第236話 魔法学校進級試験篇㉘ 決着・親友魔法対決〜愚かな僕は浄化の炎に焼かれる
* * *
「ほら、クレス、こいつで練習してみな」
たまにだけど、ナスカ先生はいなくなる。
本当に唐突に、何の前触れもなく、フラリと消えてしまうことがあるのだ。
いつもどこに行ってるんだ?
――などという疑問を抱いていたのも最初だけ。
やがて俺たちはナスカ先生が消えて再び現れるのを心待ちにするようになった。
なぜならナスカ先生が消えて現れると決まって必ず、未だかつて見たことも聞いたこともない、何か『すごいもの』を手土産に持ってきてくれるからだ。
三日前は甘い焼き菓子だった。
『くっきー』というものらしく、エアリス先生が熱心に材料を聞いていて、今度からは自分が作ると力強く言っていた。
俺の実家でも似たような焼き菓子を作って食べるが、こんなサクサクと軽い食感のものじゃない。石のように固くて、飴玉みたいに口の中に入れて、唾液でふやかしながら食べるものだった。
くっきーはみんなに大好評で、ペリルなんてひとりでバカスカ食べるもんだから喉をつまらせて目を回していた。「なにやってんの。バカねー」とセレスティア様が作り出した水を飲ませてペリルは助かった。
二日前はなんだか口の中に入れるとピリピリする甘い果実水だった。
コップを掴んでいる指先がかじかむほど冷たい果実水は、口のなかでパチパチと弾けて、最初はビックリして吐き出してしまったほどだ。
ケイトは「発酵したお酒じゃないんですかこれ!?」と怒っていたが、ナスカ先生は「酒精なんて入ってないよ」とおどけて言っていた。
結局レンカもピアニも口の中が痛いと言って、ピリピリしない方の果実水を飲んでいた。俺やペリルは改めて飲んでみて、口の中が痛くなる前にごくりと飲み込んだ。
するとどうだろう、爽やかな喉越しとともに、火照った身体からスーッと熱が引いていくのを感じた。
これ、意外とイケるかも。発酵した酒とは違った味わいに、コリスやハイアも夢中になってがぶ飲みした。
そしたらゲップがたくさん出て女子たちにしこたま怒られた。だって出ちゃうんだもん。なんでだ?
一日前は今までで一番ビックリした。
甘いは甘い。冷たいは冷たい。だがそれは甘くて冷たくてふんわりした口溶けの氷だった。
なんでもアウラ様とセレスティア様の大好物の『あいすくりーむ』という食べ物らしい。銀色の高そうな匙を使って、凍っている『あいす』をなんとか削り取り、みんなして恐る恐る口の中に入れる。
「ほあー!」と叫んだのはピアニだった。ケイトは匙を咥えたまま固まり、レンカは涙さえ浮かべていた。
かくいう俺に疾走った衝撃も相当なものだった。なんだか口の中に入れたばかりのときは冷たい氷だったのに、舌の上であっという間に溶けて、甘い香りのする空気になったみたいだった。
アウラ様とセレスティア様は一口食べるごとに頬を押さえながら飛び跳ねていた。そうして、あっという間に自分の分を平らげた俺らは「なんかすごいの食べた」と全員暫く呆然としてしまったのだった。
そんなことが続いた今日、ナスカ先生が持ってきたのはヒトの頭程もある大きくて丸い『なにか』だった。
エアリス先生とセーレス先生の元で魔法を練習していたみんなも、待ってましたと言わんばかりにナスカ先生のところに駆け寄った。
「大っきいですね」とケイトが呟く。確かにそれはなかなか食べづらそうな形をしていた。
「いや、俺が行くぜ!」
みんなが尻込みしていたら切り込み隊長は俺だ。
俺はその丸い『なにか』を両手で挟むと思いっきりかぶりついた。
硬かった。不味かった。何の味もしなかった。
「ぶえーッ! なんだよこれ!? まっずうう!」
「バカめ。僕はこれを一言も食べ物だなんて言ってないぞ」
「食べ物じゃない?」
それはそれで悲しいけど。
「そうだ、これはクレスの訓練に使おうと思って買ってきた」
一体何処にいけば、そんなまん丸で白と黒の斑模様のものが買ってこられるというのか。ナスカ先生は「見てろよ」と言って、なんとそれを思い切り蹴り上げた。
「わっ!」
ポンッ! と聞いたことのない音がして、それは遥か放物線を描いて彼方まで飛んでいく。まさかこれって手鞠なのか?
「サッカーボールっていうんだ」
「さっかーぼーる?」
とにかく、その『さっかーぼーる』なる手鞠が遠くへ飛んでいった途端、俺らは全員でそれを追いかけた。
ジッとしていられなかった。何故か自分が一番に『さっかーぼーる』の元へとたどりつかなければならない。そんな気持ちが湧いてきて、気がつけばみんな目の色を変えて走っていた。
見事『さっかーぼーる』の元へ一番にたどり着いた俺は、それを両手で抱え、みんなを引き連れながらナスカ先生の元へと戻る。すると――――
「はい、ハンド。クレス反則〜!」
「ええ!? 反則なんて、そんなの知らないよ!」
「これは手鞠じゃないんだ。蹴鞠なんだよ」
「蹴鞠?」
ナスカ先生は俺から『さっかーぼーる』を受け取ると、足元に置いて軽く蹴った。草地の上を滑るように転がっていく『さっかーぼーる』を追いかけるナスカ先生。追いつくとさらに蹴って地面を転がし、また追いつくと、今度は真横に蹴って、クルリと身体を反転、俺達の方へ向かって『さっかーぼーる』を蹴る。
「受け止めろクレス! 手は使うな! 手以外だったらどこを使ってもいいぞ!」
「なんだそれ!?」
すごい勢いで足元にやってきた『さっかーぼーる』に足を突き出す。するとボンっ、と音がして真上に跳ね返った。
俺は慌てて落下地点に滑り込むと、両手を大きく広げて胸の上で受け止めようとする。再びボムっ、と跳ね返りあらぬ方向に行こうとする『さっかーぼーる』を足を伸ばしてすくい上げる。
「おお! クレスすごい!」
ペリルが手を叩いて喜ぶ。
『さっかーぼーる』は俺の足の甲の上でピタリと静止していた。
つま先を伸ばしたまま、片足だけで均衡を保ち、俺はすっかり動けなくなってしまった。
「ナ、ナスカ先生、シンドいんですけど!」
「いや、やめればいいんだよ」
そう言って先生は俺が苦労して足に載せてた『さっかーぼーる』を奪い取った。途端力が抜けて、俺はその場にへたり込んだ。
「うん、やっぱりクレスはサッカーの才能があるな。ボールから目を離さないし、リフティングも初めてにしては上手かった」
ナスカ先生がまた謎の言語を喋っている。
時折先生は理解不能な単語を操ることがあるのだ。
ケイトたち女子は先生からボールを譲ってもらい、手毬遊びのように頭上に放り投げては受け止めるを繰り返していた。
「なにこれ、すごく軽いし、よく弾む……!」
「ただの手鞠とは全然ちがうの!」
「それに頭に当たっても痛くないです!」
「あー、ちなみにみんなが言う手鞠ってどういうものなんだ?」
ナスカ先生の質問に、女子たちが一斉に首を傾げた。
俺やペリル、コリスにハイアも同様だ。
子供の頃、母ちゃんに作ってもらったことがないのかな先生は。
「手鞠っていやあ姉ちゃんが作ってくれたっけ」
うちは母ちゃんが働きに出てたから、子供の頃は姉ちゃんが母ちゃんの代りだった。今は逆になっていて、姉ちゃんがラエル様のところでメイドとして働き、その仕送りで母ちゃんもラクができている。
「あ、ソーラスさんですか、ソウデスカ」
ナスカ先生は姉ちゃんの話題になると途端挙動がおかしくなる。
ぜーったい、なんかあったと思うんだけどなあ。
ナスカ先生が兄ちゃんになってくれるんなら結構嬉しいんだけど。
あれ…………なんか寒い。エアリス先生の方から冷たい風が漂ってくる?
とにかく、俺はみんなと一緒になって、手鞠の説明をした。
できるだけ丸く荒削りした木材を要らない
「なるほど。でもこの蹴鞠は違うぞ。頑丈な革の中には空気が詰まってる。だから――」
ナスカ先生は『さっかーぼーる』を両手で頭上に掲げると、思いっきり地面に叩きつけた。俺達の知ってる手鞠だったら地面に沈み込むだけだが、『さっかーぼーる』は軽快な音と共に勢い良く飛び上がった。
「おお〜!」とはるか頭上を見ながらみんなが拍手する。
ナスカ先生は落ちてきたそれを受け止めると、「ほら」と俺の方へと投げてよこした。
「とりあえずそれはクレス専用だ。自分で好きなようにしてみるといい」
「え、俺の? どうして…………?」
「おまえ、ファイアー・ボールの扱いに困ってただろう。普通より大きな火球ができるから、手じゃ投げられないって。なら足で蹴ってやりゃあよくないか。おまえの脚力はみんなの中じゃ一番だ。きっとすごい威力が出せるぞ」
「――――ッ!?」
すげえ。
やっぱこのヒトは発想が違う。
普通魔法学校の先生だったら誰もが、手で打ち出しやすいようにファイアー・ボールの大きさを小さくしろって言うはずだ。でもナスカ先生は俺の長所を活かしたままで強くなる方法をあっさり考えてくれる。
このヒト、他の先生と全然違う――――!
それから俺はナスカ先生の言いつけ通り、片時も『さっかーぼーる』を離さず生活するようになった。蹴ったり転がしたり弾ませたり。
とにかくそれを本物のファイアー・ボールと思い込み、飯のときも、寝るときも、風呂のときも、できるだけ足で扱うよう心がけた。
五日が経ち、十日が経ち、半月が過ぎる頃、俺は『さっかーぼーる』ではなく、本物のファイアーボールを足で転がし、頭で受け止め、寝ている間も枕元に置くようになっていた。
炎のように燃えているのに熱くなく、不用意に触っても火傷しない。草地に転がしても引火しないし、本当にこれはファイアー・ボールなのかと疑いながら思い切り蹴ってやると、木の幹に炸裂し大爆発を起こした。
俺は自分自身がしたことが信じられなかった。
燃やそうと思わない限り決して燃えることのないファイアー・ボール。
燃やし分けができるような高等な魔法を本当に俺が…………?
「違う違うクレス、そこはゴオオオオル! って言わないと」
俺がすごいんじゃない。
ナスカ先生の教え方が半端じゃなく上手いんだ。
もしかしたら、本当に試験に受かることができるかも。
わずか一月の合宿で、落ちこぼれだった俺はそう思えるくらいの成長を遂げていた。
*
「行くぞネエム――――!」
クレスが叫んだ。
その気合の入りようはこれまでの比ではない。
僕はとっさに土精の剣を真っ直ぐに構え防御の姿勢を取った。
「シュウウウウウトォ――――!!」
大きく振りかぶったクレスの右足が振り抜かれる。
炎を散らして空気を切り裂き、僕の頭より大きなファイアー・ボールが高速で迫りくる!
「ぐああああッ――――!?」
拮抗は僅か。
ファイアー・ボールを受け止めたかに見えた土精の剣だが、触れた瞬間大爆発を起こす。僕は一瞬息に詰まりながら吹き飛ばされ、灼熱の空気を肺に吸い込みながら無様な悲鳴を上げた。
この爆発、そして速度。
メガラー派閥の魔法師が放つファイアー・ボールと同等――いや、それ以上かもしれない。
「いや、あり得ない、おまえがこんな――――な、なにッ!?」
頭を振って起き上がると、既にそこには新たなファイアー・ボールを両足で器用に弄ぶクレスの姿があった。
先程の吹き飛ばされるほどの威力を思い出し――――僕は自分の背中が粟立つのを感じた。馬鹿な、怯えているのか、この僕が。クレスごときに!
「そんなこと…………絶対に認められない!」
「お、ようやく起きたか。じゃあどんどん行くぞぉ……!」
その台詞に思わず後退しそうになる。
でもぐっとお腹に力を入れて我慢する。
急いで土の魔素を蒐集し、ありったけの魔力と『憎』の意志を込める。
「二発目ぇ――――シュウウウウトォ!!」
『しゅーと』と聞こえるそれは恐らく炸裂の呪文かなにかに違いない。僕はグランド・ランスを出現させると、それを僕の手前で折り重なるように配置してやる。どうだ、僕の防御は完璧――――
「なにぃ!?」
バイン、とファイアー・ボールがグランド・ランスにぶつかって跳ね返った。ゆるく放物線を描きながら宙をさまよったそれは、いつの間にか跳躍していたクレスにより、再び猛烈な勢いで蹴り出される!
「ぷっ、――――がはッ!」
僕のすぐ真横、土の地面に鋭く突き刺さったファイアー・ボールは土砂を巻き上げながら爆発した。視界を塞がれた僕は、無様に地面を転がりながら茂みの中へと身を隠す。
「はあはあはあ――――ぺっ、うえ、ぺっぺっ、くそぉ、ちくしょう…………!」
重くなる身体。
尽きかけの魔力。
耳鳴りが酷く、周りの音が聞こえない。
「なんで、どうして…………メガラーの徒弟である僕がこんな…………ありえない!」
バキン、ガリリっと噛みしめる度に土の味がする。
それを吐き出そうとしたとき、茂みの向こうから声がした。
「おーい、ネエム、大丈夫か? もうそろそろ終わりにしようぜ。よく考えたら俺試験に大遅刻だよ。今からでも受けられるかなあ?」
試験?
あのファイアー・ボールを引っさげて、クレスが1級試験を受けるだと?
もしかしたら、と思う。
もしかしたら受かってしまう?
いや、1級試験はそんな甘いものではない。
だが、受からないまでも健闘をすれば?
戦う前に降参してしまった僕よりもクレスが讃えられてしまうではないかっ!?
「う――うう、うぶっ、げええええっ!」
腹の底からせり出してきた吐瀉物で口をすすぎ、ボロボロと零れる涙で眼球を洗う。
それだけはダメだ。絶対にクレスを試験会場に行かせるわけにはいかない。もうここで殺してしまわなければ…………!!!
「もういらない。生命なんていらない。だから、すべてを――――!!」
茂みから飛び出し、クレスを視界に収める。
頭の中がグツグツと茹だっている。
目の奥が熱い。ボタ、ボタタと、真っ赤な涙が溢れてくる。
残りの魔力が少ないなら、自分自身の生命を
「ネ、ネエム、おまえ……!」
「はは、ヒヒヒ…………クレス、キミを殺す…………!」
「馬鹿野郎! その前におまえが死ぬぞ!」
「キミを道連れにできるなら本望さああああ――――!!」
クレスと僕との間にありったけのグランド・ランスを配置する。これでもうあのファイアー・ボールも届かない。ざまあみろ。
「僕の剣よ……もっと、もっと燃え盛れ――――!!」
手にした土精の剣が業火に包まれる。
そうだ。僕は恐れていたんだ。自分の手が焼けるのを我慢すれば、もっともっと炎を強くすることだってできるんだ。
「ネエム、おまえ正気か……!?」
肉の焼ける匂い。
自分の手から漂う異臭。
それでももっと炎を。
もっともっともっと……!
「やめろ、やめろネエム、おまえ自分が何をしてるのかわかってるのか! いい加減正気に返れ! そんなことをしておまえ、どうやって俺を攻撃するつもりだ!?」
「え――――――あ……!」
僕とクレスの間には夥しい数のグランド・ランスの
手の中の剣を直接叩き込んでやるためには、この茨を乗り越えていかなければどうしようもない。
だがむしろグランド・ランスはクレスを隔てるというより、僕を中心に放射状に広がってしまっている。
なんだ、つまり僕は。すっかり怯えてしまって……。
自分自身を守るためだけに、茨の檻を作っただけだったのか――――
「うう、あああっ――――熱い、うあああ!」
ギリギリの均衡で保たれていた魔法剣。
自分が無意識に行った弱さを認めた瞬間、完全にそれが破綻する。
炎がみるみる腕を登り始め、やがてすっぽりと僕の全身を飲み込んだ。
痛い――
なんてことだ。
自分自身の『憎』の意志とはこれほどまでに醜く恐ろしいものなのか。
僕は全身を、自らの憎悪の炎で焼きながら、初めてその事実を知った。
こんなものを、僕は今まで誰かに。クレスに。みんなに…………。
「ネエムぅぅぅ――――!!」
真っ赤に染まる視界の中、クレスが特大のファイアー・ボールを頭上に蹴り上げるのが見えた。次の瞬間、突然の爆発が僕の背中に襲いかかった。
「アタアアアアアック――! っていうんだっけこういうときは?」
ずんぐりムックリとした巨体。
土精の土熊だった。
気を失っていたかに見えた土熊が、クレスが打ち上げたファイアー・ボールを背後で受け取り、僕目掛けて叩きつけてきたのだった。
「ネエム、ネエムッ、しっかりしろ!」
「うわあ! 酷い火傷だよ! 特に剣を握っていた右手がグチャグチャだ……!」
ファイアー・ボールの爆発のお陰で炎は消えた。
でも、自分でもわかる。
僕はもうダメだ……。
僕はもうすぐ……死ぬ……。
*
「ご、ごめんよクレス…………悔しいけど、やっぱりキミには敵わないんだな僕は」
「そんなことねえ! おまえは炎と土、両方の魔法を使いこなしてるだろう! すげえよ、俺にはできないことだよ! 魔法師としての実力はおまえの方が上だ!」
「なら、いいや…………最後に、それだけ聞けたから、もう…………」
耳も目も、なにもかも。
親友の顔が遠くなっていく。
ネエムはすでに死を覚悟していた。
だがそれを許さない者がいた――――
「なに勝手に諦めようとしてるの〜! あなたは私の弟子でしょう〜! 死ぬなんて許さないからぁ〜!」
彼女はおっきな子供だった。
大人のくせに手がかかってしょうがない。
でも彼女の弟子になったおかげで、誰にも甘えられない状況は、ネエムを急速に大人にさせ、自立心を芽生えさせる切っ掛けを与えた。
それがアンによる意図した教育かはわからないが、彼女がいたおかげでネエムが成長できたことは事実だった。
「試験会場に運ぶぞ! ナスカ・タケルならば治療できる者のところへ連れて行ってくれる!」
「ちょ、ラエルちゃん、やめなさい〜! この子を運ぶのは私の役目よ〜! 大体あなたのビリビリした身体で今のこの子に触らないで〜!」
「す、すまん!」
「それからそっちの熊さん〜!」
「え、僕?」
「魔法で綺麗な土を作り出してちょうだい〜! そしてネエムの全身を包み込んで〜。火傷で皮膚が失われるとどんどん体温が奪われるから、それを防ぐのよ〜!」
「わ、わかった! 今の僕みたいに全身に纏わせればいいんだね!」
「あとは時間との勝負よ〜!」
普段のポワポワした様子など微塵もなく、的確な指示を飛ばすアン。
全身が覆われた状態の愛弟子を抱えると、彼女は風を踏んで、あっという間に試験会場の方へと――ナスカ・タケルの元へと向かった。
「ラエル様、お願いだよ、俺を運んでくれ! ネエムは親友なんだ! あいつのそばにいてやりたいんだ!」
「あいわかった! 少し息苦しくなるが飛ばすぞ!」
クレスを背負ったラエルは紫電の残光を残して疾く消えた。
そして――――
「ん? あれ? 僕は…………?」
置いてきぼり。
結構要所要所では活躍したのに。
最後、炎に包まれていた彼にファイアー・ボールを叩きつけて鎮火させたのもペリルなのに。
「おーい、まってー」
ドスンドスンドスン。
結局ペリルが会場に到着したとき、ネエムたちの姿はもうなかった。
それからしばらくして、森の中でうずくまり、涙に暮れる上級生三名が発見されたそうだが、彼らは何があったのか、頑として口を割らなかったそうな。怪我は打撲程度で済んだという。
続く。
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