第258話 ディーオの難題篇② 過去から来た手紙〜開封式だよ全員集合!

 *



「おいしー!」


 卵かけご飯を食べたセーレスさんのリアクションは、僕の予想を上回る喜色に満ちたものだった。


 ハグハグしゃぷしゃぷと、握り箸でご飯をかっこんでいらっしゃる。ほっぺなんかツヤツヤ朱色になって、エルフ耳がピクピク揺れている。相当気に入ったなこれ。


「もう一杯食べる?」


「食べる!」


 ああもう可愛いなあこんちくしょう。

 僕は地球で買ってきたガスコンロ専用の炊飯鍋からしゃもじを使ってコレでもかとご飯を大盛りにしてやる。


 セーレスさんは「溢れちゃうよ?」と言っていたが、箸でご飯の山をかき分けてくぼみを作ってから渡してやると、なるほど! みたいな顔して溶いた卵を流し込んだ。


「すごい、『たわもかけごっひゃん』ふごいよー! これ毎日食べたいかも!」


 僕はそんなことを言ってくれるセーレスに安堵すると共に、心の涙を禁じ得なかった。


 今の龍王城の家計は火の車である。

 なんてたってお金が本当にないのだ。

 財源として期待していた黄龍石、ドルゴリオ黄石の市場価格が完全に暴落していたからだ。


 僕らはその事実をウーゴ商会のエンリコ・ウーゴ氏から告げられてしまった。ウーゴ氏は、龍王城を占拠していた折り、ミクシャが売り払ってしまったディーオコレクション(←僕命名)を買い取った人物だ。


 彼は長年の商人の勘でその品が曰くありのものだと思ったらしく、わざわざ自分が損をするにもかかわらずコレクションを取っておいてくれたのだ。有能過ぎるわ。


 エアリスはもちろん、ディーオの思い出の品であるそれらを取り戻したいと考えていたのだが、支払いの段になって発覚した黄龍石の暴落に、ついに彼女の堪忍袋の尾が音を立てて切れたのだった。



 *



「ミクシャあああああああああああ――!!」


『うわッ!?』


 ディーオコレクションを保管しているウーゴ商会の倉庫の屋根をぶち破り、エアリスさんは超高速で飛んで行ってしまった。こりゃ不味い。


『すまん。第一容疑者のところに向かったようだ。少ししたら戻ってくるので、この品はキープしておいてくれるか』


「は? きーぷ、ですか?」


 いかん。僕もテンパってるな。地球語が出た。


『支払いは必ずなんとかする。早まった真似をするなと言う意味だ』


「もちろんでございます! 決して龍王様に弓引くようなことはいたしません!」


『感謝する。互いに利益のある関係を築こうではないか』


「そうなれるものと確信しております」


 ニコっとウーゴ氏はイケメンスマイルを浮かべた。

 何だかんだと長い付き合いになりそうだなこいつ。


 僕はエアリスがぶち破った屋根から空へと上り、聖剣でゲートを開いた。ミクシャミクシャミクシャ……と意識を集中させてから、極彩のゲートへと飛び込む。


「貴様、性根を据えて返答しろよ?」


「ひいいい、ご、ごめんなさいぃぃ〜!」


 そこはどことも知らない森の中だった。

 大樹の根本に転がされたミクシャ・ジグモンドが恥も外聞もなく土下座している。この子すっかりこういう姿が板についちゃって。我竜族の新王なのに。


 と、周囲に人っ気はまったくなかった。

 どうやらここは我竜族が今拠点としているルレネー川の畔ではなく、そこから少し離れた森林地帯のようだった。


 よかった。エアリスさんも我竜族の臣民の目の前で、ミクシャを折檻することだけは避けてくれたらしい。いや、ということは疾風はやてのように現れて、矢のようなスピードで拉致し、そうして今責めてるのか。可哀想に。


『まてエアリス。落ち着け』


「私は落ち着いている。ひと思いには殺さず、四肢の末端から徐々に切り落としていく所存だ」


「ひぃぃぃぃ! ご、ご勘弁を〜!」


『やめなさい』


 見なさいミクシャを。己を抱いてハラハラと涙を流しながら首を振ってるじゃないか。僕は後ろからエアリスさんの腰に手を回し、グイッと抱き寄せる。他意はないよ。こうしないと今にも襲いかかりそうだったからね。ホントだよ?


『悪いな、ミクシャ・ジグモンドよ少々聞きたいことがある。エアリス』


「これだ、この石に見覚えはあるか貴様!」


 僕の腕の中、手足をブンブンとさせたメイドさんが黄龍石を取り出す。ミクシャは『あ』と声を漏らした。


「こ・ろ・す」


『待て待て待て、早まるな。魔力を滾らせるな。ホロウ・ストリングスをしまいなさい』


 風の魔素で紡がれた分子切断の糸を取り出すとは。手足の切断くらいなら治せるけど、いくらセーレスでも死んだら生き返らせることは不可能だ。気をつけないと。


『ミクシャよ、お前が龍王城にいた頃、この石を売り払って換金したことはなかったか。正直に答えてほしい』


「あり、ました……」


 だろうね。ミクシャは顔面蒼白になりながら、おずおずと革袋を取り出した。


『それはなんだ?』


「か、換金した残りのお金です。返そうと思っていたんですが、ここ数日、どうしても必要になってしまって……」


 そりゃあこれから自分の国を建国しようっていうんだ、金はいくらあっても足りないだろうさ。


 だが、よくよく聞いてみると、ミクシャが持っていた黄龍石を換金したお金は、迷惑代として街へと支払われていた。主に飲食代と器物破損、そして男どもが遊んだお姉ちゃん代である。


 どうしても足りない部分は今後無償の奉仕活動をすることでチャラにしてもらうのだという。


『おまえ、もうちゃんとそこまで考えてくれてたのか』


 僕がいずれ賠償をミクシャに求めて、臣民へ宣伝しようと思っていたのだが、彼女は自発的に動いてくれていたようだ。上に立つものの自覚に芽生え、本気で謝罪をしたいと思わなければ、そんなことはまずできないだろう。


「ほ、本当に申し訳ない……、使ってしまった分は何年掛かってでもお返しするつもりです。今はこれで勘弁してください」


 革袋から取り出したのは五十万ディーオ程だった。今の僕らには大金だが、王様が持ち歩くには微々たる金額である。


 エアリスも、どうやらミクシャの誠意は伝わったようで、暴れるのをやめたようだ。ブーッと唇を尖らせてはいるが、手打ちにするつもりはなくなったらしい。


「だが貴様、よほど大量の黄龍石を換金したようだな。一体どれほどの豪遊をしていたのだ?」


「ご、豪遊なんてそんな! 親衛隊たちを養うのには使いましたが、そこまでのものでは……。それに、商人たちに売り払おうとしても、途中からはもう買い取ってもらえなくなってしまって」


 んん?

 ちょっと待て。

 何かおかしいぞ。


『ミクシャよ、お前が換金した金額は如何程だ?』


「えっと、700万ルペです」


 ルペ? しかもたった700万?


『お前が換金したのは領内の商人ではないな。ヒルベルト大陸の共有通貨で支払うということは外部の商人か?』


「確かに、そうかも……。実は新しい王にお目通りをと言って、商人が城まで訪ねてきて、ご入用があればぜひうちをご利用くださいって。なのでちょうど換金しようと思っていた黄龍石を買い取ってもらって」


『その商人、名前は?』


「うーん、確か『日出ずる商会』なんてふざけた名前だったような?」


『そうか』


 僕はエアリスを解放すると、腕を組んで空を見上げた。

 ミクシャは地面に正座しながら僕を見上げ、エアリスはミクシャと僕とを交互に見ていた。


「タケルよ、何かわかったのか?」


『市場価格を暴落させたのはミクシャではない』


「なんだと!?」


 てっきり僕も、ミクシャが龍王城中にある黄龍石を全部、それも大量に市場に流したのだと思った。だが彼女の言葉を信じるなら、換金したお金は700万ルペ――1900万ディーオほどだ。


 大金は大金だが、その程度でサーキットブレイクが起こるはずがない。


『それよりも、その商人【日出ずる商会】とやらが気になるな。思い出せ、他にそのものはなにか言ってなかったか?』


 ミクシャは地面に正座したまま「うーん」と腕を組んで悩み始めた。


「そういえば、やたらと城には今どれだけの黄龍石があるのかと聞いていたような。なぜそんなに気にする、と私が聞くと『いずれ私共の方で買い取ることも考えられますので、その時に即金でお金をお支払できるよう準備するため』と……」


『探られたな。恐らくその商人は黒幕の息がかかったものだろう』


「黒幕だと? 一体その者の目的はなんだったのだ?」


 エアリスはすっかり冷静になったようで、今は静かな怒りを湛えているのか、目つきがトロンと半眼になっていた。怖いよ。


『さて、今の情報だけで相手の真意まではな。だがその商人は純粋に、龍王城で保有している黄龍石の量を知りたかったのだろう。エアリス、実際はどれほどあるのだ?』


「ミクシャが売ってしまったのなら、残りは私が持っているコレだけだ」


 エアリスが革製の袋を持ち上げる。

 ふむ。キロ換算で2キロかな。


「それ以外にも、城の裏手に広がっている岩山はすべて鉱山地帯になっている。秘密の通路があって、龍王城のとある部屋からしか鉱脈にいけないようになっているのだ。そこから発掘すれば、まあまだまだ出てくるだろうな」


 エアリスの言にミクシャを見れば「ほへー」と目を丸くしていた。ああ、知らなかったのね。ならもうこの子を責める意味はないな。


『わかった。とりあえず今日はここまでだ。すまなかったなミクシャよ。我竜族の集落まで送ろう』


「あ、あの、これ、これは……?」


 硬貨が入った革袋を差し出してくる。

 チラッとエアリスを見ると、唇を尖らせてそっぽを向いてる。

 素直じゃないねえ。


『構わん。それはお前が持っていろ』


「で、でも困ってるんじゃ……!?」


『それはお前も同じだろう』


 いやむしろ僕らは私事なのだ。

 臣民達はきちんと住居があり、仕事をし、経済を回している。


 僕らは僕らを食べさせていけばいいのに対して、ミクシャはこれからどんどん増えていく我竜族のみなを食べさせていかなければならないのだ。その金は僕らよりお前の方が必要としているだろう。


『食べ物は足りているか? なにか必要なものはないか?』


「す、水源が近くにありますし、お魚もいっぱい採れるので。あとこの辺の森で狩猟もできるので。必要なものは大体自分たちで作れます……」


 さすが、流浪の民だけあって逞しい限りだ。

 僕もこっちにやってきたばっかりのときはかなりサバイバルしてたけど、それ以外は何だかんだでラエルの世話になったり、地球で暮らしてたりするからなあ。


『ならばいい。困ったことがあったら何でも言ってくるといい…………お金以外ならなんとかなるかもしれん』


 金だけじゃない。いずれ何某か仕事も斡旋できるようにならないとな。ホント前途多難だよ。


「はい……」


 ミクシャはお金の入った革袋を胸元で抱きながらチラチラと僕を見上げてくる。何か言いたそうだな。


『どうした、なにかあるのか?』


「あ、あの、もしよかったらでいいのですが、あ、兄の――ゾルダの墓をみんなと作りまして、その……」


『行こう』


 そうして僕ら三人は連れ立って、ルレネー川の畔に建てられたゾルダ・ジグモンドの墓――荒く岩を削り出して墓碑とした――の前で手を合わせる。


 実際手を合わせたのは僕だけで、それ以外の者たち――いつの間にか集まった我竜族の面々と共に、胸の上に手を置く仕草をした。エアリスもそうしているので、それがこの世界のスタンダードなのね。


 ゾルダ・ジグモンド。

 我欲の塊で大海を知らぬ男。

 男としての彼の考えを僕は徹底的に否定する。

 でも死んだら敵も味方もない。


 こうして我竜族たちの前で、手をかけた本人である僕自身が礼を尽くすことはきっと大きな意味があることだと思う。


『ウーゴ商会へ戻るぞエアリス』


「ああ」


 ゾルダの墓石に背を向ける。今日は急だったのでなんのお供え物も持ってきてはいないが、今度花――は本人が喜ばないだろうから酒でも持ってこようかね。


「あの!」


 ミクシャが僕らを呼び止める。

 我竜族の面々、親衛隊の若い連中――半死半生をセーレスに治療をしてもらい復活した――だけでなく、老いも若きも男も女もいる輪からタタタ、と僕の元へと駆け寄る。口元を手で隠しているので内緒話みたいだ。なんだろう、と首を曲げる。


「あ、あとで川で捕れたお魚、たくさん持って行きます」


『ぜひ頼む……!』


 バンバンと痛くならない程度に両肩を叩いてやる。僕らに気を使ってわざわざ小声で言ってくれるなんて、ミクシャは空気が読めるいい子である。


「ふん。仮面の下で鼻を伸ばすでない。さっさと行くぞ」


『伸ばしてないからね!』


 そうして僕らは急ぎウーゴ商会へと戻り、金は近日中に必ず用意するので、もう少し支払いを待つようにとお願いしてきた。ちなみに金額には壊した倉庫の屋根の分が追加されていたのは言うまでもない。はふん。



 *



「はー、美味しかった。また食べさせてねタケル!」


「そりゃ、うん。もちろんだよ」


 僕はゲッソリとしていた。

 大鍋で炊いたはずのご飯が空っぽである。

 マルエツの特売で買ってきた卵Lサイズ99円お一人様2パックまでも完食だった。食いしん坊バンザイ!


 また後で買い出しのため地球に行かないと……。


「それで、それが貰ってきた手紙なの?」


「ん? ああ……」


 僕の手元には封蝋がされた一通の手紙がある。

 それは、ウーゴ商会のエンリコ・ウーゴから渡されたものである。


 とは言ってもウーゴ氏からの手紙ではない。

 ディーオコレクションの目録の中で、ひとつだけ紛れ込んでいた手紙なのだという。


 封蝋の印は間違いなく龍神族のものであり、後ろに書かれた宛名にはこう書かれていた「エンペドクレスへ」と。


 エアリスはその文字を見るなり「ディーオ様の筆跡だ」と呟いた。

 間違いない。これはディーオ・エンペドクレスが存命中、未来のエンペドクレスへ――つまり僕へと宛てた手紙だった。


「開けないの? ディーオさんの手紙……」


「開けたいんだけどねー、ホントはその場で開けるつもりだったんだけどねー、エアリスのやつがさあ」


 待て待て待ってくれ! こ、心の準備がまだ!

 などと言い出して物言いをつけてきたのだ。


「エアリスってディーオのことになるとすごく繊細だからなあ」


「それだけお父さんのこと、大切にしてるんだね」


 それもそうか。

 もう完全にエアリスの中でディーオは父親扱いなのだろう。

 以前はひとりの異性として敵わぬ恋に身を焼いていたようだ。


 でもアウラが生まれて顕現して、彼女の精神的な不安定さはほぼ無くなった。まあ何が切っ掛けでヒトの心根が変わるかなんてわからないもんだな。ホント。


「なんでタケルがニヤけてるの? ディーオさんのことだよ?」


「おお、そ、そうね。そうですね」


 そうしてセーレスと食卓を囲みながら、他のみんなは一体なにをしているのかなーなどと考えていると、にわかに城の外――街の方が騒がしいことに気づく。


 なんだなんだ?

 耳をすませば「きゃー」とか「うわああ!」などと人々の悲鳴が聞こえてくるではないか。


「って悲鳴!?」


「タケル!」


「お父様!」


「パパ」


 僕が血相変えて立ち上がった瞬間、ダイニングキッチンに駆け込んできたのはエアリスとセレスティア、そしてアウラだった。


「なんかねなんかね、すっごいでっかいのが来た!」


「でかい」


 精霊娘たちの説明は説明になってない。

 ちなみにセレスティアは母であるセーレスに年齢を返還したため、いまではアウラよりちょっとお姉さんなくらいの子供姿だ。


 ゴスロリチックな白いフリフリドレス姿で、それはアウラがカーネーションのモデルをする際に貰った洋服をシェアしているようだった。


「ダフトン上空に竜が現れたのだ!」


 竜っ!? ちくしょう、さすが魔法世界マクマティカ

 最近すっかり慣れちゃってるけど、ここはそういう幻獣が生息していてもおかしくない場所なのだった。


「真希奈、僕の鎧を!」


『畏まりました!』


 これから地球に買い出しに行こうと考えていたため、真希奈は妖精(人形)姿ではなく、ストラップで下げられたスマホ姿だった。


 それでも彼女の仕事に過不足はなく、僕が飛び出した大広間の扉の軒先に、プルートーの鎧マーク2が配置されていた。


「お父様お父様、アレアレ!」


 今まさに鎧を装着しようとした途端、後ろから追いかけてきたセレスティアがぴょんと僕の背中に飛びつく。それを見たアウラが僕の頭にヒッしとしがみついた。前が見えない!


「こら、セレスティアもアウラもダメ。タケルの邪魔しないの」


 セーレスの言葉に精霊娘たちが離れる。

 見上げてみれば確かに、遥かな向こうから大きな影がバッサバッサと羽撃きながらこちらへ近づいてくるではないか。


「悲鳴を上げてるのは臣民たちだな」


「ああ、早くなんとかしないと、みんなが『ぱにっく』になってしまうぞ!」


 エアリスさんは掃除の途中だったようで、僕が地球から買ってきたトイレのスッポンとタワシを勇ましく両手に構えていらっしゃる。いつもありがとうね。


「いや、でも待てよ」


 僕はぐぐっと目に意識を集中して魔力を巡らせる。

 よくよく見てみれば、なんとなくアレ、見覚えがあるような……。


『タケル様、鎧の準備はできています、如何いたしますか!?』


 緊迫した真希奈の声に、みんなの視線が僕に集まる。

 しかし僕は「はあ」と肩の力を抜いた。


「真希奈、警戒解除。あと風の魔法で街全体に触れを出して。あれは僕の客人だって」


 全員が「え!?」という顔になった。

 エアリスは一度会ってるはずなのに忘れてしまったようだ。


 そうこうしているうちに、大きな影は僕らの頭上でホバリングし、ズシンと土埃を上げながら着地した。けほ。


「ここが龍王城か。カビ臭い城でなんの趣きもないが見晴らしはなかなか良いのう」


 目の前に鎮座するのは古代竜飛竜ワイバーン

 現存する唯一の生き残りである。

 そんな代物を従えるのは、僕の知る限りたったひとりしかいなかった。


「何しに来たオクタヴィア!」


「なあに、お前さんがちっとも会いに来てくれなんだから、こちらから出向いてやったのよ。ほほっ!」


 深い深い魔の森の中心部に居を構える偏屈な魔族種、白蛇族のオクタヴィア・テトラコルド。ディーオを上回る年月をその身に宿す、この世界太古の存在である。


 白に白を塗り重ねたようなアルビノ――病的なまでに白い肌をしている。見た目は10歳くらいだろうか。アウラやセレスティアより、ちょいお姉さんって感じだな。


「邪険にしてくれるなよおまえさん。……ディーオの手紙を開封するのじゃろう? 儂も興味があるのよ。ほほっ」


 その言葉に僕は、あとで徹底的に龍王城中からエーテル体でできた彼女の眷属――覗き蛇を駆除してやろうと心に誓うのだった。


 続く。

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