第204話 働こうよ改め働け篇⑥ 名奉行真希奈のお裁き〜激突・女王と龍王

 * * *



「デジカメが――いや、一眼レフが欲しい」


 できれば超広角のバズーカレンズも。

 天井まで吹き抜けになった、魔法学校の内部を見上げ、僕は切実な声で呟いた。


 この魔法世界に戻ってきて一ヶ月の間、僕は非常に無気力だった。

 その原因は地球での戦いのせいであり、僕は自身が恒星・・となったことで、一度自我が消し飛んでしまったのだ。


 それでも今こうしていられるのは魔族種の強さ故か、あるいは真希奈という万能OSがギリギリ、俺を守ってくれたおかげなのかもしれない。


 とにかく僕は彼岸へと渡り帰ってくる以上の経験をしてしまったことで、魔法世界に戻ってきてから一週間ほどは本当に頭の中が真っ白になってしまった。


 正直言うとエアリスやセーレスの名前を思い出すのも一苦労だった。あの一週間は本当に生きた心地がしなかった。…………不死身だけど。


 ずっと寝たふりを続けて、誰とも会話しないようにして、そうしていたら身体が勝手にニートだった頃が懐かしいとばかりに順応してしまった。


 折り悪く真希奈は地球に長期メンテナンスに出かけており、俺はエアリスが甘やかしてくれるがままに怠惰な生活を貪ってしまったのだった。


「まるで自分が小人になったみたいだな」


 見上げるばかりの大樹アーク巨樹は、地球でお目にかかったどんな大木よりも太く高く雄々しかった。


 改めて思う。僕は本来こういう・・・・のが大好きなのだ。


 人間とは異なった種族がいる世界。しかも魔法が存在する世界。まだ見たことのない種族、文化、風習、景色……。


 正直言ってわくわくがとまらない。一日中ほげーっとしてゴロゴロするのも好きだが、こうして知らない世界を歩くのもまた楽しい。


『タケル様タケル様、もしよろしければ真希奈が記録しておきましょうか?』


「マジで! できるの!?」


『もちろんです。出力するためにはモニターか、もしくは紙にプリントする必要がありますが、真希奈が見たものを画像データとして保存しておくことは可能です』


 もうすごすぎ。真希奈なしではもう生きられない僕。

「是非頼むよ!」というと真希奈は邪悪な笑みを浮かべた。あれ?


『記録するためにはタケル様の協力が必要です。慣れない画像保存は大量の魔力を消費します。なので逐一真希奈にキスを――』


「嘘つけ」


 さすがにそんなザル理論じゃ騙されねーよ?


『むうう! なんでなのですかー! せっかくタケル様とたくさんスキンシップできるようにこんな身体も用意しましたのにー!』


 だからだよ。元呪いの人形にキスしたいと思うもんか。いくら中身が愛娘でも抵抗がある。…………いや、だからって呪いの人形じゃなければ積極的にキスしてるって意味じゃないからね念の為。


「さて、下級生たちの教室は何階層って言ってたっけ……」


『ここからちょうど10カルルピ階分だと言っていました』


「んじゃ行きますか」


 風の魔素を足元に収束させて浮かび上がる。土の魔素によってその巨体を支えるアーク巨樹の中身は、ビックリするくらい風の魔素で満ちている。


 よく考えれば当然だ。樹は生きている。光と二酸化炭素を取り込んで光合成をしている。頭頂部に生い茂る青々とした葉っぱから発生した酸素を運ぶのは風だ。


 外皮を土の魔素、中身は風の魔素で満たされたこの建物アーク巨樹は、実に生き生きとして見える。


「しっかし、あの爺さん、僕の正体に気づいたかな?」


『当然、気づいているはずです』


 保健室っぽい部屋に運んでから間もなく、ベッドの上で目覚めたハヌマさんは、僕の顔を見るなり突然土下座をした。


あの方・・・と縁故の深いラエル・ティオス殿が是非にと勧めるからもしやと思っておりましたが、あなた様は次代の…………ははあ〜!』


 やっぱりディーオって有名人だったんだなあ、と思ってしまう。

 ヒト種族の街に住んでいた頃は全然だったが、獣人種の領域に入ってからアイツの影を意識しないときはない。これで魔族種の領域に行ったらどうなっちゃうんだろう、と思う。


「ハヌマさん身体は大丈夫かな。あんな噴水みたいな鼻血初めて見たんだけど」


『――ライブラリ検索、推手路すいしゅろ畢竟ひっきょう地帯デルデ高地を住処とする獣人種、猿飛族が拮抗した実力者と魔力を練り上げるために編み出したとされる技法、及び医療技術』


「医療技術?」


『病気や怪我で、自身の魔力が減退した者と行うことで、自分の魔力を相手に分け与え、活性化させることができるそうです』


「ほほう。それはそれは」


 いいこと聞いた。今後誰かれ構わずキスする必要がなくなるぞ。


『ですが本来は自分と格が同等の者と行うことで、魔力の循環と充溢じゅういつを図る技法のようです。ですのであまりにも互いの魔力量に隔たりがある場合は、強制的にを断つよう訓練もしているようです』


「あの鼻血はブレーカーを慌てて落とした結果なのか」


 むしろ鼻血でよくぞ済んだといったところか。

 あの爺さんも魔法学校のトップに立つくらいなんだから、かなりの実力者なんだろう。僕をひと目見て、自分と同格程度以上の実力者と見抜き、推手路を仕掛けたと。


『ですが同格どころか、今のタケル様と魔力でつながろうとするなど自殺行為です。うっかり受け止めようと扉を開いたら、海がまるごと押し寄せてきたようなものです』


「こりゃあ、僕の方でも気をつけないといけないなあ」


 地球じゃあ魔力の存在を感知できる人間なんてごく僅かだった。だが魔法世界は未だに新生児の2割に魔力が備わって生まれてくるのだという。地球にいたときよりずっと、魔力の強いモノには敏感なはずなのだ。


「――――と、ここか?」


 本来ハヌマさんと一緒に迎えに来たはずが、僕の見た目に勝手に失望した高慢ちきな女教師が担任を務める教室は。


 正直言おう。そんな女は超苦手だ。元ニートの引きこもりにはあまりにも荷が勝ちすぎる相手だろう。


 だがまあ頑張って仕事と割り切ろう。『元』と言った通り僕はもうニートではない。この仕事を見事成功させた暁にはきっとエアリスやセーレスを養うに足る男になれるはずだ。僕も成長したなあ。



 各フロアは内壁に増築される形で作られている。

 転落防止用の高い柵を乗り越えてフロアに降り立つ。

 そして目当ての教室に近づこうとした僕はピタリと足を止めた。


「おいおい…………なんで『憎』の意志力が教室から?」


 かなり強い『憎』の意志だ。僅かな火種でもあれば爆発しそうな火薬庫を彷彿とさせる。そして僕は室内から漏れ聞こえる話し声に耳を澄まし――――


『タケル様!?』


 真希奈の声も届かない。

 僕は扉を開けた、と思う。

 だが扉の感触も重さもまるで感じなかった。

 感じる前に扉そのものが木っ端微塵になったからだ。


 教師にあるまじき邪悪な『憎』の意志。

 それを子供たちに注ぐ女が立っている。


 僕は――――笑った。

 相手が憎くてしょうがないとき、自然と笑みが溢れるのだと初めて知った。

 僕は彼女に笑みを向けたまま、教室内へと一歩を踏み出した。



 *



「……何事!?」


 僕を認めた途端、女が狼狽えたのがわかった。

 名前は確かクイン・テリヌアス、だったか。

 真っ白い羊角が特徴的な美人ではある。

 ん? 獣人種だから美獣か? まあいい。


「初めまして。クイン先生。ナスカ・タケルです」


「……別に名前を聞いたわけではないのだけれど?」


 狼狽えていたのを隠すよう、彼女は腕を組み、尊大に僕を見下ろす。

 だが気づいているはずだ。教室内に充満していた自分の『憎』の意志力が綺麗に塗りつぶされていることに。


 どれだけ強い意思力だろうと僕には関係ない。

 小さな火は燎原の炎には適わない。

 雨粒は大海に飲み込まれる。


『憎』の意志も然り。より強い『憎』の意志を前にかき消されてしまう。即ち、僕が一瞬だけ放った強大な『憎』の意志力に、教室の全員がビビってしまったのだ。そしてそれはクイン先生だって例外じゃない。


「それは失礼しました。先程この学校に到着したばかりでしてね。遅ればせながら着任の挨拶に伺ったんです。ですが――これは一体どういう状況ですか?」


 三十名近い子供たちが異様な程の『憎』の意志を放ち、教壇の前にいる六名の子供たちに注いでいた。


 子供たちひとつひとつの『憎』の意志は小さいまでも、それが寄り集まれば強い意志力となる。それらを一身に受けていた六名は可哀想に、すっかり萎縮して震えてしまっている。


「指導の一環です」


 そんな六名の子供たちの怯えを意に介さず、クイン先生は一言に断じた。


「今日着任したばかりのあなたには関係のないことよ。引っ込んでなさい」


 そうはいかないんだよこの野郎。


「関係ないことはないでしょう。僕は副担任としてこの教室に着任する。つまりこの教室の子供たちは僕の生徒でもあるんだ」


 室内を見渡す。初等教室と言う通りここにいる子供たちは皆、本年度から各種族から選ばれて来た粒ぞろいの子たちだ。


 その種族構成も多種多様で、赤猫せきびょう族や黒猫こくびょう族、狐影こえい族、白兎はくと族、灰虎はいこ族、犬臣けんしん族、黄豹おうひょう族、などなど様々である。


 それにしてもみんなちっちゃくていい毛並みをしている。モフモフしたい。


「出しゃばらないでくれるかしら。あなたは私の後ろに下がり、決して私の影を越えないよう、私の指導を見守っていればいいんです」


「聞けませんね。それはあなたの勝手な言い分でしょう。僕はそんな契約でこの学校に来たわけじゃない」


「では、どのような契約で来たというの……?」


 最初の狼狽もどこへやら。クイン先生は再び『憎』の意志力を滾らせながら、挑むように僕へと食って掛かる。目の前のムカつく女に対して、僕もまた言葉を選ばずに告げた。


「調子に乗ってる馬鹿女を実力で懲らしめてやってくれってさ」


 おどけた感じで言ってみる。

 もちろん、そんなことは言われてなどいない。


 だが僕がわざわざ数ある教室から、この女の部下をやらされるということは きっとそういう意図が含まれているのだと思う。


「ふ――――ふふ」


 彼女が笑った。

 ああ、わかるよ。

 本物の憎悪を抱いたときとは、そういう顔になるよな。

 相手を下に見るように蔑みながら、顎を逸らせ、そして口元は酷薄に釣り上がるのだ。


 僕にも覚えがある。相手を今すぐ八つ裂きにしたくなると、ヒトとは笑うのだ。こみ上げてくる破壊衝動と最も相性がいい笑いという手段で、自身を鼓舞しながら相手を威嚇する。今のクイン先生がまさにそんな顔をしていた。


「……そう、そんなに私とりたいのね?」


 彼女の全身から発散されていた『憎』の意志力。

 それは間欠泉から立ち上る水蒸気のようなもの。


 そして全身の経穴とも言うべき孔から溢れるのは、彼女自身が持つ生命エネルギーの発露――――つまり魔力だった。


「没落の劣等種族の分際で、白羊族随一の魔法師である私を侮辱するとは――覚悟はできてるんでしょうねっ!?」


 教壇の前の六名も、他の子達も、そんなクイン先生の脅し文句に、教室の隅っこに逃げてガタガタと震えている。


 殺意を向けられている当の本人である僕と言えば――正直ドン引いていた。

 リアルでそんな俺様なセリフ言うヒト初めてみたよ。

 ホント、自分がエリート中エリートだと信じて疑ってないんだろうなあ。


「僕が没落種族であろうと関係ない。クイン先生、今すぐあの子たちに謝ってください。教育者として以前に、あなたは獣人ひととして間違っている」


 僕がハッキリそう告げると返答は『熱量』だった。

 彼女の手の中に炎が生まれる。


 その炎はそこに存在しているだけで教室を丸ごとあぶり出すような熱量を放ち始める。見かけに見合わない巨大なカロリー魔力。なかなかやるねえ。


「あ、謝れですって? そのクズ共に私が? あなたみたいな愚か者初めてだわ。私の教育方針を間違っていると言う者はこれまでもいた。その全てを私はねじ伏せてきた。あなたもそうしてあげるわ――――!!」


 来る。『憎』の意志力が膨れ上がる。彼女は自身の手の中に生まれた炎を解き放とうと頭上に振りかぶる。だが――


「無理ですよ。そんな小さな炎で・・・・・・・・なにをどうするって言うんです?」


「――――えッ!?」


 彼女は慌てて自分の手を見た。たくましく燃えていた炎は小さくなり、やがては消えてしまった。教室に燻っていた熱もまるで洗い流されるように、どこからか吹いてきた風に攫われて消失する。


「ウ、ウソ、どうして…………まさかあなたがやったの!?」


「さて、なんのことですかね?」


 しれっとした顔で首を振る。

 だが当然、何かしたのは僕だ。


 魔素励起前の透明な状態、魔素情報星雲エレメンタルクラウドを使い、秘密裏に炎の魔素に干渉――奪い去ったのである。


 魔力を過度に注いで自爆させる技は、周りに子どもたちいなかったらやっていたかもしれない。自分の生徒をクズ呼ばわりする彼女に、僕もそれくらい腹を立てているのだった。


「あなたは確かに優秀だそうですね。ですが、優秀な者が優秀な教育者になるとは限らない。いい加減あなた自分の非を認めたらいかがですか?」


「はッ――、まるで私の教育方針が間違っていると言いたいようね!?」


 言ってんじゃん思いっきり。

 皮肉が通じないって困るなー。


「そもそも魔法師共有学校の理念とは、種族間格差にらない、共通した人材育成と人格教育にあったはずですよね。できる子、できない子がいるのは当然として、それでも平等に教育していくことが教師には必要なんじゃないですか?」


 学校のパンフレットを流し見ただけの知識だが、むしろその考えは地球育ちの僕には馴染みが深いものだ。そらんじて告げてみる。だが彼女も強情だった。


「魔法師は実力の世界。今のうちから峻別しゅんべつするのは必要な行為です。そして才能の無いものは淘汰されていく。他の者たちの足を引っ張る前に、切り捨てていくしか無いのよっ!」


 おいおい、この先生わかってるのかね。

 それって自分の指導力不足を告白してるのと一緒だぞ?


 才能のある子どもは放っといても伸びていくだろう。

 才能のない子どもをこそ導いていくのが教育者じゃないの?


「クイン先生の言う才能ってなんですか?」


 僕がそう質問すると、彼女は一点の曇りもなく告げた。


「そんなものは決まっているわ。攻撃魔法の才能よ。これができなければ、魔法師は魔法師足り得ない。獣人種の世界は常に他種族の侵略に備えなければならない。魔獣族モンスター然り、ヒト種族然り。あなたの種族――灰狼族だって魔獣族モンスターの大軍団に抗えず滅んだはず。それなのに灰狼族の元領地を我がものとした張本人であるラエル・ティオスに尻尾を振っているだなんて。情けないとは思わないのかしら」


 初耳だった。

 そんなバックストリーがあるなら教えておいてほしかったぞラエル。

 まあ今はどうでもいい。


「攻撃なんて魔法の一面でしかない。それよりもこんな幼いうちから『憎』の意志を醸成させれば、人格形成の妨げになることだって考えられる。今は魔法を使うことの楽しさを重点的に、その危険性と『愛』の意志力を教えていくべきだ」


「はッ――――『愛』の意志力!? そんなもの戦場ではなんにも役に立たないわ! 戦場いくさばに立ったこともないような若輩者の分際で偉そうなことを言わないでちょうだい!」


 この女ぁ……!

 本気で怒りがこみ上げてくる。


『愛』の意志力が『憎』に劣ることなど絶対にない。

 セーレスやセレスティアが放つ癒やしの水魔法は『愛』の意志力の成せる業だ。


 その究極の形である固有魔法アクア・ブラッドは、時間の流れにさえ逆らって対象者を守る絶対強固な揺りかごとなる。


 暴走したセレスティアを救い出したエアリスの風魔法だってそうだ。

 直前にはアウラを討たれていたにもかかわらず、エアリスの中にあったのはセレスティアを愛し、慈しむ心だけだったという。


 だからこそ、アクア・ブラッドさえ打ち破るほどの究極の風魔法を紡ぎ出すことができたのだ。


 いや待てよと思う。

 僕の傍らにはエアリスとセーレスがいた。


 クイン先生には、『愛』の意志力を体現してくれる相手が周りにいなかったのかもしれない。『憎』の意志力による魔法の中でばかり育ったら、きっと彼女のようになってしまうのだ。


 ならば尚の事、彼女の教育の果てに待つものを、彼女にこそ教えなければならないだろう。


 でも今のままではダメだ。彼女の間違いを正すにはどうすればいい? 今更僕が自分の正体を明かして、上からモノを言ったところで根本解決にはならない。本当に困った。うがー。


『話は全て聞かせてもらいました――――!!』


 重い空気を一刀両断する声だった。

 対峙する僕らの間に小さな影が割って入る。


 黒髪おかっぱ頭が可愛らしい、1/7ビスクドール真希奈ちゃんだった。

 パタパタと羽(後付け)を動かし――実際は僕の魔力を使って浮遊している。


『提案します! 今から半月後に行われる来期魔法師初等試験で勝負をしましょう!』


 はい? いきなり出てきて何言ってるのこの子?


『クイン先生はどうぞ今まで通りの指導で生徒を合格に導いてください。タケル様はそちら、先生が切り捨てようとしている六名の子供たちを全員上位の成績で合格させてみせましょう! ご自分の教育に自信があり、なおかつ才能に溢れる子供たちだと言うのなら、全員が優秀な成績を修められるはずですよね! いかがでしょう!?』


 しーん、と。

 教室中が静まり返る。


 教室の隅っこで震えていた子供たちもクイン先生も誰もかも、目ン玉をひん剥いて真希奈を凝視している。あ、なんかデジャヴ。


「ま、まさか、ただの人形だと思っていたのに、それは――」


 戦慄く指先で真希奈をさして、クイン先生が絶叫する。

 そうそう、その子実は精霊――――


「妖精種だったのねっ!!」


 わーい。もうそれでいいや。


『ふ。如何にも真希奈はこの仮初の身体に宿る妖精の如き無垢な心を持ったタケル様に抱かれたい娘ですが何か?』


 みんな騙されるなー。

 意外と煩悩強いぞうちの娘は。


 そうこうしているうちに真希奈はすっかり子供たちに取り囲まれてアイドルみたいに崇められていた。


 積極的に手を触れようとするものはおらず、みんな真希奈の周りで夢見るような表情でうっとりしている。


 あのクイン先生でさえも、僕が連れていた人形が妖精だと思い込んで悔しそうに僕を睨んでいた。


『というわけでよろしいですね! ふたりの魔法指導力の勝負です!』


「わかったわ。受けて立ちましょう!」


 わー、パチパチパチ!

 あんなにギスギスしていた空気から一転、万雷の拍手だった。

 こんな着地地点、僕だって想定してなかったよ。


『タケル様ー、というわけでがんばりましょうね!』


「お、おう」


 学校に着任してからこっち、おいしいところを全部真希奈に持っていかれて、ちょっと僕は面白くない風味に返事をするのだった。

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