第340話 北の災禍と黒炎の精霊篇3③ 邂逅・異世界の賢者様〜希望を載せて旅立つ車・前編
* * *
「ところでさ、なんでみんなしてそんなマントなんて羽織ってるの?」
ドーリア駐屯地に降り立った僕達を出迎えたイリーナは、ひとしきりエアリスたちとの再会を楽しんだあと、この地に集結したフルメンバーたちに対して疑問を呈した。
そう、僕以外の全員が、首の下を覆い隠すような
『急遽必要だと判断した』とエアリスは語る。
イリーナを待ちぼうけさせた原因である。
僕はまず、ヒルベルト大陸の龍王城へと向かい、出立の準備を整えたセーレスたちを迎えに行った。
この度、不死身である僕以外の彼女たちには特種装備が与えられている。
それこそがアクア・リキッドスーツであり、アダム・スミスに提供させた地球科学によって作られた魔法具である。
スーツの体表面に膜のようにアクア・リキッドを展開することができ、着用者は身体を丸ごとアクア・リキッドの庇護下に置くことができる。
魔力に素養がある者が着用すれば、身体機能や生理機能を強化でき、さらに
着るだけで人間を超人へと至らしめるこのスーツに、なんと今回はセーレスがコントローするアクア・ブラッドをまとわせ、万が一にも危険が及ばないように完全なるシールド処理を施すのだ。
地球では、第三世代以降の歩兵拡張装甲が齎す破滅的な三次元機動を相殺するための必須アイテムであり、今もなおアダム・スミスは魔力に適正のある者を探しているという。
そんな貴重なモノを望む数だけポンとくれてよこしながら奴は言った。
「しょせん
通話越しだったとはいえ、相変わらずヒトを苛つかせるやつだと思った。
だが今のやつは、戦後処理に追われ、昼も夜もなく働き尽くめなのだという。
特に現在の地球では脅威は去ったとする者たちと、新たな脅威に備えるべきという二大論争がG7を中心に巻き起こっており、このままでは世界までも分断しかねない勢いなのだという。
ふん、僕だって今負けないくらい超忙しい毎日なんだからな。仕事アピールなんて今時流行んないぞ。
*
それはさておき、今回、アクラガスの宿場町の救援には人手が必要だった。
だが一般の兵士たちでは現場に入るだけで汚染されてしまうので、オクタヴィアたちも動員することとなったのである。
みんなにはもちろん事前に危険な場所であることは説明してある。
健康な身体を細胞レベルで破壊する呪いが充満した町であり、そこに取り残されたヒト種族を救い出すので手を貸して欲しいと。
「呪いはセーレスの固有アビリティ、アクア・ブラッドを展開すれば防げるはずだから」
そう僕が口にしたとき、みんなはピンときてなかったようだ。
「……水の精霊の特別な加護を施せば平気だから」
そう言うことでようやく、オクタヴィアやパルメニさん、ソーラスやアイティアは理解を示してくれたのだった。
さて、僕はイリーナを巻き込……現地に送り届けたあと、龍王城にいるみんなを迎えに行った。
彼女たちは全員、スーツを着用し、準備万端で待ってくれているはずだった。
だが――
『タケル様のエッチ・スケッチ・ワンタッチぃ!』
みんなの姿を見た瞬間、僕より先に真希奈が吼えた。どうでもいいけど古いよ。それをチョイスするセンス、お父さんちょい嫌だなあ。
いや、それよりも真希奈のお冠も仕方ない。
ちょっと想像力を働かせればわかることだった。
アクア・リキッドスーツはタイトなスーツ。
ボディラインだってバッチリ見えちゃうため、女性が――特にスタイルのいい女性が身につけると、それはもう男にとって目の毒にしかならないのだ。
エアリスを見てみる。
最近でこそメイド服がデフォルトになりつつある彼女だが、僕と知り合ったばかりの頃は、なかなか刺激的なレザー製の戦装束を身に着けていた。
それがどうだろう「実はな、最近また胸が育ったようなのだ」などと何故か僕に逐一報告を入れてくる彼女は、濃い青色の光を湛えた漆黒のボディスーツに身を包んでいる。
全身のアウトラインが浮かび上がったその身体は、大人の姿となったセレスティアにも負けず劣らず。特にその暴力的なまでのバストは、世の男どもを血迷わせること請け合いだろう。
セーレスを見てみよう。
普段着として使用しているのは、初めて会った時から変わらず、簡素なシャツにホットパンツの上下だが、城下町で診療所を開いたことで、さらに上から白衣を纏うことが多くなった。
それがスーツ姿の今はどうだろう、手足は細いが、引き締まるところは引き締まり、出ているところは意外と出ているという。正に子どもでもない大人でもない中間地点に位置するが故の絶妙な艶めかしさを有したスタイルをしている。
『タケル様、まさかみんなをこのまま現地入りさせる気ですか!?』
『いや、これはダメ! 絶対メッ!』
僕は全力で否定する。
つーか、エロぉ……!
男所帯のドーリア駐屯地に、彼女たちを連れて行くのは不味すぎる。
精霊であるアウラとセレスティアはもちろん普段着のままだが、エアリスとセーレスを先頭に、その後にはアイティアが隠れていた。腰が引けた様子の彼女は、エアリスの背後からこっそりと僕を覗き込んでいる。
艷やかで長い黒髪が、藍色に輝く身体の上を零れていく。スーツの内部、腰の周りで一周している膨らみは猫の尻尾か。
人間用に作られたからお尻に穴なんて空いてないし、空けたら気密性が失われて意味がなくなってしまう。サイヤ人みたいにするしかなかったんだろう。
そんな彼女も、セーレスより幾分小さい身体を隠すように己の身体を抱きしめている。バチっと僕と目が合うと、途端赤くなって目をそらした。
「いやはや、指示された通りに袖を通してみたが、この恰好はまるで痴女じゃな!」
まさしくオクタヴィアの言うとおりだった。
オクタヴィアなどはまだ、凹凸の少ない子どものボディラインなのでギリありかもしれないが、その隣でボーッと立ち尽くしている前オクタヴィアなんて、照れる様子も隠す素振りもなく、いつもの通りフラットな視線のまま、お腹の前で両手を合わせる立ち姿なものだから、む、胸が、ぎゅっ……と寄せられてエライことになっている。
「ほらアイティア、なにエアリスさんの後ろに隠れてんの、ちゃんとタケル様に見てもらいなよ」
「ちょ、ちょっと待ってソーラスちゃん、ダメぇ!」
哀れアイティアは先輩ソーラスの手によって、僕の目の前へと引きずり出されてしまう。
ああ、アイティアをお子様だと思った自分を殴ってやりたい。そう、アイティアは小さいけど高性能なトランジスターのようなバストの持ち主なのだ。ともすれば長い黒髪が、お胸によって分断され、谷間側、脇側へと分かたれたりしている。
「うう、は、裸より恥ずかしい……!」
「……アンタってそういやタケル様に全裸で迫ったことはあるんだっけ」
そして、ソーラスもまたアイティアとは方向性の違う魅力的な肢体の持ち主であった。まさに鍛え上げられたアスリートのような引き締まった身体をしており、パタパタと足音をさせるアイティアとは対象的に、シュ、スル、ササっ、って感じで動作がしなやかで俊敏なのだ。正に猫そのもののような動きだった。
「なんですかタケル様、そんなにマジマジと私を見つめて。もしかしてクレスの兄になってくださるのですか? 私は大歓迎ですよ!」
『いや、違うから、ごめん……!』
ナーガセーナの獣人種魔法師共有学校に通う赤猫族の少年クレスの姉であるソーラスは、給金の殆どを実家に送っているのだという。
その中から弟の学費も支払われているわけで、彼女からすれば玉の輿のひとつにも乗りたいのだろう、事あるごとに冗談なのか本気なのかよくわからないモーションを僕へとかけてくるのだ。
「ひッ、ちょっとやめてソーラスちゃん!」
「本当にアンタって娘は、憂いの表情と涙目がそそるねえ」
ソーラスに後ろから押さえつけられ、逃げも隠れもできなくなったアイティアが、観念したように僕を見上げてくる。ソーラスはなんだか息が荒くなっている。もしかして彼女はレ……いや、なんでもない。
あれ、そう言えばひとり足りないようけど……。
「ふう、みんなお待たせって……あれ?」
玄関内部の大広間に集合していた僕らの前に現れたのはパルメニさんだ。彼女もまたタイトなボディスーツ姿であり、この中では一番の年長者なだけあって、年相応の落ち着きと、やっぱり魅力的なプロポーションをしてらっしゃる。
でも彼女は今、全身をほぼほぼ隠すような緋色の
そして頭部には、顔の半分を覆うアズズの仮面が装着されていた。
『うっひょー、壮観だなおい! 選り取りみどりじゃねえか!』
キジも鳴かずば……。
パルメニさんは速攻で仮面を床に叩きつけていた。
「みんなどうしたの? まだ外套衣も防風衣も身につけてなかったの? この衣装があまりにも扇状的だから、上から何か羽織ってから集合しようって言ったじゃない」
え、そうだったの?
「ふむ、そうだ、そうだったな。というわけでタケル、もうしばらく待つがいい」
「あー、タケルってば慌てちゃって可愛いのー」
「ほれ、馬鹿騒ぎもお終いじゃ」
「別に、私は、このまま、でも……」
「ううう、恥ずかしすぎて死んじゃいそう……!」
「アンタ、モノはいいもの持ってるんだから、それをちゃんと生かさないとエアリスさんとセーレスさんには勝てないよ?」
エアリス、セーレス、オクタヴィア、前オクタヴィア、そしてアイティアとソーラスの順番である。みんなは思い思いの感想を述べながらぞろぞろと引っ込んでいく。
「――ちッ、出遅れた」
そんな後ろ姿を眺めながらパルメニさんが舌打ちをする。なんだ、なんだったんだ結局?
『よいしょ、意外と重いですね』
『ワリィなマキナの嬢ちゃん』
真希奈によって拾い上げられたアズズだったが、その仮面はパルメニさんに返却されることなく、脇に避けられていた荷物の中へと押し込まれる。『ちょ、待て、暗いとこにいれんなー!』と悲鳴が聞こえるが、女性陣を敵に回した彼にはもはや光はないのだった。
「顔、だらしないわよ。これから王都に行くんでしょ。しっかりしてよね」
『はい……』
機嫌が悪くなったパルメニさんに睨まれながら、僕はみんなが戻るまでしばし、居心地の悪い思いをするのだった。
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