第206話 働こうよ改め働け篇⑧ 世界を変える出会い〜魔法師育成授業一日目・放課後

 * * *



「おじゃまします」


「します、です」


 入室してきた級友たちに、ケイトは一瞬力ない笑みを浮かべた。


 ケイトはクイン・テリヌアス教室の生徒だった。

 だがクイン先生の指導についていけず学校に行けなくなってしまった。


 仲が良かったレンカとピアニはほとんど毎日、放課後になるとケイトの家を訪ねていた。


 ケイトは地元組だ。ナーガセーナの街の外れに居を構える黄犬族こうけんぞくの女の子である。


 黄色いストレートヘアを背中の中ほどで揃えている。頭頂部には黄色い体毛に包まれた大きな犬耳がついていた。


 ケイトの髪は明るい色をしていて、朝日の中では黄色だが、夕暮れの中で見ると金色になって見える。以前それをレンカとピアニが指摘すると、ケイトはとてもうれしそうにはにかんでいた。


「いらっしゃい。いつも来てくれてありがとう!」


 ケイトは、自室の学習机の上で読んでいた本を置くと、水差しから二人に飲水を注いでやる。するとレンカはカバンの中から小さな布袋を取り出し、中身を取り出した。それは赤黒い色をした何かの実だった。


「はい。ケイトは一個でいいでしょ?」


「うん、ありがとう」


「ピアニは?」


「二個くださいです」


「一個でよくない?」


「二個欲しい」


「はいはい」


 透明度の低い亜流品のガラスコップに注がれた水。

 そこに赤黒い実を指で潰して汁を落とす。

 みるみる水が朱色に染まっていく。


「じゃあ乾杯」


 レンカの音頭で三人がコップを合わせる。

 ゴクリ、と一口飲み干すと、強い酸味が口いっぱいに広がる。

 ただの水なのに、まるで酒精のないぶどう酒のような味わい。

 子供たちの間で流行っている、『チコの実』を使った遊びである。


『チコの実は』は探せば道端にも群生しているラタキアの枝葉に実る果実である。そのままではとても酸っぱくて食べられないが、渋抜きしてジャムにするか、このように液体で希釈することで、ちょうどいい酸味と色艶を楽しめるのだ。ただし――――


「まじゅい〜!」


「だから言ったの」


 レンカは呆れ顔になった。

 欲張ってふたつも潰すとピアニのようになる。


 彼女は強すぎる酸味に「はううう」と首を震わせて耐えていた。

 クスクスっと笑いながらケイトは水差しを傾け、ピアニは縋るように水を足してもらっていた。


 そうしてコップが半分ほどにもなってから、誰ともなく「せーの」と掛け声を上げた。


「べー」


「べええ」


「べえ、です」


 ケイトもレンカもピアニも、お互いを見合ったまま舌を突き出す。

 まるで染料の原液でも垂らしたように真っ赤だった。

 舌を出したまま暫く。最初に堪えきれなくなったのはケイトだった。


「ダメ、おかしっ、我慢できない!」


 一人が笑いだすと、ピアニも「ぶッ!」と吹き出し、全身を震わせ始めた。


「ちょっと、レンカ、もうおしまい!」


「わかったからいい加減にして。レンカには勝てないです」


「ふ――――また勝ってしまったの」


 ドヤ顔のレンカにふたりは再び笑いがこみ上げてくるのだった。



 *



「どう、調子は戻った?」


「う、うん……カラダは別になんともないんだけどね」


 笑いを挟んだからもういいでしょ、とばかりにレンカが本題に切り込む。

 この切り替えの早さに女史たちは最初面食らったものだが、下手に気を使われるよりもずっと居心地がいいものだと、今ではケイトもピアニも思っている。


 ケイトはベッドに腰掛け、レンカは学習机の椅子に。

 ピアニは部屋にひとつしかない敷物を独り占めにしている。


「じゃあ、学校来る、です?」


 敷物の上にうつ伏せになり、頬杖をついたピアニが聞いてくる。


「それは――――」


 ブルリと震える自身の尻尾を抱きしめながら、ケイトは俯いた。


「ごめんなさい、やっぱり私、まだ怖くて…………!」


 ケイトはレンカやピアニと同じくクイン・テリヌアス教室の生徒。

 彼女は特に他のみんなよりも厳しい体力錬成や懲罰を受けさせられていた。


 だが本来身体能力に優れる獣人種ならば、たとえそれがヒト種族ならばとっくに音を上げるほどの折檻の類であっても、さほど苦にはならないはずなのだ。


 ケイトが恐れを成して、学校から逃げ帰り、部屋に閉じこもったままになってしまったのにはもっと別の理由があった。


「魔法が、怖いの」


 その一言はあまりにも重かった。

 吐き出すように呟いたケイトよりも、それを耳にしたレンカとピアニの方こそ言葉を失ってしまう。


 魔法とは畏怖の象徴。

 戦いになれば、敵戦力の中に魔法師の存在があるかないかで勝敗が決定してしまう。


 魔法という希少職は羨望の的だ。

 新生児の二割が魔力を備えて生まれてくると言っても、その中から本当に魔法師になれるものはごくごく少数だからだ。


 だからこそ、自分の子供に魔法の才能があるとわかった親は、親戚中から借金をしてでも子供に魔法の勉強をさせる。昔は高額の学費を要求する魔法私塾しかなかったが、共有魔法師学校ができてからは入学者が殺到した。


 各種列強氏族からの義援金により、私塾入学よりも現実的な金額で子供に魔法を学ばせることもでき、さらに順調に進学すれば、確実に列強氏族や軍へと取り立てられるようになるからだ。


 種族間に格差はあれど、だいたい一獣人家族あたりの平均所得が年間70万ヂルあまり。それに対して魔法師の給与は最低でも500万ヂルが保証される。さらに特殊な技能を積み、魔法師の位階を上げ、武勲を積めばさらに高い給与が望めるのだ。


 だからみんな魔法師を目指す。

 自分が稼ぎ頭となって、家族のみならず一族をも支えていくために。

 ならばこそ、ケイトが言った言葉は致命的な一言なのだった。


「怖いって、クイン先生のこと、だよね?」


「ううん、先生もそうだけど、私には多分無理。魔法を使って誰かを傷つけるなんて、絶対にできっこない…………!」


 戦慄く尻尾をギュウっと押さえつけながら、ケイトは叫ぶように言った。


「でも、そんなこと今のうちから心配してても」


「ふたりも見たでしょう。クイン先生が魔法を使うときのあの恐ろしい『憎』の心を!」


 ピアニの言葉を最後まで言わせず、ケイトは目尻に涙さえ溜めていた。

 そんなケイトの姿を、レンカもピアニも、どうすることもできず見つめることしかできない。


 毎日こうして迎えにくれば、いつか心を持ち直したケイトが、また学校に戻って来てくれると思っていた。だが、それよりも深刻なところで、ケイトの心は折れかかっていたのだ。


「お、お父さんは、なんて言ってるの?」


 このまま最後の答えまで口にさせてはいけない。

 レンカは縋るように話題を変えた。

 魔法の才能がある子どもに期待しない親はいない。

 だがケイトの父は例外のようだった。


「別に、何も……。家のこときちんとしてくれるなら、無理に学校行かなくてもいいって言ってくれてる」


「ああ。あんな頑固そうに見えて――」


「ケイトちゃんのお父さん、娘好きすぎ、です」


 ふたりは頭を抱えるしかない。

 もしこれが自分の親だったら、「ふざけたこと言ってんな、死ぬ気で学校行け!」と、尻を引っ叩かれるのが目に見えているからだ。


 ケイトは、抱きしめていた毛並みのいい尻尾から手を話すと、泣き笑いみたいな顔でふたりに謝罪した。


「だから、ごめんね、レンカちゃん、ピアニちゃん。もうウチにこなくて大丈夫だから――――」


「私達ね、クイン先生に見捨てられたの」


 それは無理やり切り込むようなレンカの言葉だった。

 その意味が頭に浸透するまでしばし、ケイトは呆然としていた。


「えっ!? …………本当、なの?」


 レンカとピアニが頷く。


「それでね、別の先生に魔法を教わることになったの」


「うん。クイン先生は私達を才能ないって。でもその先生はそんなことないって、言ってくれたです」


 ピーンと立っていたケイトの犬耳がしおしお〜っとなっていく。

 天井を見上げたまま、目を彷徨わせるケイトを見て、レンカは畳み掛けた。


「だからね、ケイトも、私達と一緒にもう一度やり直せばいいと思うの」


「うん。ナスカ先生ってね、全然魔法師らしくなくて、全然怖くないから」


「ど、どんな先生なの?」


 食いついた。

 レンカとピアニは心の中で手を叩き合う。


「えっとね、灰狼族の先生で――――」


 レンカが、今まさに紹介しようとしたときだった。


 表の方から「なんだてめえはッ!?」と怒鳴り声が聞こえてくる。ケイトのお父さんだ。なにか言い争う声と、ドタバタとした激しい物音が聞こえ、「おい、ケイト!」と窓の方から声がかかった。


「な、なに、どうしたのお父さん!?」


 窓を開けると、作業小屋が建っている広めの中庭に、黄色い髪と尻尾を持った、頑固そうなケイトの父親が立っていた。


「いやなに今な、俺の仕事を覗いていた間者を捕まえたのよ。でな、そいつガキの分際で自分は魔法師学校の先生だ、なんて言いやがるもんだから…………」


『なんと無礼な、タケル様から足をどけなさい! 手打ちにしますよ!』


「なんか喋る人形も一緒にくっついてるんだが、一応顔だけ知ってるかと思ってな」


『ヒトの話を聞きなさい! 今すぐ足をどけて謝罪しないと後悔することになりますよ!』


「真希奈、やめろ!」


「暴れんな、泥棒野郎!」


「だから僕は泥棒じゃ――――」


「じゃあ覗き野郎か! 俺の護符づくりを盗み見やがって!」


「珍しいものだったからつい出来心で――――」


「やっぱり覗き野郎じゃねえか!」


 父に足蹴にされて、地面でバタバタ暴れる狼耳の獣人。この辺では見かけない顔立ちと、小柄な体躯。確かに魔法師学校の教員用のローブ姿をしてはいるのだが……。


「レンカちゃん、ピアニちゃん、あのヒト、知ってる?」


 チコの実を噛んだとき以上の渋い顔をしながら、ふたりは頷くのだった。



 * 



「いやあ助かった。まさかキミのお父さんの仕事が秘匿性の高いものだとは思わなくて。ホント悪かった」


「いえいえ、こちらこそ、父が大変失礼しました」


 ケイトの自室で頭を下げ合うふたり。

 部屋の主であるケイトはいいとして、もうひとりは明らかに怪しい身なりのものだった。


 黒髪に灰色の狼耳をつけ、尻尾は短いのか隠しているのか見ることは適わない。

 年若く見えて、高位の魔法師にしか与えられない、魔法学校の教員用ローブを纏っている。極めつけと言えるのは、彼の頭上でぶつくさ文句を垂れ続ける異質の存在である。


『こちらがきちんと名乗りを上げているのに、信じようともせずに暴力を振るうなど断じて赦せません。誅罰に価します!』


 黒髪を綺麗に切りそろえた可愛らしい人形が、羽をパタパタとさせながら部屋の中を飛び回っている。名前は真希奈というらしく、人形に宿った妖精なのだそうな。ナスカ先生に「まあまあ、別に怪我してるわけじゃないんだから」と宥められていた。


「ナスカ先生、明日の授業の準備があるからって午後は解散したんじゃなかったの?」


「そうです、こんなところで何してるです?」


 レンカとピアニが問いかける。

 ナスカ先生は「言ったとおり、明日の授業のための準備だよ」と言いながら手を差し出す。


「ケイト、僕の名前はナスカ・タケル。今朝方魔法学校に着任したばかりの新米教師だ。よかったら僕の生徒にならないか? きっとキミを立派な魔法師にしてみせる」


「ええッ!?」


 突然の申し出にケイトは悲鳴を上げたまま固まっている。

 差し出された手を握ることもできず、助けを求めるようにレンカとピアニを見た。


「一応、魔法師としてはすごいみたいなの」


「うん。一応、雷狼族のラエル様お墨付き、みたいです」


「そ、そうなの?」


「「多分」」


 ふたりの不安そうな声が重なった。

 ケイトはますます不安になった。


「多分じゃない。全部ホントだろ。なんでそんな疑うんだ?」


 ケイトの父じゃないが、疑いたくもなる。

 見た目はどうみても魔法師高等学部と同じくらいの年齢。

 その歳で魔法師の教員資格を持っているのは、ハッキリ言って異端か天才のどちらかである。


 したがって、彼女たちにとっての第二のクイン・テリヌアスになりかねない存在と想えば、未だ警戒心が拭いきれないのも無理はないのだ。


「あ、あの、ナスカ先生。せっかくお誘いいただいたのですが、私、実はもう魔法師になるのを諦めようと思っていて…………」


「そうなのか? クイン先生のことは気にしなくていいんだぞ。僕のところにくれば、少なくとも彼女に干渉させるようなことはさせないつもりだ」


 きっぱりとした物言いに頼もしさを感じないと言えば嘘になる。魔法学校の他の先生たちは、ケイトたちがこっぴどく叱られていても、見てぬフリをしてきた。誰も実力ではクイン先生に勝てないとわかっているからだ。


 さすがにナスカ先生がクイン先生より強いということはないだろうが、それでも、魔法師の実力とは別のところで、この先生はきっと強いのだ。おそらく心が……とケイトは思う。


「あのね、先生、ちょっと聞いてくれる?」


「ケイトちゃんが大変なのです」


 そうしてレンカとピアニのふたりから、先程のやりとりも含めたケイトの話を聞き、ナスカ先生は腕を組んで黙り込んでしまった。


「なるほどね。クイン先生のことを切っ掛けとして、すっかり魔法師に対する固定観念ができちゃってるんだな」


『一度植え付けられた負のイメージはなかなか拭えるものではないでしょう』


「そうだよなあ」


 妖精の真希奈とナスカ先生の会話に三名は首を傾げた。

 いくつかわからない単語があったからだ。

 こていかんねん? ふのいめーじってなんだろう?


「ケイト、もう一度確認するが、キミが魔法師を諦めたいと思ったのは何故だい?」


「そ、それは…………、は、はじめはクイン先生が実技のお手本として、攻撃魔法を見せてくれたときなんです。先生が放つ『憎』の意志力が、あんまりにも怖くて……。私もあんな気持ちを抱かないと魔法師になれないんだって思ったら、なんだか魔法師そのものが嫌になってしまって」


「そっか」


 ナスカ先生はベッドに腰掛けるケイトに近づくと、その頭に手をおいた。


「ケイトってすごく気持ちが優しい子なんだな。普通、キミくらいの歳の子供だったら、魔法を早く習得したくて、その魔法が誰かを傷つける可能性があることまでは考えないものだ」


『非常に感受性が強く、他者の気持ちに共感しやすい心を持っているのでしょう』


 ナスカ先生と真希奈ちゃんの言葉は難しくて、でもそれが自分を労る意味なのだとわかって、ケイトの目からは自然と涙が溢れてきた。


「ごめんなさい、そしてありがとうございます。最後にナスカ先生みたいな方にそう言っていただいて、それだけで私は救われた気がします」


「いや、まだ諦めるのは早いぞ」


 なでりなでりと、どこまでも優しく頭を撫でながら、ナスカ先生は言う。


「みんなの前でも言ったことだが、攻撃魔法なんて魔法のほんの一面でしかない。僕の教育方針としても、キミたちには『愛』の意志力による魔法師を目指してもらうつもりでいるんだ」


「え? 『愛』の意志力、ですか?」


 ケイトはちらりとレンカやピアニを見た。

 ふたりも口をへの字に曲げている。

 ケイトには魔法師を諦めて欲しくない。

 でも、その教育方針には疑問がある。

 そう思っている目だ。


「お言葉ですがナスカ先生、魔法師になるということは、攻撃魔法の使い手になるということなんです。攻撃魔法が使えない魔法師は身を立てることができません。私の家は見ての通り貧しいです。父は護符づくりの職人ですが、生活は厳しくて。最初こそ父の助けになりたいと、魔法師学校に入って魔法師になろうと思いましたが、見ず知らずの他者に『憎』の意志力を向けて、危険な魔法を放つ魔法師に、私ははなりたくないんです」


 そこまで一気に言ってから、ケイトは大きくため息を吐き出す。

 ここまで言えばわかってくれるだろう。

 そう期待して見上げるケイトに、ナスカ先生は変わらない笑みを浮かべて言った。


「ケイト。僕は生徒の意見は尊重するし、むやみに相手を否定するやりかたはしたくない。だから、キミたちを課外授業・・・・に連れて行こうと思う。その授業を受けて、もう一度考え直してみて欲しい。その上でなお、キミが魔法師を諦めるというのならもう何も言わないよ。いいかな?」


「え、はい…………」


「よし。じゃあレンカ、ピアニもこっち来てくれ」


「なんですか課外授業って。というかいつまでケイトの頭を撫でてるつもりなの?」


「課外授業って、もうすぐ夕暮れなんだけど、どこにいくです?」


 ナスカ先生はケイトの頭からそっと手を離すと、三名を自分の前に並べた。


「じゃあいいか、今から僕がいいって言うまで絶対に目を開けないこと。いいかな?」


「変態なの」


「スケベ、です」


 レンカとピアニがすかさず突っ込む。

 ナスカ先生は「違うから!」と大慌てだった。


「一応僕のローブを強く握っててくれ」


「どさくさに紛れてどこを触らせるつもりなの?」


「先生、私達をお手つきにしないで、です」


「え――、お手つきって!?」


「違うから。クレスの姉ちゃんには(一応)何もしてないからな僕は!」


 言いながら三人を抱き寄せるナスカ先生。

 そして――――


「え」


 みんなの声が木霊した。

 頬に風を感じて目を開ければ、三名は知らない街に立っていた。

 明らかにナーガセーナではない。

 街並みが違う、道行く者たちの服装も雰囲気も違う。

 それに何より、獣人種の種族が違う。


「こ、ここは一体……?」


 さっきまで室内にいたのに、ほんの一瞬目をつぶっただけでまったく違う場所に連れてこられていた。これは魔法なのか。だとしたらどんな魔法なのか。


 諦めると宣言しつつ、見知らぬ魔法を使用されたと知れば知的好奇心がむくむくと湧いてくるのをケイトは感じた。


 ナスカ先生が肩に手を触れ、先に進むように促してくる。


 夕暮れ時にはまだ少し早い時間帯。

 それでも市が近いのか、大勢の買い物客で賑わっている。

 ふと、視線の先に一際長い行列が見て取れた。


 お年寄り、怪我人、病人。

 みんな静かに順番を守りながら並んでいる。

 列の先頭に誰かがいる。

 奇妙な椅子に腰掛けた、金色の髪をした耳の長い女の子。 

 あれは一体――――


「タケル」


 唐突に、その女の子が振り返った。

 彼女の顔を見た途端、ケイトもレンカもピアニも、息をするのも忘れた。


「突然ごめんな。少し時間もらえないかな、セーレス」


 セーレスと呼ばれた女の子は、ケイトたちに気がつくと、ニッコリと満面の笑顔を浮かべるのだった。

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