第311話 北の災禍と黒炎の精霊篇⑤ 黒猫の絶叫と怨嗟〜陵辱の夜は黒炎に消える

 * * *



 宴が始まった。

 贄はもちろん私。


 私はまさに陸に打ち上げられた魚も同然。

 相手のなすがまま、全ての生殺与奪を握られている。


 必死に抵抗するも、三重に被せられた投網には抗えず、私は有無を言わさず男たちの屈強な腕により担ぎ上げられ、運ばれていく。


 私を手で支える男たちは、ワキワキと指先を動かし、網の隙間から私の身体の感触を楽しみ、運ばれる私をグルリと取り囲む男たちもまた、ギラギラとした目を向け、私を眺めている。


 かつて実家のあった山でヒト種族の冒険者に拐かされた。

 後ろから羽交い締めにされ、全身を弄られ、猿ぐつわをされて手足を縛られ、頭から布袋を被せられた。


 私は暗闇の中、ただ身体を丸めて光が差し込むのを待ち続けた。

 私に差した光はタケル・エンペドクレス様だった。


 他者の都合で流されるまま、生きるも死ぬも自分で決められない私にとって、なんでもできる、どんなこともできる、自分の目的のために全ての障害を乗り越えようとする龍神様の姿は、ただただ眩しくて、太陽サンバルのようだと思った。


 ヒト種族の討伐軍と戦い、生死不明となってしまったと聞いたときは、目の前が真っ暗になった。それでもあの方が死ぬはずがないと希望を持ち続け、ラエル様の特別な任務にも自ら志願した


 戦士としても魔法師としても中途半端な私が、ヒト種族の領域でそれでも頑張ってこられたのはソーラスちゃんのおかげだ。


 彼女はナーガセーナの獣人種魔法師共有学校に弟を入学させるのが夢なのだと常々言っていた。自分とは違い、魔法の才能がある弟を立派な魔法師にするのだと言っていた。そのために必要なお金を、彼女はラエル様から援助を受けており、今回の任務はその正当な対価として与えられたものだという。


 私たちは何ヶ月もかかってヒト種族の領域に入り、それからも街を転々としながら、夜を渡り歩いた。


 街角に立ち、娼婦の真似をする。慣れないことだったが、弱音を吐いている暇はなかった。そうして客を取るフリをしながら情報を集め、非合法な奴隷売買をしている噂はないか辿っていった。


 そうしてようやく、ヒト種族の領域、アーガ・マヤにて、獣人種ばかりの売春宿があると突き止めた。


 ラエル様との連絡は、ヒト種族の領域では数少ない協力者たちを使って行われる。いずれもヒト種族と何代にも渡って交わり、すでに獣の特徴――耳や尻尾を失った、獣人種の子孫たちに金子と伝言を託し、冒険者ギルドなどの伝書鷲を使って行われる。


 今から数ヶ月前、ラエル様からの定期連絡を受け取り、戻ってきたソーラスちゃんが珍しく上機嫌で私に手紙を見せてきた。


 そこに書かれていたのはタケル・エンペドクレス様の帰還。

 ご自分の目的を果たされ、遠い異世界より帰還された龍神様のことが書かれていた。


 私はのお方が生きていたことを噛み締め涙さえ流したが、ソーラスちゃんはそれ以外のことで喜んでいたようだ。


 なんと今タケル様は獣人種魔法師共有学校で教鞭を取られ、ソーラスちゃんの弟さんの先生をしているという。これはなんて縁なのだろう、と二人して飛び上がって喜んだのだった――――



 *



「なにを呆けているのです」


「はッ――!」


 いつの間にか私は室内にいた。

 港湾に面した倉庫のいずれかだと思われるが、周囲に窓はなく、出入り口ははるか後方に薄っすら浮かぶ鉄門扉のみだった。


「宴はまだ始まったばかりですよ」


 マンドロスが軽く目配せすると、周囲に居た男たちがのしかかるように私に迫る。ブチッ、ブチブチ、っと頑丈な網をナイフで切り裂き、四方八方から迫った男たちの手が、私の全身を鷲掴みにする。


 腕を脚を、腰を、肩を、髪を掴まれ、拘束が緩んだ隙きに逃げようとする私の試みは失敗に終わった。


「改めまして、アイティア。お逢いしたかったですよ」


 ニコっと、笑ったつもりなのだろう。刻まれた大きな傷により、その顔は醜く引きつったようにしか見えなかった。


「マンドロス……!」


 アナクシア商会の番頭にして敬虔なる人類種神聖教会アークマインの信者。


 人類種神聖教会アークマインの教義はヒト種族を頂点として、ソレ以外の種族を排斥、支配することにある。


 彼らに取ってはヒト種族以外の存在など蔑んで当然の存在。それでも力では魔族種や長耳長命種エルフに敵わず、与し易かったのが獣人種や、知性を持たない魔物族だったりするのだが――


「呼び捨てとはいけんませんねえ。かつてのように『様』をつけなさい。あなたは私の元へ返ってきたのです」


「ふざけないで! 私はもう奴隷じゃない! あなたの元になんて絶対に帰らない!」


「おやおや、あなたのために決して安くはないお金を投資し、礼儀作法を教育して、ヒトもどきにはしてあげたというのに、すっかり忘れてしまったようですね。ケダモノに育てられていた頃に戻ってしまっている」


「ケダモノ――お父さんとお母さんのことか……!」


 私は全身をよじって抵抗するが、いかんせん十人近い屈強な男たちの手で押さえつけられどうすることもない。くそう、ちくしょう、触れるな、私に触れていいのはあの方だけなのに――!


「やれやれ、これは再調教の必要がありますか。いえ、そのような時間も私には残されてはいないのです――」


 マンドロスは突然顔を顰めると咳き込んだ。懐から手拭いを取り出し口元を覆う。その手拭いがみるみる鮮血に染まっていく。


「びょ、病気、なの……?」


「おや、そういうあなたは平気なのですね。これは消滅した聖都の呪いですよ」


 北の大災害。

 ヒト種族の領域を越え、世界中で噂になっているそれ。

 北の一大拠点となるはずだった都――聖都が一瞬にして消滅した事件。


「タケル・エンペドクレスもやってくれたものです。どのような御業によるものなのか、まさか聖都をあのような呪いの毒壺に変えてしまうとは――」


 実際に見たものは誰もいない。

 だが最初期に調査に乗り出した王都の兵士が生命と引き換えに情報を持ち帰ったという。


 聖都の中心には大きな孔が。

 それこそ計り知れないほどの大きくて深い孔が開いているのだという。

 そこから溢れ出した極大の呪いにより、近づくものは絶命し、周辺地域にも影響が出ているという話だ。


「聖都が消滅する直前、私は地下坑道を通り、なんとか脱出することに成功しました。ですが見えない呪いはどこまでも追ってきたのです。アナクシア商会の支店があったアクラガスの宿場町に逗留して傷を癒やしていたというのに――あそこはまさに地獄でした」


 聞けばそれまで正常だった井戸の水が汚染されたのだという。

 それでも生活用水として使わざるを得なかった宿場町の人々は、次々と呪いに倒れていったそうだ。


 私は思い出す。

 聖都が消滅したばかりの時、タケル様が幾度も警告していた。

 黒い雨には決して触れず、触れた場合は回復の魔法をしてもらうこと。

 濡れた衣類は一箇所に集めて処分するように。

 聖都から近い場所で井戸の水は飲まないよう――


 それら全てがタケル様の言ったとおりになっている。

 むしろ彼の助言を得られなければ、私達もマンドロスと同じようになっていたかもしれない。


「霊峰ミュー山脈が大きな防波堤となっていて、王都は無事でしょうが、聖都の呪いはジワジワと地下を伝って拡がっています。やがてプリンキピア大陸はヒトが住めない場所になっていくのでしょうね」


 マンドロスはぐッ、と詰まったあと、ゴクンと喉を鳴らした。再びせり上がった吐血を飲み込んだのだろう。


「街の住民たちが呪いに倒れていく中、私もまたいずれ死にゆくことを悟りました。聖都が消滅し、信じていた神さえ消えた私に唯一残ったものは、一体なんだと思います?」


 私はそんなことなど知った事かとばかりにマンドロスを睨みつける。

 ニタァと、ボロボロになった歯を見せながら唇を釣り上げたマンドロスは、杖をつきながら一歩、また一歩と私に近づいてくる。


 枯れ枝のような手足が震えている。それは呪いによるものではなく、歓喜による震えだとわかった。


「あなたですよアイティア。あんなに大事にしてあげていたのに、私の手からスルリと離れていったあなたと会うために、私は再び奴隷商を始めたのですからねえ……!」


「なッ――!?」


 バカな、今何といったこの男は――!?


「聖都はなくなってしまいましたが、アナクシア商会の支店はいくつか生き残ることができました。そして商売とは需要がある限り続けることが可能なのです。一度でも他者を虐げ屈服させる喜びを知った貴族たち、大商人たちは新たな玩具が欲しくなるものなのです。そう、あなた方獣人種という玩具がねえ」


 私は目の前が真っ赤になった。

 長い牙を剥いて、私は渾身の力で抵抗する。

 屈強な男たちは私の皮膚に血が滲むほど力を入れて押さえつけてくる。

 だからどうした。こいつは、目の前のこの男だけは断じて許せない――!


「家族間の繋がりが強いあなた方ケダモノ達のことです、再び仲間が攫われれば、それを助けるために動き出すと思っていましたよ、ええ」


 なんてことだ。

 彼の私に対する執念が、再び獣人種を奴隷に貶めることにつながろうとは。

 そんなこととも知らず私はのこのこと、この男の罠にハマってしまったというのか――


「ですがこんなに早くあなたと巡り会うことができるとは思ってもいませんでした」


 マンドロスは杖でカツンと床を叩く。

 すると男たちのひとりが、私の髪を鷲掴みにし、ぐいっと顔を上向かせてきた。

 それでも私は負けまいと、傲然と見下ろしてくるマンドロスを睨みつける。


「おやりなさい」


 彼がそう言うと、両脇から無骨な手が伸びてきて、私の胸をまさぐった。

 だがそれもわずか。次の瞬間には、胸元が大きく破かれ、私の乳房が外気に晒される。


 ――ヒぃ、と上げかけた悲鳴をなんとか飲み込む。羞恥と怒りの感情を上乗せし、その全てで射殺すように、マンドロスに視線を注ぎ続ける。


「ほう、相変わらず美しい。いえ、前に拝見したときより成長しましたか……」


 そう言ってマンドロスは膝をつき、杖を肩に乗せながら左の手を伸ばしてくる。まるで毒蜘蛛だと、かつてそう感じたおぞましい指先が、私の乳房を鷲掴んだ。


 皮膚の角質がまるでザラついたヤスリ金のようだった。

 マンドロスは私の乳房にゅうぼうに五指を埋め、その感触をたっぷりと楽しんだあと、しこった先端の突起を強めにつまみ上げてくる。


 ブチッ、と私は唇を噛み切っていた。

 反応などしてやるものか。例えそれがおぞましさからくる反射であろうと、この男には私の陽の感情の何ひとつとてくれてやるつもりはない。


 だがマンドロスはそんな私の意地さえ楽しむようにムニュリムニュリと、毒蜘蛛のような手で愛撫を続けてくる。つつつっと私の口角から真っ赤な血が滴った。


「強情ですねえ」


 そう言って彼は私に顔を近づけた。

 醜い傷に爛れたその顔面の口から、紫に変色した舌が伸びてくる。

 私がかつて噛み切ってやったその先端は歪に崩れ、まるで猛毒を持った芋虫の口先ようになっていた。


 まさか唇を奪われる――!?

 私はそれだけはさせまいと、顔を仰け反らせながら必死の抵抗を試みる。

 ベロリと、果たしてマンドロスの舌が舐めたのは私唇から溢れた鮮血だった。


 歪な舌先で私の血を舐めとると、まるでそれを見せつけるように、溶け崩れた歯の表面に塗りたくり、口を閉じ、モゴモゴと唾液と混ぜ合わせたあと、これ見よがしに喉を反らせ嚥下する。


 勝ち誇ったように見下ろしてくるマンドロスに殺意が沸く。


 ああ、私にソーラスちゃんほどの技量があれば、この男が近づいた瞬間に喉を掻っ切ってやるのに。


 ああ、私に龍神様ほどの魔法が使えれば、この場にいる全員を焼き殺してやるのに――


「強情ですねえ。美しくはありますが面白くはありませんね。やっぱりあなたには新たな調教が必要なようです」


 そういってマンドロスが取り出したのは、首輪だった。

 かつて私が奴隷だった頃、この男の所有物だった頃、私の身も心も縛り付けてくれた悪魔の首輪。


「イヤッ!」


 声を上げた。必死に抵抗した。

 押さえつけられた身体が捻じれ、関節が軋み、髪の毛がブチブチと抜ける。

 それほど全身を駆動させて逃げようとする。


 マンドロスは本当に嬉しそうに、傷だらけで歪んだ顔に笑みを浮かべ、私の首に輪を通した。


「やめてえええええええッッッ!」


 私はもう奴隷なんかじゃない。

 私はラエル・ティオス様の部下で。

 私の心は龍神様のものだ。


 なのにその首輪は如実に私に言い聞かせてくる。

 私の立場を強制的に規定してくる。

 無慈悲に容赦なく、奴隷時代の惨めな私を思い出させてくる――!


「ほっほっほ、口では嫌がっていても、カラダは覚えてしまっているようですねえ。いいですよ。これならば楽しめそうだ……」


 マンドロスは苦労した様子で立ち上がると、フラフラとしながら距離を取った。そして「お待たせしましたね。始めなさい」と呟いた。


 その瞬間、男たちはケダモノ以下の畜生になった。

 暴れる私の四肢を押さえつけ、上着から脚絆から腰巻きまで、あっという間に剥ぎ取られる。


 生まれたままの姿になった私は、それでも尚半狂乱になって手足を振り回す。前後左右上下――群がった男たちのザラついた手が、私の乳房を、腹を、腿を、尻を、股に伸ばされる。


「こ――――……やる」


「はい、なんですって?」


 愉悦に目を細めながら聞き返すマンドロスに、私は怨嗟の声を上げた。


「殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる――――!!!!」


「ほっほっほ、いいですよ、是非そうしてください。どうせもうじき死ぬ身です。あなたに殺されるなら本望ですが――――嬲り尽くされたあとにもその気概が残っているなら、どうぞお願いしますよ、本当にね……」


 焼けただれた鉄板を跳ねる水のように、私は生命をすり減らしながら跳ね回り――、ついに背中から伸し掛かられてしまう。


 両手を、肩を押さえつけられ、そして数十人の男たちの見守る中、蛙のように両脚を開かれる。唯一動くのは腰回りだけであり、その様はまるで男たちを誘うよう、艶かしく尻を振る情婦のようだった。


 男たちから喝采が沸く。俺だ、俺が先だ、と小競り合い。

 それでも臨戦態勢に入った男たちが、そう長く我慢できるはずもない。


 何かが終わる。

 それをされれば、私の中の何かが決定的に終わってしまう。

 その前に考えろ。今ここにいる全員をどうすれば◯き殺せるのか。


「――――え……な、に……?」


 不意に消沈した私に、これ幸いと男たちが詰め寄る。

 私は地べたに這いずる蛙さながらの有様でありながら、一瞬胸に浮かんだ恐ろしい衝動に硬直していた。そしてついに――――


 バガンッッ、とものすごい轟音がした。

 それが最初、鉄門扉が破壊された音だとは気づかなかった。

 倉庫の中唯一の出入り口から、私達を追い詰めた仮面の女が現れて、ようやく彼女が踏み入ってきたのだと理解する。


『これはなんの乱痴気騒ぎだマンドロス』


 右半分だけの美貌でマンドロスを睨みつけながら、しわがれた男の声で、仮面の女はそう問いかけるのだった。



 *



『これはどういう状況だマンドロス。くたばり損ないのおまえが、最後に会いたいと願った女が、なんでそんな有様になってやがる?』


 左の半分は仮面に覆われ、右の半分は怜悧な美貌。

 それなのに声だけは中高年を思わせる男の声。

 チグハグ極まりない仮面の女が、明らかに不機嫌な様子で問いを投げる。


 宴の邪魔者でしかない仮面の女に対して、男たちは誰もが及び腰だった。

 それだけ仮面の女から放たれる殺気は不吉で鋭いものだった。


 だがこの中で初めから死を覚悟しているマンドロスだけは例外のようだ。

 ビリビリと肌を灼くような殺気にも平然とした様子で答える。


「なんでもなにも、これが私と彼女との愛の営みですよ。あなたも知っておいででしょう。私の男性機能は死にました。なので、ここまで我儘を聞いてくれた部下たちに労いと感謝を籠めて、私の代わりに彼女を愛してもらおうと思ったのです」


『それを世間一般では強姦っていうんだぜ。そんなもんの片棒を担ぐのなんざ俺は御免だ――』


 倉庫内の空気がヒヤッとした。

 仮面の女が、剣の柄に手をかけている。

 それだけで場の雰囲気が一変していた。


「そうですか。ダキキ、これは私の今際の際の最後の娯楽なのです。理解してくださいとはいいません。ですが僅かな時間見逃してくれてもいいじゃないですか」


『聞けねえな。俺はもう下りると言ったぞ』


「行く宛もなくさまよい、宿主・・を死なせかけていたあなたの世話をしてあげましたね。一宿一飯の恩を今ここで返してください」


『くどい……。ものには限度がある。てめえら、その女から今すぐどけ――!』


 臨戦態勢だった男たちはすっかり萎えていた。

 全身にびっしょりと冷たい汗をかきながら、私を押さえつけていた男たちが離れる。


「うッ、――――くッ」


 私はのっそりと身体を起こす。

 そうして初めて気がついた。


「ソーラスちゃん?」


 仮面の女の足元で、力なく横たわる仲間の姿に。


『おい、大丈夫か、今なにか着るものを――って、なにぃ!?』


 仮面の女が異変に気づく。

 それに続いて、男たちもまた辺りを見渡している。

 急激に跳ね上がった室温に、誰もが不自然だと、違和感を感じていた。


「ソーラス、ちゃん……! いや――、ああッ、いやぁ――!」


 私は床に這いつくばったまま手を伸ばす。

 呼びかけても動かない彼女に、私の中にあった最後の一線が、音を立てて崩れるのがわかった。


「ああッ、ああああッ、あああああああああッ――――!!」


 絶叫した途端、私の中から何かが溢れた。

 まるで逝くときに似た多幸感を伴いながら、爆発的な奔流となって現出したそれは魔法――黒炎の魔法だった。


 どれだけ練習しても鬼火すら作れなかった私が、今更のように魔法を使っている。

 しかもそれは正常な魔素――炎の鮮紅とは程遠い、真っ黒い炎だった。


「ああッ、はは、はははははッ、あっははははははは――!」


 その事実が無性におかしくておかしくて、私は腹を抱えて笑った。

 まるでその声に呼応するよう、私から溢れ出た黒炎はとぐろを巻き、室内にいる全ての者たちへと襲いかかる。


「もういい……おまえら全員――――死ね」


 天をも焦がす極大の炎が爆発した。


 続く。

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