をしたとのことで前オクタヴィアは、メンズ用のジャージ上下セットを着ることになったようだ。本人は特に気にした風もなく「動きやすいです」と満足げだった。
さて、全員のファッションショーが終わって僕のへそくりは完全に消えたわけだが。これからどうしようね?
続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます